ゼロ年代におけるブルックリン・インディーの顔がここにきて完全復活! 4人が集まり、音を鳴らす――力強いニュー・アルバムには、バンドである喜びが七色に輝いているよ!
いまアニマル・コレクティヴがおもしろい。という字面を読むと、2005年頃にタイムスリップしたかのような気持ちになる読者もいるかもしれない。だが、これは2023年の確かな感覚だ。サイケデリックなサウンドとフリーキーな歌心を携えて2000年代のUSインディー・シーンを牽引したブルックリン出身の4人は、やや低迷期にあった2010年代を経て、いま息を吹き返している。
復活の端緒となったのは、2019年の夏、テネシー州の一軒家で約1か月に渡って行われたメンバー全員参加のセッション。2016年にリリースされたアルバム『Painting With』にはディーキンが参加しておらず、その前後の彼らは、かなり流動的な編成での活動が続いていた。そのため、メンバー4人が揃って音を鳴らすのは久しぶりのことだった。コロナ禍により、楽曲の録音自体はリモート中心の進行になったものの、このセッションは2022年のアルバム『Time Skiffs』として結実する。
『Time Skiffs』は、持ち前の遊び心を随所に見せつつも、いつになくメロディアスで端正にまとめられた印象のアルバムだった。バンドのグッド・ヴァイブスを感じさせる同作は、高評価を獲得。さらに以降、パンダ・ベアはソニック・ブームとの『Reset』、エイヴィ・テアはソロ名義での『7s』をリリース。いずれも各人のクリエイティヴィティーが開花した状態にあることを伝える傑作であり、音楽カルチャーのなかでアニマル・コレクティヴの存在感がまた強まっている――そんな気運は高まっていた。
約1年という短いスパンで届けられたニュー・アルバム『Isn’t It Now』。本作の収録曲自体は、『Time Skiffs』と近い時期に書かれていたそうだ。ただし、外部のプロデューサーを立てなかった前作とは異なり、今回はディアンジェロやロイ・ハーグローヴなどR&B~ジャズ関連の作品で知られる名エンジニア、ラッセル・エレヴァドが共同でプロデュースしている。
「新作はオーガニックでナチュラルなサウンドをめざしたんだ。ラッセルは彼の手掛けたディアンジェロの2作が最高だったよね! 彼は必要なとき以外はプラグインやパソコンを使わない。僕たちが今回やろうとしたことも、録音後のスタジオ・ワークでの装飾に頼らず、演奏自体にパワーのある音楽を作ることだったんだ」(パンダ・ベア:以下同)。
フィル・スペクター印のガールズ・ポップを思わせる“Soul Capture”で扉を開ける『Isn’t It Now』は、パンダ・ベアの言葉通り実にパワフル。〈歌〉にフォーカスされているのは前作と共通しているが、メロウでセンチメンタルな趣の強かった『Time Skiffs』と比較して、オプティミスティックで開放的なムードが気持ち良い。後半にクラウトロック的な展開を見せる“Genie’s Open”、ラウンジーな“Gem & I”などで耳を引く、パンダ・ベアによるドラムの鳴りの良さも、アルバムの快活さに一役買っている。
「前作からのアプローチなんだけど、ジェイムズ・ブラウンのドラマーみたいな叩き方を心掛けたんだ。機械的というかタイトな演奏だよ。テクニックの面で、いままでにやったことがない動きにトライしたのは冒険であり、刺激になった」。
アルバムの中心に据えられているのは、20分を超える大曲“Defeat”。ホーリーかつヒプノティックな鍵盤の音色に導かれながら、ゆっくりと音数が増えていき、終盤の多重コーラスがサイケなトリップへとリスナーを導くこの曲は、アニマル・コレクティヴの新たなアンセムになるはずだ。
「“Defeat”みたいな曲はバンドが同じ場所に集まり、お互いの演奏を聴きながら音を鳴らして、ある種の波みたいなものを自然発生させないと出来ないよね。すごく綺麗で壮大な曲になった」。
99年の結成から今年で24年。時代の移り変わりに多少の浮き沈みを経験しながらも、メンバーが変わることなく、いままさに第二のキャリアハイを迎えつつあるアニマル・コレクティヴ。彼らがバンドを長く続けられている理由は何なのだろう。
「僕たちにとって音楽を作ることがいちばん楽しいことなんだと気付いたことは大きいね。音楽を作って、それを良いものだと感じたときの喜びに勝るものは、まだ見つかっていない。長年付き合ってきた仲間と、大笑いしながら何かを一緒に作る――それ自体がモチヴェーションなんだ。そこで出来たものが他の人にどう受け止められるかは気にすべきでないと思うし、作品を通じて承認欲求を満たそうとするのは少し危険な気がする。何かを作って、その過程が楽しければそれでいいんだ」。
アニマル・コレクティヴとメンバーが参加した近作。
左から、アニマル・コレクティヴの2022年作『Time Skiffs』、エイヴィ・テアの2023年作『7s』、パンダ・ベアとソニック・ブームの2022年作『Reset』(いずれもDomino)、ジョン・ケイルの2023年作『Mercy』(Double Six/Domino) 、アラン・ブラックスとDJファルコンの2022年のEP『Step By Step』(Smugglers Way)