旧知のバンベルク交響楽団と、進化し続けるマエストロの共演に高まる期待

 今年の1月に撮影されたという、ブロムシュテットの映像をwebで見た。聴衆を前に、これから演奏する現代曲について彼がレクチャーしている映像である。解説のところどころで、この曲の特徴的なパートを事細やかに口真似しているのだが、その形態模写ならぬ音態模写の迫真さにちょっと驚いた。一種の芸能といってもいいその完成度。彼の頭の中には、音楽のすみずみまで完全に入っているのだろう。

 来年、90歳を迎える指揮者である。その長躯をすっくと立たせ、口調は淀みなく明快。続けて本番の映像も見たが、30年前にNHK交響楽団を演奏した頃の颯爽とした指揮ぶりと、驚くほどに変わっていない。

 スウェーデン人の両親のもとに、アメリカに生まれたブロムシュテット。日本ではNHK交響楽団の名誉指揮者として馴染み深く、シュターツカペレ・ドレスデンライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団サンフランシスコ交響楽団とのディスクでは、それぞれのオーケストラが持つ特性を生かした、堅実かつスタイリッシュな音楽を聴かせてくれた。

 近年、ブルックナー作品を演奏する機会がより増えた。86歳でウィーン・フィルの定期にデビューしたときも、ブルックナーの交響曲第5番を取り上げた。

HERBERT BLOMSTEDT ブルックナー:交響曲第7番 Columbia(2016)

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 今回、ブロムシュテットが日本で演奏する交響曲第7番は、シュターツカペレ・ドレスデンとの1980年の録音がよく知られている。オーケストラの響きを存分に生かした自然体の演奏だった。テンポ変化を際立たせず、スムースな流れを重視している。

 あれから30年余。最近の彼のブルックナーは、その自然体スタイルに新たな息吹が加わるようになった。たとえば、主題旋律のなかでさりげなくアクセントを強調して軽やかにタメを作る。しかし、それがまったくあざとくなく、実にスマートなのだ。

 また、緩徐楽章では、以前よりもテンポを落として、それぞれの声部の絡み合いをじっくり、濃密に描くようになった。それでいて、柔和で透明感のある質感を保つことで、重さ、停滞をまるで感じさせない。

 今回、ブロムシュテットは、1982年以降200回以上その指揮台に立ち、名誉指揮者の地位に就くバンベルク交響楽団と共に来日する。このオーケストラは、第二次大戦後にチェコから避難してきた音楽家によって結成されただけに、ボヘミアの気質が残っているといわれている。バイエルン州にある他のオーケストラのような南ドイツ風の明るさより、古きドイツを思わせる、深々とした美音を特徴とするのもそのおかげだろう。このオーケストラの美質を最大限に生かすブルックナーをブロムシュテットは聴かせてくれるはずだ。

 


LIVE INFO

ヘルベルト・ブロムシュテット指揮 バンベルク交響楽団
○11/4(金)19:00開演 会場:東京オペラシティ コンサートホール
曲目:ベートーヴェン:エグモント序曲
ブルックナー:交響曲第7番 ホ長調(ノヴァーク版)
www.operacity.jp/