~互いのバンドのミュージック・ビデオを鑑賞しながらトーク・セッション~
Yasei Collective “radiotooth”
中西「このハイハットのパターンは(デモでは)全部打ち込みで入っていて。〈なんだこれ!〉となったけど、〈全部(人力で)やる!〉って」
露崎「普段からデモの段階でだいぶ楽曲として完成されているんですか?」
中西「うん。拓郎が書いてくる曲はそういうものが多いですね。俺のそのシンセ・ベースは結構デモに忠実な感じで、最初に聴いた時は〈なんだこれ〉となったけど、でもやってみようって。あと、拓郎があんまりギターらしいギターじゃないから、俺がギターっぽい役割をやることも結構あるかな」
露崎「間奏で入っているエレべはフレットレスですか?」
中西「あれはセミアコ・ベース。MVで使ってるやつのまんま」
露崎「特にエフェクトをかけてるわけではなく?」
中西「あれはリング・モジュレーターをかけてる」
露崎「ここはアドリブ・ソロ的な感じだったんですか」
中西「タタタ~ン♪ってところは決まってる。ライヴになるともうちょっと手数は増えるけど」
露崎「(3分5秒頃)ここから〈ああヤセイだな〉って(笑)」
中西「この詰め込み芸みたいな(笑)。俺がいちばんオイシイなと思ったのは、最後のブレイクのデューン!ってところ」
露崎「あそこ太いですよね」
中西「もう全部やったうえであそこがいちばんオイシイ(笑)。本当、あれだけのために鍵盤がいっぱい付いてるシンセが欲しい」
露崎「ああ、なるほど(笑)」
中西「もっと上からピューーン!って」
一同「ハハハハハ(笑)」
――詰め込み芸ということもおっしゃっていましたけど、ヤセイは自然とああなっていくんですか? それとも意図があってやっているんでしょうか?
中西「意図的でしょうね。どうしても釈然としない感じになった時に詰め込まないと……。普通のバンドだったら、例えば同期を増やしたり、ギターを重ねたりといろいろやり方があるかもしれませんが、ヤセイの場合、より圧が欲しい場合は単純に音数をどんどん増やしていく」
――ただ重ねるのではなくてパターンを変えて増やしていくと。
中西「一度にできないとヤセイはだめなんですよ。何かを重ねるという考えが最初からなくて」
露崎「それはライヴでの再現性を考えてですか?」
中西「再現性という話でもない。だからエンジニアの人はいつも苦労して1本で録ったやつをグワーッと広げてくれているんです。本当に意固地になってますね、そこは。何とかして1回で」
露崎「レコーディングはどうやって進めているんですか?」
中西「セッティングして一気に(録る)」
露崎「全員で一気に?」
中西「そう。ヴォコーダーだけはドラムの音が入っちゃうから後録りなんだけど」
露崎「一緒のブースでやるんですか?」
中西「一緒」
露崎「え~! そうなんだ……」
中西「この曲はリアンプしなかったから、ベースはラインでそのまま録っちゃった。外の部屋にギター・アンプとキーボード・アンプを離して、一気に」
露崎「やっぱりバンド感やライヴ感が伝わってきますね」
中西「なかなかそうやって録るのは難しいんだけど」
露崎「そうですよね」
中西「録った音源にいろいろと乗っけたくなるじゃん。でもやらない。それをやるんだったら最初から(音を)詰め込むという」
露崎「テイクは結構重ねるんですか」
中西「これは1テイクか2テイク」
露崎「すげ~(笑)」
中西「(そういう録り方が)いいのか悪いのかわからないですけどね。そんな感じでずっとやってるから、それに慣れちゃった。それで上手くいかない時は自分の実力以上のことをやろうとしているということだから、どっちにしろできない。それでレコーディングしても不自然な感じになってしまうだけだから、録る前にいかに練習しておくかという(笑)」
露崎「映像のディレクターさんは、これまでいろいろな人にお願いしているんですか?」
中西「最近の2曲(“radiotooth”“Tonight”)は山野内(慎)くんという監督で。彼は本当に演奏シーンが中心で、“Tonight”の時は寸劇じみたものがあったけど、これ(“radiotooth”)はもうストイックに演奏のみ。そのストイックさが伝わればいいかなと思って」
露崎「スタジオ・ライヴみたいなものですよね」
パスピエ “つくり囃子 ”
中西「これ、学校?」
露崎「廃校になったところを使っていて」
中西「出てくるメンバーは全部本人(笑)?」
露崎「そうです(笑)」
中西「顔出ないよね~(笑)」
露崎「これまでは陰り具合とかで顔を隠していたんですけど、お面で隠すというのは初めてで。仮面という武器を手に入れたことによって、いっそう出さなくなりましたね(笑)」
中西「Bメロのシンセの音には共感するんだよね、(ヤセイと)似てる気がして。このジャン!ジャン!なんてバンドっぽいじゃん。上手いこと中間にいるというか。それは意識してるでしょ?」
露崎「そうですね、そこはやっぱり」
中西「この全体的なアイデアは大胡田(なつき、ヴォーカル)さんが出したりするの?」
露崎「映像の監督自体はずっと同じ方(松本剛)にやってもらっていて、監督と大胡田とのやりとりもありつつ。まあこういった振り付けとかは大胡田のアイデアですね」
中西「おもしろいですね、独特で」
露崎「いままでやったことのなかった作風になったかなと。あと成田ハネダ(キーボード)のショルキー(ショルダー・キーボード)が(笑)」
中西「俺もいつショルキーにしようかなと。いま悩んでるんです(笑)」
露崎「ショルキー願望はあるんですか(笑)?」
中西「めっちゃある。でもベースも持ってるから……」
露崎「ハハハ(笑)。一回(ベースを)置かないといけないですね」
中西「ドラムはうちのドラマー(松下マサナオ)と同じものを使ってるんだよね。BONNEY DRUM」
露崎「マサナオさんに紹介していただいたんですよね」
中西「どうですか、ライヴで音は聴こえてますか」
露崎「気に入って使ってますよ。ゴキゲンで」
中西「フフフ(笑)、ありがたい。やっぱりシンセのフレーズがそれぞれ独特なんだよな。(成田は)ちゃんとクラシックをやっていた人だもんね」
露崎「やっぱり聴いてわかるものですか」
中西「わかるわかる。〈そこ弾く?〉みたいな(笑)。ちょっと異様に聴こえるところもある。大胡田さんの声もあまり聴いたことがないような声じゃん、だから最初に聴くと、〈ん?〉ってなるよ。それで目が行っちゃう。俺、『演出家出演』(2013年)を白盤でもらって初めてパスピエを聴いたんだけど、一時期車の中でずーっとそればっかり聴いてたもん」
露崎「ありがとうございます。あのアルバムはすごくライヴ感を意識していましたね」
中西「いまは違う感じ?」
露崎「そうですね。でもあの作品を作れたから、前作の『幕の内ISM』(2014年)や今年リリースした最新作『娑婆ラバ』にもレコーディング現場でのライヴ感みたいなものを出せたかなとは思います」
――“つくり囃子”はサイケというかプログレというか、それぐらいの感じがありますよね。
露崎「そうですね」
中西「(イントロを口ずさむ)ヤセイでもやんないですよ、あれ(笑)」
露崎「潔いですよね(笑)」
中西「すごくいいと思う。ああいった要素はうちらの“radiotooth”にも同じ意味合いのものがあると思うんですよ。びっくりさせるような」
――これで掴むというのはありますよね。それこそ武道館のようなデカイ会場で聴きたい※。
※パスピエは12月22日(火)に東京・日本武道館で単独公演〈GOKURAKU〉を開催
中西「ガッツリやってください」
露崎「ガッツリと、デカめに」
中西「デカめに。すごいですね……(しみじみ)」
一同「ハハハハ(笑)」
ニヤっとするところがないとおもしろくない
――ヤセイも人力でできるの?という難しいフレーズを再現することがひとつのモチヴェーションとしてありつつ、今回の“radiotooth”のタイミングでより幅広い層にアピールしようという気持ちはあるんですよね。
中西「それは常にありますね。聴いてもらわないとどうしようもないというか。絶対に(こういう音楽が)好きな人はいると思うんですよ。ウワ!ってなって、二ヤっとしちゃう人がもっといるはずなので、そういう人たちに届けたいですよね。いまのところ、僕らのファンはコアにいろいろな音楽を聴いている人たちが多いので。でもね、そういう人たちだけじゃなくなってくれるといいですよね」
露崎「そういうコア層を掴んで、そこから広がって大きくなっていくのは理想ですよね。自分たちがひたすらやりたいこと、カッコイイと思うことを突き詰めて、さらに広がっていくというのは」
中西「いまは昔ほどマニアックなことをやっているわけではないので。まあ演奏が難しいかどうかというのはさておき、(サウンド自体が)マニアックな感じでは……でもわかんないな。マニアックなのかもしれない(笑)。どうですか、これ? マニアックですか?」
――えーと……どうだろうな(笑)。最初に中西さんがパスピエの印象としておっしゃっていた、パッと聴きはポップだけど、よく聴くと難しいことをしているという感覚に、“radiotooth”は近い気がします。ヴォコーダーを使っているからポップにも聴こえるし、でも演奏はあきらかに超複雑っていう。
中西「まあ、いまはそういう時期なんでしょうね。これからもどんどんバンドとしての形は変わっていくだろうし」
露崎「僕のヤセイに対する印象はパスピエとはむしろ逆で、一聴するとすごく複雑で硬派なことをやっているなと思うんですけど、よく聴くと中心にはポップさがしっかりとある」
中西「それはあるかもしれない。作曲者(斉藤拓郎)がハイスタとかが大好きなんですよ。高校の時にメロディック・パンクを聴いていたという彼の原体験があるから、拓郎の作る音はそういった抜け感のあるものが多い。〈そうきたか!〉というものが多いので、彼のデモを聴くのは楽しいんですよ」
――やっぱり原体験の部分がいまでも。
中西「すごくあるんじゃないかなと思いますね」
――お2人もtetsuから引き継がれた要素がいまでも……。
中西・露崎「あるかもしれないですね!」
――ちなみに、いまお互い以外でベーシストとして気になる人はいますか?
露崎「そうだな……UNISON SQUARE GARDENの田淵(智也)さん、cinema staffの三島(想平)君とか。共通しているのが、作曲者でありベーシストということですね。2バンドとも対バンさせていただいたんですが、間近で聴くと歌を支える説得力みたいなものがあって、それはやっぱり作曲者だからこそ出せる部分なのかなと思ったんです。そういった部分が勉強になりましたし、注目しています」
中西「俺はベースに……あまり興味がなくなっちゃってるんですよね。ベースよりもドラムが好きで、ドラムばっかり聴いてるんです」
――ご自身もベーシストという意識はあまりない?
中西「もうあまりないでしょうね。ベースはいちばん手っ取り早く表現ができるから使ってるような感じ。シンべもエレベも、エフェクターもそうだし」
――ご自身と同じような感覚でやっているなと思うプレイヤーはいますか?
中西「難しい……(笑)! まあちょっと話が変わるんですけど、俺はシンセ・ベースとエレキ・ベースの両方をブンブン弾いている自分がちょっとカッコイイなと思っていたんですよ。で、ある日、30年前のYMOの映像を観たら、細野(晴臣)さんが当時から同じことをやっていて(笑)。それには相当凹みましたね」
露崎「確かに(笑)」
中西「やっていることが同じとはいえ、YMOが提示したことをそのままやっているわけではなく、こんなやり方もあるというのをヤセイとして見せたい」
――ポップなんだけど、こんなやり方もありますよと。
中西「ポップ・ミュージックって再生産というか、聴く人の頭にあるそれまでのパーツを上手く使って、いかに速くイメージを構築させられるかが肝だと思う。そのスピードが速ければ速いほど多くの人にウケる。パスピエは、そのパーツのひとつを逆さまにしてやっている感じが常にある。パッと耳に入ってくるんだけど、よく聴くと〈あれ?〉って。成田(ハネダ)さんのシンセのフレーズがどこか〈(良い意味で)気持ち悪っ!〉となるのが気持ちいいんですよね。そういうニヤっとするところがないとおもしろくないと思うんですよね」
露崎「ちょっと話が戻るんですが、マニアックなところで訊くと、さっき言っていたオクターヴァー3種類というのは、どこのやつなんですか?」
中西「全部BOSS。1個はヘンな音が出るように改造してもらって。オクターヴァーの後に歪みを噛ませるセッティングをよく使うんだけど、それを1個でその音が出るように」
露崎「ああ、歪み内蔵みたいな」
中西「歪み内蔵。いるんですよ、そういう改造ができる魔術師みたいな人が」
露崎「あと2種類はバッキング用とソロ用みたいな?」
中西「全然決めてない。それぞれ全然違う音が出る。これはブー、これはビー、これは普通のオクターヴァー、みたいな。普通の人が聴いてもあまりわからない(笑)。でも、自 分としては違うんだよね。俺がプレべをあんなにいなたい音で使っているのも、そういう音が好きというのもあるんですけど、エレキ・ベースの時は〈どこかで 聴いたことのあるエレキ・ベース〉というイメージを聴いている人の頭の中にすぐに形作ってほしいからで。なるべくシンセ・ベースと棲み分けをしたいというか。普通のエレキ・ベーシストとはエレキ・ベースに求めるところが違う。スムースで一定のベース・ラインとか音圧が欲しいならシンベを使うから。どこかゴツゴツしていて人間臭い、不安定な部分というものをエレキ・ベースに求めている」
露崎「シンベが弾けたら使いたいんですけどね。単純にピアノができない」
――パスピエはまったくシンべを使っていないんでしたっけ?
露崎「成田がシンべのようなものを入れることはあります。たまに彼が下を弾いて、僕が上のリフをやっている曲があったりしますね」
中西「それ以上は行かないでほしいな」
露崎「ハハハハハハ(笑)」
中西「そろそろね、特許取ろうかなと思ってるから。細野さんに〈いいですか……〉と訊きに行こうかなと思って(笑)。でも俺が初めてやっていることじゃないから悲しい。ミトさんもやっているし。最終的に編み出したのは、(シンベとエレベを)一緒に弾く(笑)」
露崎「ああそっか、やってましたね」
中西「今度はそれをどんどんやりたい。ちょっとシーケンスのようで、いいんですよ。ヤセイはシーケンサーを使えないので、これでシーケンサーっぽく」
露崎「シンべもアンプで鳴らしているんですか?」
中西「そうそう」
露崎「アンプは2個並べている?」
中西「ベース・アンプは1個で」
露崎「両方鳴らす時は、1個のベース・アンプから両方出ていると」
中西「最後に、パスピエが顔を出さないという点を突っ込みたいんだけど、それはやっぱりメンバーのなかで意思統一されているんでしょ?」
露崎「まあそうですね、基本的に出さない方向でやっていますね」
中西「それは最初からそう?」
露崎「最初は、“電波ジャック”という曲(2011年作『わたし開花したわ』収録)のMVをどうしようか話していた時に、その頃はバンド用に大胡田がイラストを描くことはなかったんですけど、おもしろいから描いてみようということになって、彼女が描いた700~800枚の絵をMVとして使ったんです。それがおもしろかったので、アーティスト写真も彼女のイラストにして。その流れで、バンドのヴォーカリスト自身が描いているという説得力もありますし、それは残していくのがいいんじゃないかなと」
中西「全体的にあの色で統一されてるよね」
露崎「そうですね」
中西「昔の絵を見ているような」
露崎「いわゆる公式のアーティスト写真は、メンバーの顔がそんなにわからないようにしているんですけど、それ以外のところでメンバー5人のイラストを大胡田が描いてくれたりして。基本的にそっち(イラスト)のイメージを崩さないほうがいいかなと思っているんです」
中西「顔はアーティストにとってすごく大事な部分だと思うんだよね、表情とか。そこをあえて出さないと、人間がやっているにもかかわらず、ダフト・パンクみたいにすごく無機質になる。そういうところがすごくいいなと思って。イメージを押しつけないというか。それはヤセイにも通じるところがあって、ヤセイはヴォコーダーで歌詞がよくわからないから、ある程度聴く人に勝手に歌詞を付けてもらっていい。“radiotooth”のサビ、ACIDMANの大木(伸夫)さんに〈ボブ・ディラーン♪〉って聴こえたって言われました」
一同「ハハハハハ(笑)」
中西「それは聴く人に任せたいと思います」
露崎「聴き手に想像してもらう余白みたいなものですよね」
中西「そうそう。すごく大事なこと。ヤセイは煽り文句とかでいつも悩むんですけど、なるべく固有の名前を出さないようにしている。それも同じような意図で、音楽そのものを伝えたいから」
露崎「楽曲に対してもそうだし、歌詞もモロにそうですよね」
――パスピエはまさに聴き手がイマジネーションを広げやすい存在ですよね。
露崎「顏を隠しているぶん音源でのイマジネーションは広げやすいかもしれませんね。でもライヴでは普通に顔を出しているので、何というか、ライヴに来た時の得した感もあるかもしれませんね」
――感情が直接的に伝わる場があるのも、それはそれでいいですよね。
露崎「もともと顔を隠すことを念頭に置いて始まったバンドではないので、ライヴではフリーにしてしまってもいいかなと」
中西「徹底しすぎちゃうとそれがコンセプトになっちゃうもんね。なるべくコンセプトは客に任せたほうが……」
露崎「そこも余白、ですよね」
中西「……それを訊きたかったので、良かったです(笑)」
露崎「こちらもいろいろ秘密を聞くことができたので(笑)」
中西「長々とありがとうございました」
露崎「ありがとうございました」
Yasei Collectiveニュー・シングル“radiotooth” リリース・パーティー
日程:2016年1月30日(土)
会場:東京・代官山UNIT
開場/開演:16:30/17:00
チケット:前売3,000円/当日4,000円
ライヴ:Yasei Collective/FULLAROMOR
DJ:社長(SOIL & "PIMP" SESSIONS)、仰木亮彦(在日ファンク)
オープニング・アクト:沖メイ(Za FeeDo)
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