Luis Castilla

 

先鋭化する始原のパトス

 フラメンコと言えば、靴底で床を激しく踏み鳴らすサパテアード、そして手首を回す独特の腕使いブラソをまず思い浮かべる。とくにサパテアードは、文化の違いを超えてどうしてこれほどまでに多くの人の心を掻き立てるのか。床を足で叩くリズム楽器のような仕種は、何もフラメンコだけの特権ではない。北インドには何百の鈴を付けた足で床を踏むカタックという魅力的な舞踊があるし、アメリカから世界に広まったタップダンスがあり、身近なところでは東北地方の山伏神楽もある。しかし靴底の爪先と踵に無数の釘を打ち付け、まるでその一本一本に想いが宿るかのように、情念がほとばしるのはフラメンコだけだ。そして、現代のフラメンコは、ソロ、デュオから群舞に至るまで、激しさがスタイリッシュな輝きに昇華される。パフォーマンスとしてこれだけ先鋭化しながらも、始原のパトスを失わないのがフラメンコの魅力である。

 今回のフラメンコ・フェスティバルの2演目は、そのことを堪能させてくれる絶好のチャンスである。なにしろ音楽と舞踊双方で生え抜きのメンバーが来日する。サラ・バラスによる『ボセス フラメンコ組曲』は、不世出のギターリスト、パコ・デ・ルシア、フラメンコを無二の舞台芸術に高めたアントニオ・ガデス、伝説のダンサー、カルメン・アマジャなど6名の巨匠たちそれぞれに捧げられたフラメンコ組曲。捧げられた人にあわせて曲想と踊りが変り、舞台の色調を変容させてゆく。一人ひとりの技術の高さは言うまでないが、見所はやはり圧倒的な人気と実力を誇るサラ・バラスのソロだろう。彼女の放つオーラは天性のものとしか、いいようがない。

 もう一つの演目『イマヘネス』は、アンダルシア・フラメンコ舞踊団の20周年記念作品として、芸術監督ラファエラ・カラスコがつくりあげたもの。芸術性と卓越した技術が抱合し、映像を使いつつ、イメージ(つまり「イマヘネス」)豊かなフラメンコの粋を見せるページェントである。二度の来日を含め、数多くの海外公演を成功させてきたこの舞踊団の底力を多面的に開示する。

 このフラメンコ・フェスティバル、最高のダンサー集団と卓越したミュージシャンたちが怒濤のように押し寄せる、と言っても過言ではない。現代フラメンコの魅力を、個人技としても、集団が醸すトータルなスペクタクルとしても提供してくれる稀な機会になるはずである。

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