目を閉じて大阪のことを考えてみると、頭のなかで鳴り出すのは決まってやしきたかじんのハリのあるお声。苦みと酸味の効いたダミ声でタミの声を代弁し続け、関西では視聴率男として愛された彼が、2014年の幕開けと同時にこの世を去っていった。まったくもって残念無念。テレビやラジオでは頻繁に荒々しく吠える姿を見せていた彼だが、ひとたびマイクを握って本業であるシンガーに向き直ったときには、甘い香りを放つ歌声でムーディーな雰囲気を演出してみせた。《やっぱ好きやねん》や《ICHIZU》といったドラマティックな恋愛ストーリーは関西だけでなく全国のファンから愛され、特に巷の盛り場のヒット・チャートにおいてずっと上位をキープし続けてたものだ。ここで紹介するのは、ヴォイス・オブ・ナニワの若き日の肖像。人情味豊かな大阪ソングで一世を風靡する手前にキング・レコードから発表された初期4作品である。

 名曲《ゆめいらんかね》を含むデビュー作『TAKAJIN』は、青さが残る歌唱が聴きどころ。なかでも軽快にシンコペートするピアノに合わせてエモーショナルな歌声を轟かせる《夜のピアノ》が白眉。初作と同じく、クニ河内がプロデュースを手がけた2作目『愛しのガール』は、ファンキーなロック・ナンバー《愛しのガール》をはじめ、多彩な曲調が魅力。何と言っても激しい情念を叩き付けるラストの《ふみきり》が最高だ。3作目『明日になれば』は、ニューオーリンズのリズムを採り入れた《イージーダンス》やラテン・フレイヴァーをまぶした《踊るスリランカ》ほかポップなナンバーが多く、シティーポップな《ヘッドライト》なども実に美味。そして4作目『プロフィール』は、アレンジをすべて萩田光雄が担当した1枚。アーバンな感じやジャジーな調子で迫るなか、男性として初めて宝塚歌劇の舞台で歌った《ラスト・ショー》が味わい深い色合いを放っている。どれも近年入手困難だったアルバムばかり(3、4作目は初CD化となる)。この機会にじっくりと耳を傾けてほしい。

 

▼やしきたかじんの作品

左から、『TAKAJIN』(1976年発表)[キングレコード KICS-3040]、『愛しのガール Takajin/2』(1977年発表)[キングレコード KICS-3041]、『明日になれば』(1980年発表)初CD化[キングレコード KICS-3042] 、『プロフィール』(1982年発表)初CD化[キングレコード KICS-3043]

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