台湾の中国琵琶奏者Pei-ju Lien
〈温故知新〉〈娓娓道来〉の音楽世界紀行
ペイル・リェンの弾く中国琵琶(ピーパ)にはシルクロードの響きがある。
ペルシャ起源の撥弦楽器バルバットから派生した琵琶族の仲間たちは、ウード、リュート、日本の琵琶などがあるが、ピーパは撥は使わず〈爪〉を五本の指に装着して演奏する。ペイルさんがピーパを縦に構えてつまびく姿は凛として美しく、音色は繊細で力強い。16歳の時、台湾で浦東派(Pudon)の琵琶大師・林石城氏(Shi-Chen Lin)の演奏を聴いて感動し、コンサートの後、直接会いに行き北京留学を決めた。当時は、実家の菜食料理店の経営を手伝い6年間の演奏ブランクがあったが、北京では難易度の高い奏法を次々と習得し、師匠から最後の弟子として認められた筋金入りの伝統音楽家だ。台湾の大学では、林谷芳教授(Gu-Fang Lin)に学び、中国音楽美学の修士号を習得している。2014年に台湾文化省から〈Promising young artist〉(前途有望アーティスト)として太鼓判を押された彼女の活躍の場は実に幅広い。京劇オペラ、映画音楽、ポップス、テレビドラマの音楽、ロックバンドにも参加し、「TED-台北」への出演も話題になった。
「ピーパは語るように弾きます。キープ・トーキング・トーキング・マイセルフ。演奏と間奏の中で、自問自答しながら、物語を語る。 それを〈娓娓道来〉(ウェイウェイタオライ)と言います」
古来の吟遊詩人の哲学のごとく。ソロアルバム『訴~Whisper』には、ピーパで吟じる詩心が細やかに表現されている。一方、中世ヨーロッパの古楽アンサンブルとの共演アルバム『TRANSCENDING CONTINENTS & MEMORIES “交織回憶的國度”』では、東西の古典曲と即興曲が現代音楽のように奏でられているのが印象的だ。
プロデューサーのタッド・ガーフィンクルは、パーカッショニストのティエリー・ゴマールとイタリアとフランスで古い教会を探し、ソロアルバムと古楽アンサンブルの録音を行なった。
「イタリアの山の上の教会は、周囲は墓地で、窓はガタガタ。南仏の教会では、騒音を避け、真夜中に録音を決行。音のまわり方は格別でした」(タッド)
「スピリチュアルな体験でした。見えないなにかが味方してくれたような響きでした」(ペイル)
そのまなざしは知的冒険者の視点だ。この夏は松本市で録音するため日本を訪れた。沖縄の三線に関心があり、奈良の正倉院の五絃の琵琶もいつか鑑賞したいと語る。来年はパリに長期滞在する予定だ。国境を超え、時を駆けるペイル・リェンとピーパの〈温故知新〉〈娓娓道来〉の旅は続く。