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チャーチズの初作『The Bones Of What You Believe』が10周年!

 グラスゴー出身のエレクトロ・ポップ・トリオ、チャーチズ。今年は1月に来日公演を開催し、2月に新曲“Over”を発表、夏以降はローレン・メイベリーがソロを始動するなか、ファースト・アルバムの10周年を記念した2枚組『The Bones Of What You Believe (10 Year Anniversary Special Edition)』が届いた。本作には、最新リマスターが施されたオリジナル収録の12曲に加えて、未発表曲と2013年のライヴ音源も収録。アルバムには未収、さらにライヴでは約10年に渡って演奏されていない“Now Is Not The Time”のライヴ・ヴァージョンなど、レアな収録曲にファンは喜ぶはずだ。

CHVRCHES 『The Bones Of What You Believe (10 Year Anniversary Special Editions)』 EMI/ユニバーサル(2023)

 メイベリーは本企画に際して〈もう10年経つなんて不思議。ついこの前のようで、ずっと前のような気もする〉と語っている。振り返ると『The Bones Of What You Believe』がリリースされた2013年、UKのインディー・ロックは活況とは言えなかった。アークティック・モンキーズは傑作『AM』で王者の風格を見せ、サヴェージズやパーマ・ヴァイオレッツら新星が登場していたものの、2010年前後の百花繚乱っぷりから比較すると、不作という感は否めなかった。そのなかでチャーチズはどう捉えられていたかというと、いわゆる〈インディー〉の潮流とは少し外れた、ポップス志向の強いバンドというイメージだったように思う。同じ年にデビューしたThe 1975と同様、彼らの視線はスモール・サークルではなくピープルを向いているような印象で、それが興味深かった。

 そうしたサウンドとは裏腹に、男性メンバーのイアン・クックとマーティン・ドハーティは、ケミカル・アンダーグラウンドからリリースしていたエアログラム、フライトゥンド・ラビット人脈のトワイライト・サッドといったバンドに2000年代より関わっており、かの地のハードコアなインディー畑出身というのもユニークだった。これらのバンドを抜けたあと、2人は電子音楽の制作を始め、2011年に本ユニットを結成。そこにメイベリーが加入した。

 “The Mother We Share”“Recover”“Gun”という先行シングルを経て発表された『The Bones Of What You Believe』は高く評価され、全英TOP10入りするなど商業的にも成功。人々を惹きつけたのが、快楽指数の高いメロディー、そしてメイベリーのキュートな歌声であることは間違いない。ただ、ドハーティが歌う“Under The Tide”“You Catch The Light”にも独特のエモさがあり、作中のスパイスとして効いていた。今回の10周年記念盤で公開された未発表曲のひとつ“Manhattan”も彼がヴォーカルを担当。キャリア最初期に出来たものらしく、チャーチズの原型を伝えてくれる一曲だ。

 また、アルバムにおけるトラックメイクの妙も改めて認識したい。80年代のエレポップから時流のEDM~トラップまで多様な参照点を匂わせつつ、チージーすぎない塩梅がいい。ソーマやラッキーミーといったレーベルを擁し、ダンス・シーンの重要な磁場であり続けるグラスゴーのマナーをどこか感じ取れる音作りなのだ。

前述したように現在、メイベリーはソロで動いているが、彼女は同時に〈チャーチズの物語にはまだ書かれていないページがある〉とも発している。今回の10周年記念盤や彼女のソロ曲を楽しみながら、未来のチャーチズが鳴らす音を想像していようじゃないか。

チャーチズのアルバムを紹介。
左から、2015年作『Every Open Eye』、2018年作『Love Is Dead』、2021年作『Screen Violence』(すべてGoodbye)