インタビュー

マリア・シュナイダー(Maria Schneider)『Data Lords』キャリア初の2枚組で陰陽を描いた5年ぶりの新作!

Maria Schneider @ New York University, 2019. ©Takehiko Tokiwa 2019年8月24日、『Data Lords』レコーディング直前のリハーサル風景

マリア・シュナイダー5年ぶりの新作は、2枚組で陰陽を描いた、新たなストーリーの出発点

 2015年にグラミー賞にも輝いた『The Thompson Fields』をリリースしてから5年。マリア・シュナイダー・オーケストラのニュー・アルバムが届いた。彼女のキャリアの中で初めてのスタジオ録音のダブル・アルバム『Data Lords』である。2008年からのソプラノ歌手、ドーン・アプショウとの室内楽作品でグラミー賞のクラシック部門を受賞した『Winter Morning Walks』、2014年のデヴィッド・ボウイ(vo,g)とのコラボレーションの“Sue (Or In A Season Of Crime)”、そして2000年の『Allégresse』から始まった、ジャズでストレートに歓喜と美しさを表現するフォーマットの集大成である『The Thompson Fields』という、この20年のシュナイダーの音楽が凝縮された大作だ。 「デヴィッドとの共演は、エキサイティングな経験だったわ。彼は私の音楽を熟知していて、初期作品の“Wyrgly”や“Dance You Monster To My Soft Song”(94年発表のファースト・アルバム『Evanescence』に収録)のようなダークな色彩を帯びた曲がお気に入りだった。ダークで緊張感の高い曲はしばらく創っていなかったけど、デヴィッドに言われて改めて取り組んでみたのよ。そしてデヴィッドの音楽に対して、けっしてリスクを恐れないチャレンジングな姿勢が、私の背中を押してくれた」。それが結実したのが1枚目の〈The Digital World〉だ。

MARIA SCHNEIDER JAZZ ORCHESTRA 『Data Lords』 ArtistShare(2020)

 「私たちミュージシャンは、違法ダウンロードやファイル・シェアなど、初期段階からデジタル化された世界に搾取されてきた。私は米国議会の公聴会で証言をしたりと、長い間この問題と戦っています。今やビッグデータ・カンパニーは、人々の情報を集め、その嗜好をコントロールし、考えにも大きな影響を及ぼしている。その危険性を描いた “Don’t Be Evil”(2015年に取り下げられたグーグル社の非公式モットー) 、そして故スティーヴン・ホーキング博士が予言した、AIが人類を凌駕するシンギュラリティへの恐怖を表現した“Data Lords”。かつて人々の心にゆとりがあり、直接会話をしたり電話で話したりして交流するのがメインだった失われた世界への郷愁と、インターネットが発達し、自分と相反する意見を拒絶するキャンセル・カルチャーが跋扈する、現代社会の孤独感を込めた“A World Lost”。“CQ CQ, Is Anybody There?”は父に捧げた曲。かつての遠方とのコミュニケーション方法であり、亡き父がこよなく愛したハム無線とモールス信号をモチーフにしています。この曲は、デヴィッド・ボウイとのリズム・セクションとダニー・マッキャスリン(テナー・サックス)らとの実験的なリハーサル・セッションから生まれました。大国間から企業間へと移行した宇宙開発競争を12音階の変奏曲で表す“Sputnik”といった、今まで表現しなかった現代の社会問題をテーマにしています」とシュナイダーは熱く語る。

 その対極にあり陰陽をなすのが、2枚目の〈Our Natural World〉だ。2017年の来日コンサートの後に訪れた京都大原の三千院に魅了されて書いた“Sanzenin”。陶芸家ジャック・トロイの、小石の入った陶器を振って音を愉しむ作品「石の囁き」にヒントを得て創作し、シュナイダー自身が「かつて書いたことのないタイプの曲で、このアルバムの中で最も気に入っている」と話す、インタラクティヴな小編成が魅力の“Stone Song”。そして2000年以来追求している音楽で歓喜と美を描く“Look Up”“Bluebirds”、自然と調和する人々を描いたテッド・クーザーの詩にインスパイアされた『Winter Morning Walks』(2014年)からの再演の“Braided Together”“The Sun Waited For Me”など、シンフォニックな佳曲が並ぶ。シュナイダーは「音楽は人生の結果です。食べたものや、読んだ本や、聴いた音楽が肉体や精神に深く影響を与えるように、音楽も人生の経験から形づくられるのです」と言う。マリア・シュナイダー・ミュージックの新たな地平が、いま大きく広がっている。

 


マリア・シュナイダー(Maria Schneider)
1960年11月27日、米国ミネソタ州ウィンダム生まれの作曲家。ミネソタ大学やマイアミ大学、イーストマン音楽院で音楽理論と作曲を学び、その後ギル・エヴァンスとボブ・ブルックマイヤーにアレンジを学ぶ。1993年に自身が率いるマリア・シュナイダー・ジャズ・オーケストラを結成。多数のグラミー賞受賞歴を誇る。

関連アーティスト
TOWER DOORS