故郷のアメリカ中西部の大自然を描いた、壮大な音楽叙事詩
2012年のオペラ歌手ドーン・アップショウとのグラミー賞を受賞した『Winter Morning Walk』以来、ジャズ・オーケストラ作品では2007年の『Sky Blue』から長く待ち望まれたマリア・シュナイダー・オーケストラのニュー・アルバムがやっとリリースされた。
タイトル曲の《The Thompson Fields》は幼い日を過ごした故郷の友人の農場の思い出をモチーフに2009年に発表され、最新の《The Monarch and the Milkweed》も2013年には初校が書かれており、2014年夏のレコーディングまで、各地でのコンサート、綿密なリハーサルを繰り返し、熟成させてきた。まさに、満を持して完成させた大作である。チェンバー・ミュージックの前作の収録曲をジャズ・オーケストラにリアレンジしたオープニングの《Walking by Flashlight》から始まり、タイトル曲を核として、父の死に際して書いた《Home》、故郷の自然を描く《Nimbus》、オーケストラ結成時からの中核メンバーで2013年に逝去したローリー・フィンク(tp)に捧げた《Potter's Song》に到るシークエンスは、シュナイダー自身が曲間の時間設定にも、こだわり抜いたと語る。本人は、クラッシック曲を手がけた影響は、今はあまり感じていないと言っているが、曲がまるで組曲のごとくシームレスに繋がり、壮大な大自然を喚起する。ブラジル音楽の巨匠パウロ・モウラ(cl,sax)のサンバ・スクールの思い出を描いた《Lembrança》で、激しいリズムとハーモニーが交錯して大団円を迎える。アルバムのインナーというよりは、ブックレットと言える62ページにも及ぶ、故郷のミネソタ州ウィンダムに於けるシュナイダー自身のポートレート、風景、音楽と並んで愛してやまないバード・ウォッチングからの美しい鳥たちのイラストが、シュナイダーがこの作品に込めたナチュラリストとしての世界観を、音楽と一体となって語りかけてくる。