悲しみも痛みも苦しみも、すべてを洗い流してくれる澄み切った歌声が、温かいエレポップ・サウンドと共に私たちを包み込む。さあ、心の目と耳をめいっぱい開いて、本当の自分と向き合ってごらん
みんなが共感できるんじゃない!?
グラスゴーから登場したエレクトロ・ポップの期待の星、チャーチズ。2013年のデビュー作『The Bones Of What You Believe』が全英でゴールド・ディスクを獲得するヒットとなり、全米チャートでも12位を記録。そして2年間に渡って世界各地で364公演を行うほどの人気バンドとなった彼らに、セカンド・アルバム『Every Open Eye』の完成に合わせて話を訊いてみた。
「前作が多くの人に気に入ってもらえたのは、ソングライティングの部分がさまざまなリスナーとマッチしたからじゃないかな。音楽的にはとてもパーソナルなものを追求していたけど、歌詞に関してはパーソナルでありながら、いろんな人が共感できる普遍的なものだったと思っている。シンセ系のバンドって本当の自分を表現せずに、楽曲からもファンからも距離を置いている感じだけど、僕たちはそうじゃない。だから、みんなが共感しやすかったんじゃないかと思うよ」(マーティン・ドハーティ、キーボード)。
「新しい音楽を提供できたかどうかはわからないけど、私たちのレトロなサウンドがリスナーにとって新鮮だったんじゃないかしら。聴き心地はエレクトロニックなんだけど、楽器や機材はアナログなものを使っているし、そうすることで真の感情を取り込もうとしているのよ。そういう部分があるからこそ、多くの人が私たちの楽曲とコミュニケーションを取ることができるんじゃないかな。そのスタイルは新作でも変わっていないわ」(ローレン・メイベリー、ヴォーカル)。
前作と同様に今回のレコーディングも自分たちのスタジオで行い、時間も経費も気にすることなく作業に没頭できたという。また、ヴィンテージ・シンセのジュピター8を全体で使用したほか、デイヴ・スミスのプロフェット08とプロフェット12、コルグのポリシックス、ムーグのソニック6といった多数の鍵盤を用いることで、ワクワク楽しみながら曲作りに向かえたとも語ってくれた。
「前作との違いで言えば、僕はヒップホップやR&Bが大好きで、ファースト・アルバムにはその影響が結構出ていたと思うんだよね。でも今回はどちらかというと、ダンス・ミュージックの世界に踏み込んだ気がする。このアルバムを作る時に、アンダーワールドとか90年代のハウスやテクノをたくさん聴いていたからね。『Every Open Eye』を総体的にじっくり聴いてもらうと、小さな変化かもしれないけど、あきらかに違いは出ていると思う」(マーティン)。
自分の道は自分で決める
さて、チャーチズは歌詞も高く評価されてきたグループ。恋愛、特に破局の場面を切り取るのに長けたイメージなのだが、ローレンは「みんなの好きなように聴いてほしいから」と前置きしつつ、次のように説明する。
「“Leave A Trace”や“Playing Dead”は、ネガティヴだったり、アグレッシヴなエナジーから始まったと思う。でも誰かと別れて傷ついたとか、そういう状況を限定しているわけではないし、辛い時期について歌っているわけでもないの。誰もが普段の生活で抱えているような問題を取り上げたわ。それに対して“Clearest Blue”や“Down Side Of Me”は、もっと前向きな曲よね。物事に関して〈ポジティヴな見方をしよう〉〈希望を持って前進しよう〉と歌っているの」。
ちなみに、発言にも出てきた“Leave A Trace”を先行シングルに決める際、メンバー間ではすぐに意見が一致したとか。
「この曲は30分ほどで書き上げたんだ。それは素晴らしい時間で、コードもメロディーもリズムもトントン拍子で決まったんだよ。もちろん、プロダクションにはじっくり時間を費やしたけどね。シングルに選んだ理由はアルバム中でとてもパワーのある曲だし、メンバーもスタッフも好きな曲だったから。つまり、みんなが自信の持てる曲だったんだよね」(マーティン)。
「この曲は〈自分が何をするか、どんな人間になるのか〉について、人から指図されずに〈自分の道は自分で決める〉という内容なの。アルバム全体をまとめたような曲だと思ったから、シングル・カットするのにピッタリでしょ!? 明るい部分がありながらも、アグレッシヴでダークでもある。明暗の両面を持った曲よね」(ローレン)。
そして、アルバムのタイトルは“Clearest Blue”の歌詞から取られた。
「〈Clearest Blue〉という言葉の響きも意味も好きで、そういったニュアンスをタイトルに入れたいと思っていた。〈Every Open Eye〉には、自分たちへのメッセージも込めらているんだ。前作を出してから僕たちの状況は変わり、期待やプレッシャーをかけられるようになった。それに対して目を見開いている状況を表した言葉でもある。もうひとつは、みんな同じ世界に立って物事を見ているという壮大なアングルだね。さらに歌詞の内容により近いものでいうと、視野の狭いなかで何かに目を向けている状況について。その3つの方向性から成り立っているタイトルだと思う。リスナーには、そこから自分にもっとも合うフィーリングを感じ取ってもらえたらいいな」(マーティン)。
最後に、「必ず近いうちに日本へ戻るからね。その日が待ち遠しい」と話していた彼ら。3度目となる来日公演を期待しながら、いまはまず『Every Open Eye』を楽しみたい。