インタビュー

キューバ人ピアニストのアロルド・ロペス・ヌッサ、ワールド度数高めなジャズ鳴らした新作『El Viaje』の背景を語る

写真提供/COTTON CLUB 撮影/米田泰久

 

ジャズ度数よりはワールド具合高めの、ジャズ。

 キューバのピアニストの躍進目覚しく、9月に東京ジャズ出演のため来日したアロルド・ロペス・ヌッサを取材した。取材前日、コットンクラブにも出演するというので、公演にもお邪魔して、今回のアルバム『エル・ビアッヘ(El Viaje)』の制作を機に刷新されたトリオ、日本初公開となる演奏を聴いた。ウエイン・ショーターの《フットプリンツ》以外はオリジナル作品だったが、ドラマー、パーカッショニストである弟とのデュオで演奏されたこの曲は、3対4のクロス・リズムだった。ビートのグリッドの変更がもたらすグルーブの変化に改めてキューバン・ジャズの懐の深さを痛感した。

HAROLD LOPEZ-NUSSA El Viaje Mack Avenue(2016)

 だが今回の新譜は、前回の『New Day』のジャズ具合に比べるとワールド指数の高い作品だと感じる。「そうですね、今作は、セネガル出身のアリュンヌ・ワッドゥの参加もあり、アルバムの世界地図は随分広がったと思います。でも実はセネガルでは熱心にキューバの音楽が聞かれているということ、実際に共演してみてワッドゥと私たちは、私たちの音楽を通じて繋がっていたということを感じ驚きました」

 しかし、キューバの音楽のリズムにはその土地のものにしか分かりえない謎がある。それはクラーベの2-3と3-2の使い分けに関する謎だ。実際の演奏でもアルバムでもそうだったが、アロルドは同じ曲で異なるクラーベを混在させる。「これについてはキューバのミュージシャンの間でも議論が絶えません。しかし重要なのは、クラーベに音楽を合わせるのではなく、音楽にクラーベを合わせるべきだということです。しかしなぜある時は2-3で、ある時は3-2と感じるのかは、私たちにとっても謎なのです(笑)」

 実に雲をつかむような話だ。さらに今回のアルバムには、とても懐かしい戦前のキューバ音楽にも似た空気を感じる。「レクオーナマヌエル・サウメルなど何人かキューバ音楽の歴史にはとても重要な作曲家がいます。彼らの作品を学び演奏してきた私の中には彼の音楽が溶け込んでいるんでしょうね」

 空間だけではなく、時間的にもとても広大なスパンで構想された音楽だが、さらにあらゆるルンバが、このアルバムからは聞こえる。「ワワンコ、ヤンブー、などルンバはとても重要ですし、伝統に向き合うことが可能性を開くことだと感じています」

 ピアニストとしてだけではなく、作曲家としても随分非凡な才能をこのアルバムで開花させたのではと伝えると、「作曲はまだまだ。自分にとっては新しい領域だと感じているんですよ」と遠慮がちに答えてくれた。

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