何をやろうとも、僕がジャズ・ミュージシャンであることは変わらない

 クリス・バワーズの『Heroes + Misfits』は、鳥の鳴き声とピアノからスタートする。そして、ギターをメインにしたインディ・ロック・バンド然とした演奏が始まり、続く楽曲はクラシカルなピアノとジャズ・ロック風の演奏が鮮やかな対比を見せる。その後も、女性ヴォーカル(ジュリア・イースターリン)を迎えてポスト・ ロックとエレクトロニカの影響を素直に表現し、ホセ・ジェイムズをフィーチャーした曲では軽やかでポップなメロディを奏でる。〈セロニアス・ モンク・コンペティションで優勝した天才的なジャズ・ピアニスト〉という形容とは裏腹に、このアルバムは〈ジャズ〉のイメージを悉く裏切っていく。〈ジャズ〉のアルバムを作るという意識はどのくらいあったのだろうか。

 「それはまったく意識をしていなかった。音楽は自分にとって人種と同じようなもので、自分は黒人でどんな行動を採ろうとそれは変わらないし、 小さいときからジャズを聴いて、どんな音楽を聴いても、ジャズとどんなにかけ離れた音楽をやろうとも、自分がジャズ・ミュージシャンであることも変わらない。だから、今回も、他のジャンルを入れていくことと、そこで自分はジャズ・ミュージシャンであることは共に大切なことだった」

KRIS BOWERS 『Heroes + Misfits』 Concord/ユニバーサル(2014)

 4歳からピアノのレッスンを始めて、クラシックとジャズを並行して学び、最終的にジャズを選び取ったバワーズには、自らの中にジャズのプレイに対する確固たる自信が備わっている。それゆえに、彼よりも年上のロバート・グラスパーらがブラック・ミュージックを全面に打ち出したのとはまた違う、新しい世代のジャズを演奏し得ている。

 「自分たちの世代はどういうものか、というのがこのアルバムを作るときに一番軸としてあった。例えば、60、70年代には世の中に声を上げることがあったが、自分たちの世代は現状に満足して、何かを変えていこうという動きはないんじゃないかという気がしていた。でも制作しているときに、アラブの春やウォール街のOccupy運動が起きて、ちょうど自分が成人していく過程と、社会に異を唱える、現状に満足しない過程がオーバーラップした」

 ウィリアム・ストラウスとニール・ハウが唱えた世代理論から影響を受けてアルバム・タイトルを付けたとも語っていたが、バワーズの発言の端々に「僕らの世代」という言葉が聞かれたのが印象深かった。『Heroes + Misfits』は、同世代にもアピールする音楽を提示し得ている。バワーズの登場によって、ジャズの新しい流れはさらに進んだことは確かだ。この才能には注目した方がいい。