セッション録音による大作オペラ全曲盤はこれが最後!?
2005年、アントニオ・パッパーノ指揮によるワーグナーの楽劇『トリスタンとイゾルデ』全曲のセッション録音盤が当時のEMIから発売された。好評を博したがオペラ好きの間では「大作オペラ全曲のセッション録音盤はこれが最後か」と囁かれた。あれから10年。再びパッパーノ指揮のオペラ全曲セッション録音盤が登場した。しかも作品はヴェルディの超有名オペラ『アイーダ』。奇しくも『トリスタン』同様、「愛」「裏切り」「死」の物語である。オーケストラはパッパーノの手兵ローマ聖チェチーリア音楽院管弦楽団。2015年2月に行った演奏会形式上演と並行する形で録音セッションが組まれた。
ANTONIO PAPPANO,SANTA CECILIA ACADEMY ROME ORCHESTRA ヴェルディ歌劇「アイーダ」全曲 Warner Classics(2015)
まず聴きものはパッパーノの指揮。独唱・合唱との呼吸に留意しつつ「凱旋の場」などの山場ではオーケストラを気前よく鳴らし込む持ち味が冴え、立体的かつ量感たっぷりのサウンドが展開。一方ラストなど静のドラマでの繊細な歌い回しも美しくゾクゾクするムードを醸し出す。
次に歌手陣。パッパーノは2013年ザルツブルク音楽祭の『ドン・カルロ』(ブルーレイあり)で成功したハルテロス、カウフマン、セメンチュクの多国籍キャストを今回も主役に起用。気品漂う歌い口のハルテロスの題名役と甘くしかもシャープに響き渡る声質のカウフマンのラダメスは録音で聴く『アイーダ』にピッタリのキャスティング。またスターバリトンのシュロットをランフィス役に迎えているのは豪華。
注目の音質も高水準。「凱旋の場」のグワっと大きく拡がる音場や時折繰り出される独唱や管打楽器の思い切ったクローズアップはいわゆるレコード黄金時代の名録音を想起させる生々しさ。演奏から音質まで「レコード芸術」と言える出来栄えのこの『アイーダ』全曲盤。今度こそ「最後の大作オペラ全曲のセッション録音盤」となるのか。筆者は最後どころかすみずみまで聴く喜びに満ちた本盤がこの形態の新しい可能性を拓いたと感じている。