ヴィラ=ロボスとの対話――自由を得たいまこそ、ほんとうに自分と向き合える音楽を
大萩康司がギターで描く絵には、詩的な歌と色彩が自然と広がる。精緻で綿密な筆致を通じ、孤独な楽器の探求を噛みしめながら、多様な演奏家とのコラボレーションを介しても、ギター表現の可能性を豊かに拡げてきた旅人だ。新作の冒険はひとりきり、地球の裏側へ。ヴィラ=ロボスのソロ作品集を、折しもブラジル独立200周年の今秋にリリースした。
「ヴィラ=ロボスでいちばん感じるのは、メロディメーカーとして秀でているところ。すごくロマンティックな歌心があって、きれいな歌を書く人。アルバムを聴いて、いろいろ好きな歌を探してほしいなと思います。一瞬間が空いて、突然歌が始まったりするような曲では、その空白がとても大事だと思うので、ボールがバウンドして次に着地する瞬間みたいな間で考えます。この一点のタイミング、というのをいつも意識して」。
多種多様な編成で膨大な数の曲を書いた偉才だが、愛奏したギターの曲だけに、濃密な意気や創意が籠められている。「ギターやチェロだけでなく、いろいろな楽器を弾けたことが、彼の個性として強みになっていると思います。先を急がずに歌い込んだり、擦弦楽器のように表現したいところもたくさんあって、それを楽譜により忠実に表現することを考えて演奏しました、いろいろな楽器の方と共演してきた経験も活かして」。
師の福田進一のリクエストを受けて19年に挑んだ難曲“12のエチュード”を核に、“ブラジル民謡組曲”などショーロを前後に配し、もとは歌曲の“メロディア・センチメンタル”で結んだユニークな構成。実に6年ぶりとなる待望のソロ・アルバムにして、大萩自身のレーベルMARCO CREATORSからの第2弾となる意欲作だ。
「このエチュードを12曲まとめて演奏する機会はまずないですし、現実の自分の音楽的要素と肉体的要素を考えたときに、40代のいま録音しておくのが良いと思って。レーベル第1弾として、波多野睦美さんとの『プラテーロとわたし』を出したおかげで、自分がやりたいことを収められるというチャンスと自由を得ました。しかも、デビュー20周年に創ったレコードでもあったので、なにかほんとうに自分と一対一で向き合えるような曲集をプログラムに、と思ったのがこうなりました。2020年のコロナ禍でしたし。録音は納得いくまで、何十テイクを重ねても、できるかぎり自分がいまもっている力をすべて出し切れるまでやる。この一枚を通して、それはできた気がします」。
LIVE INFORMATION
大萩康司 ギター・リサイタル ゲスト:宮田大
2022年12月25日(日)東京・上野 東京文化会館 小ホール
開演:14:00
平常×宮田大×大萩康司『ピノッキオ』
2023年2月18日(土)、19日(日)東京・上野 東京文化会館 小ホール
開場/開演:13:15:14:00
https://www.kinginternational.co.jp/genre/marco-003/