INTERVIEW

大萩康司『カステルヌオーヴォ=テデスコ:プラテーロとわたし』 ヒメネスとテデスコの世界を波多野睦美による新訳で

©Shimon Sekiya

スペインが生んだ詩人ヒメネスとテデスコの世界が再結晶。波多野睦美による新訳版朗読とギターの新境地。セルフレーベル〈マルコクリエイターズ〉誕生

 2020年にデビュー20周年を迎えるクラシックギタリストの大萩康司がセルフレーベルMARCO CREATORS(マルコクリエイターズ)を立ち上げた。

 記念すべき第一弾は『プラテーロとわたし』。スペイン生まれのノーベル文学賞詩人ファン・ラモン・ヒメネスの詩に、イタリア生まれのカステルヌォーヴォ・テデスコが曲をつけた28編の作品である。波多野睦美による新訳版朗読とたおやかな歌。絶妙な間合いで詩の情景を描写するように演奏する大萩康司のギター。ジャケットとブックレットには銅版画家・山本容子の描くロバのプラテーロ。こだわり尽くしの美しい詩画集アルバムだ。

大萩康司 ,波多野睦美 カステルヌオーヴォ=テデスコ:プラテーロとわたし MARCO CREATORS(2019)

 レーベルシンボル・マークには、可愛らしい犬の顔にギターがコラージュされている。キャラクターモデルは、宮崎の大萩家で飼われていた愛犬マルコ。「プラテーロは少年のような青年のようなロバなのですが、小学6年生の時から22年間兄弟のように過ごした犬のマルコを思い出しました。マルコと名付けたのは祖母でした」。マルコ・クリエーターズのネーミング由来に心温まる。

 故郷モゲールでの療養中にロバのプラテーロとの日々を綴ったヒメネス。詩人とロバの名コンビには、信頼と友愛の心が溢れている。朗読とギター演奏のきめ細やかな間合いからもその情景が浮かんでくる。スペイン南部アンダルシアの歳時記のように描写される花鳥風月。ジプシーの子どもや女たちは生命力にあふれ、療養中の主人公とロバのプラテーロは村ではちょっと浮いた存在だったりもする。

 「テデスコのギター譜面には、ロバの足音が表現され、最初の方では息がゼイゼイするタッチも感じられます。自分が子供の頃、小児喘息だったことを思い出して共感しながら弾きました」

 テデスコの原曲はあまりに速弾きすぎて、楽譜には演奏不可能な部分もあるという。

 「指が6本必要なのではないか、ひじのあたりからもう一本、手が生えてるんじゃないかと思えてしまうほどで、京都在住の作曲家・平野一郎さんにレヴィジオンしていただきました。フランス語で〈見直す〉いう意味で、曲の良さを損なわずにギターで再現できるようアドヴァイスいただきました」

 マエストロの叡智が集結した『プラテーロとわたし』大萩康司ヴァージョンは唯一無二。世界的なギタリストのエドワルド・フェルナンデスに「こんなんやります!」と伝えたら、「それはオーハギ君ヴァージョンの楽譜出版したほうがいいよ」と勧められたそうだ。(ぜひとも! 広く世界に向けて!)

 「今回の録音エンジニアは桜井卓さんなのですが、ギタリスト山下和仁さんの『Platero y yo』(1994)の全曲録音を手がけられた方でご縁を感じました」 「師匠の福田進一先生には、ぜひみていただきたくて、レッスンしていただきました。28曲で合計6時間! (師匠曰く)『こんな長時間稽古つけたことないわぁ~!』『す、すんませ~ん』(汗)でした」

 世界のギタリストと朗読者に愛されてきた名作だが、全曲録音は希少だ。今回は、日本語朗読とギターで全曲28曲録音に初挑戦。波多野睦美の新訳朗読では、モゲールの村人や少年少女の台詞は〈宮崎弁〉風に語られている。

 「僕の生まれ育った宮崎県小林市は、空気と水と星の美しさだけは、自慢なんです」

 ヒメネスの故郷スペイン南部のアンダルシア地方と宮崎の故郷のイメージが重なり方言が浮かんだ。

 「言葉って面白いと思うのは、一言一言に全部意味があり、そこに音が入った時、風景がみえてくること。2016年の白寿ホール〈声とギター〉公演時から、波多野さんは宮崎弁の台詞を入れて朗読してくださいました」

 音楽と言葉から感じる、民の息遣いと大地の匂い。望郷。ヒメネスとテデスコはユダヤ人として迫害を受け、祖国を出て終の住処は異国の地だったことを想う。人間の哀れさ、ロバの無垢さ、鳥たちの自由さ、象徴的な蝶の存在感。生きとし生けるものの普遍的な物語の核になるいのちの対話がギターの響きとともに心に迫る。

 「このお話は、動物と人間のことですが、人間と人間でもいい。何も話さなくても一緒にいてうれしくなる。そういう人を思い出すきっかけになってもいいなと思います」

 その言葉を咀嚼しながら『プラテーロとわたし』を繰り返し繰り返し聴く。追想と思索の旅へ。大切なものは永遠の存在であることに気づきながら。

 


大萩康司(Yasuji Ohagi)
高校卒業後にフランスに渡り、パリのエコール・ノルマル音楽院、パリ国立高等音楽院で学ぶ。ギター国際コンクールとして世界最高峰とされるハバナ国際ギター・コンクール第2位、合わせて審査員特別賞〈レオ・ブローウェル賞〉を受賞。日本国内での精力的な活動に加え、世界各国に活躍の幅を広げ、各地で熱狂的な支持を得ている。ルネサンスから現代曲まで多彩なレパートリーを持ち、ソロ、室内楽、協奏曲と幅広く取り組んでいる。

 


LIVE INFORMATION

大萩康司ギターリサイタル
レオ・ブローウェル作品集~生誕80年をお祝いして

○12/20(金) 18:30開場 19:00開演
【会場】東京文化会館小ホール

G-Lounge #25 波多野睦美 ヴォーカル<歌い手たちへのオマージュ>
○2020/2/25(火) 19:00開演
【会場】王子ホール

波多野睦美×大萩康司~追憶のスクリーン・ミュージック~
○2020/3/14(土) 15:30開場 16:00開演
【会場】浦安音楽ホール コンサートホール

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