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絶対王者、アニコレの歴史

 ボルティモア出身の若者たちが、大学進学を機に離れて暮らすようになってからも、時間を見つけては集まってセッションしていた――アニマル・コレクティヴの結成直前の様子は、まあ、こんな感じだ。グループとして活動を開始したのは99年頃とされている。その翌年にはエイヴィ・テア・アンド・パンダ・ベア名義で事実上の初作『Spirit They're Gone, Spirit They're Vanished』を発表。夏休み中にレコーディングしたという同作は、即興演奏をベースにした非常にエクスペリメンタルな内容だが、楽曲の中心にメロディアスな歌がある点はいまと変わらない。

 そして2003年、アニマル・コレクティヴの名を掲げた初めてのアルバム『Here Comes The Indian』が登場。ここでの躍動的なドラムは、後のアニコレ・サウンドを特徴付ける大きな要素となった。ちなみに、拠点をNYに移し、ブルックリン・シーンのキーパーソンとして語られるようになったのも、ちょうどこの頃。同時期にエイヴィ・テアは自主レーベルのポウ・トラックスを立ち上げ、ソロ・ワークのほか、ブラック・ダイスら仲間たちの作品もリリースするなど、ネットワークを広げていくのである。

 そんな彼らが大きな注目を集めたきっかけは、次作の『Sung Tongs』(2004年)。アコギを大胆にフィーチャーし、フリー・フォーク・ムーヴメントの旗手と目されるようになったのだ。翌年に伝説的なフォーク・シンガーのヴァシュティ・バニアンとコラボEP『Prospect Hummer』を発表したことも、界隈に強烈なインパクトを残した。

2004年作『Sung Tongs』収録曲“Who Could Win A Rabbit”

 

 2007年のドミノ移籍作『Strawberry Jam』を経て、2009年作『Merriweather Post Pavilion』ではエレクトロニックなアプローチを深化させつつ、アヴァンギャルドな音楽性とカラフルなポップセンスを融合。アルバムは全米チャート13位まで駆け上がり、キャリア史上最大のヒットを記録している。そう、結成から10年が過ぎ、彼らはブルックリンという枠を越えてUSロック界を代表するアクトへと成長したのだ。今回の新作に関してエイヴィは「僕らが初めていっしょに音を鳴らした時のような、プリミティヴなサウンドをめざした」と語っているが、もしかすると、ここからアニコレの新章が始まるのかもしれない。 *村尾泰郎

2007年作『Strawberry Jam』収録曲“Peacebone”
2009年作『Merriweather Post Pavilion』収録曲“My Girls”
エイヴィ・テアズ・スラッシャー・フリックスの2014年作『Enter The Slasher House』収録曲“Little Fang”