インタビュー

宮田大&大萩康司、チェロとギターで綴った美しき音楽旅行記『Travelogue』を振り返る

みたことのない景色へ、旅を継ぐふたり

 旅することが難しくなると、旅そのものが夢になる。いくつもの旅の記憶が呼びかけ、誘うさきは、きたるべき旅のなかにしかないのに。

 それでも音楽家は旅を続ける。チェリストの宮田大とギタリストの大萩康司がデュオとしてのはじまりのアルバムをまとめたのは2020年の夏。〈Travelogue〉と名指された美しい旅行記となった。

 「大きなホールも久々だったので、コンサートを何回も弾くような感覚で、パワーをつかって演奏しました」と宮田大は言う、「ふたりでたくさん弾いてきた曲だし、お互いのコンサートへの気持ちがたくさんあってのレコーディングになったので、ここではどの言葉で語りかけようかといったやりとりが、よりいっそうできたような気がしますね」

 「それぞれがすごく個性の強い曲で、いろいろな国にまつわるものですし、クラシックの曲から映画音楽、ジャズやボサノヴァのフィーリングやテイストをもった曲も入っている。それをまとめるようなものとして、〈Travelogue〉という言葉がぽんと出てきたんですね。聴いている人といっしょに旅ができるような一枚になるように」と大萩康司は語る。

 「ふたりにとっての出発点という感じもしていて。このCDを引提げて各地をまわって、ふたりの楽器と音楽性の相性をみていただける旅ができるかなと」と宮田が言葉を継ぐ、「この世の中だからこそ生まれた言葉だったし、イメージだったと思うし」

 旅行記の〈第1章〉となる本作は、ルグランの“キャラバンの到着”ではじまり、ピアソラ、ニャタリ、ショパンからサティとラヴェルをわたって、ピアソラに帰着する。そこは〈忘却〉と〈冬〉の情景だが、それはまた次の循環のはじまりでもある。大萩自身によるショパンを含め、多彩で緻密な編曲がふたつの楽器の響きの織りなしを夢み、弾き手が愛おしむようにひとつひとつの風景を精細に色づけていく。

 「大君の音色、音楽性、歌いかたという点でショパンのソナタも素晴らしいし、さらに小さい音のレンジからふくよかな音になるまでのダイナミクスというか、幅広い音色から音圧みたいなものをつくることで言うと、ピアソラの“オブリビオン”は他の人が弾きたくなくなるんじゃないかなっていうくらい説得力がありました。小声で囁く独り言のような弱音でも、会場にいる全ての人に届く高密度な音を持った人なので」とギタリストが称える。

 「大萩さんのギターはほんと色彩があるし。ショパンのソナタにしても、ギターだと儚さがあるんですよね、ハーモニーに。ピアノにはない絶妙な響かせかたで」とチェリストは言う。

 「大君の面白いところというか素晴らしいところって、その曲がもっている物語をそのままぎゅーっと、エスプレッソみたいに抽出してくれるんです。だから聴いていて、その曲の良さ、大事な要点を全身に浴びて、しっかり味わうことができる」

 音楽のなかでは彼らはどこまでも自由だ。チェロとギターのデュオ・レパートリーの不足を補うように、自らが旅を切り拓く意志も愉楽もある。

 「ある意味、曲がないことが強みであって、新しい曲をみつけていったら、最強なものが生まれると思う。オーケストラの作品をやることも絶対可能だと思うし、緻密に結び合ったところの表現ではふたりだからこそできることもある。この曲はこういうふうに聴きたいという聴く人の気持ちが入り込める音楽もしたいし、そういう余白のある作品も発見していきたい」と宮田は言う。

 春がきて、夏が近づけば、ふたりはいよいよ現実の旅に出る。音楽はまた新しい出会いをひらく。

 「コンサートでお客さんのその場の反応を感じながら、そこで自分たちが会話し、空気のなかでのやりとりができるのはやっぱり理想ですね」と大萩康司。

 「いままでとは行ったところではないところに、お客さんを連れて行きたいですよね。たぶんCDを聴いて、たくさんいろんなところをツアーしてくれてただろうから、それとは違う気持ちで」と宮田大。

 旅から旅へと移り行く心、そのものがまた旅である。まだみたことのない風景、きいたことのない物語に向かって、ふたりの旅人は聴き手を心地よく、夢みるように運んでいく。

 


宮田大 (みやた・だい)
2009年、ロストロポーヴィチ国際チェロコンクールにおいて日本人として初めて優勝。これまでに参加した全てのコンクールで優勝を果たしている。その圧倒的な演奏は、世界的指揮者・小澤征爾にも絶賛され、日本を代表するチェリストとして国際的な活動を繰り広げている。パリ管弦楽団、BBCスコティッシュ交響楽団、ロシア国立交響楽団、フランクフルトシンフォニエッタと共演している。

 


大萩康司  (おおはぎ・やすじ)
高校卒業後に渡仏し、パリのエコール・ノルマル音楽院、パリ国立高等音楽院で学ぶ。ハバナ国際ギターコンクール第2位、合わせて審査員特別賞レオ・ブルーウェル賞を受賞。その後4年間キジアーナ音楽院でオスカー・ギリアに師事し、4年連続最優秀ディプロマを取得。日本国内での精力的な活動に加え、世界各地に活躍の幅を広げている。第6回ホテルオークラ賞、第18回出光音楽賞受賞。

 


LIVE INFORMATION

宮田大(チェロ)&大萩康司(ギター) リサイタル
〇2021年6月11日(金)18:15開場/19:00開演
【会場】紀尾井ホール
【曲目】サティ:ジュ・トゥ・ヴ
    ラヴェル:亡き王女の為のパヴァーヌ
    ニャタリ:チェロとギターのためのソナタ
    ピアソラ:タンゴの歴史~カフェ1930、
    タンティ・アンニ・プリマ、
    ブエノスアイレスの冬、ブエノスアイレスの夏
    *曲目は変更になる場合がございます。
【出演】宮田大(vc)/大萩康司(b)
【開催予定】〇5月31日(月)高崎芸術劇場
      〇6月6日(日)沼津市民文化センター
      〇7月17日(土)藍住町総合文化ホール その他

https://columbia.jp/miyata-ohagi/

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