――あなたの歌にインスピレーションを与えた〈楽器〉、もしくは〈楽器奏者〉について教えてください。

マイルス・デイヴィスチャーリー・パーカーからは大いに影響を受けています。ヴォーカリストが管楽器を演奏するように歌う(その逆も然り)のは、とてもいい勉強になります。ウェイン・ショーターハービー・ハンコックからも、物凄くインスパイアされています」

〈Supreme Collection〉収録曲、ウェイン・ショーターのカヴァー“Juju”のパフォーマンス映像。ここではカマシ・ワシントンやロナルド・ブルーナーJrが参加

 

――以前からボサノヴァやMPBの曲をよく歌っていますよね。原曲の魅力を活かしながら、これらの曲を軽やかにあなたらしく歌うために、技術的にどのようなことを意識していますか?

「ブラジル音楽では、主にジョアン・ジルベルトの影響を受けていると言えます。そのピッチ、トーンやリズムは驚くほど明確で、言葉遣い(表現方法)は一見シンプルだし、まるでそれら(ピッチなど)すべての上を浮遊しているみたいだけど、とても思いやりに溢れていて正確なんですよね。どんな曲であっても、歌を通して自分だけのストーリーを表現することでその曲に敬意を表す――それが私のめざしていることです」

――ブラジルの音楽には〈サウダージ(郷愁)〉と呼ばれるフィーリングがあるわけですけど、NYで活動するあなたの音楽にも、それと通じるものを感じます。歌とそれに乗せる感情やフィーリングについては、どのように考えていますか。 

「歌の感情的なストーリーにコネクトすることは、私が音楽に向き合うときにもっとも大事にしている3大要素のひとつです。残りの2つは、テクニカル、そしてスピリチュアルな部分。歌詞のあるなしにかかわらず、どんな作品にでも何かしらの気持ちが繋がっているもの。歌い手の私、一緒に演奏するミュージシャン、そして聴き手の感情など。自分が歌う歌はどんなものでも、その歌の感情的な側面を明かすことに時間をかけています。これの素晴らしいところは、そういった感情的な部分がいつも変わっている、ということです。私たちの感情は常に変化し続けていますからね。ひとつの歌を歌うことである感情を抱いても、次に歌ったときは異なるものを感じていることがあるのです。こういったことこそが、人間である私たちを音楽と繋ぎ、より深い空間に導いてくれるのです」

〈Supreme Collection〉収録曲、アントニオ・カルロス・ジョビンのカヴァー“Ela E Carioca”のパフォーマンス映像

 

――あらゆる音楽にとってリズムは重要なものだと言えますが、あなたは特にリズムに関して意識的なヴォーカリストだと思っています。例えば、よくカシシを振りながら歌うのもその表れなのかなと。

「まったくその通りですね。リズムは本当に大事! 私は幼い頃からリズムに惹かれていました。“Butterfly”のイントロを聴いてみてください。あれは2歳の私がリズムを刻んでいるところを録音したものを使っているのです」

2013年作『Live In NYC』収録曲“Butterfly”のパフォーマンス映像。上記の発言で言及されているスタジオ・ヴァージョンはグレッチェンの2009年作『In A Dream』に収録

 

「高校と大学時代はパーカッション・アンサンブルに所属していました。でも、それぞれのパーカッション・パートのリズムを覚え、さらにそれらがいかにしてそれぞれ対抗したり繋がり合ったりして、全体のリズム・ユニットを築いているかを理解するにあたっては、UCLAでのガーナ・ミュージック&ダンス・アンサンブル(Music And Dance Of Ghana Ensemble)での経験によるものがもっとも大きいです。シンガーは歌のなかで言葉の使い方によって自分のストーリーを伝えようとしますし、またその音楽に挑戦し、支えるためにきちんとバック・バンドとやり取りをするためには、リズムは本当に重要なのです。ボビー・マクファーリンアル・ジャロウ、ジョアン・ジルベルトのように、みずからの声をパーカッションや楽器のように操るヴォーカリストからの影響は大きいですね」

ボビー・マクファーリンとテイラー・マクファーリンのヴォイス・パフォーマンス映像。声を打楽器のように操る父子の共演