ロマンティックな街の噂に、実体の追いつく時がようやく訪れた。いまだ全容の見えないこの集団のポテンシャルはいかほどのものか、彼らはあまりにもスムースに証明する

 

スタイルの完成形

 ヘッズはもちろん、ファッション好きやサブカル好きからもいま熱い視線を注がれているKANDYTOWN。彼らは東京・世田谷区を拠点にして2009年頃に自然発生した総勢16名の幼馴染みから成るヒップホップ・クルー。平均年齢は24歳で、中には幼稚園から一緒というメンバーもいるほど。その始まりをYOUNG JUJUは「公園に集まってやってたサッカーとかバスケとかが徐々に音楽になっていって、それがヒップホップだったっていうだけの話」と語る。

KANDYTOWN KANDYTOWN ワーナー(2016)

 遊びの延長で始まった彼らにターニングポイントが訪れたのは昨年2月。クルーの発起人であり、ズットズレテルズでもラッパーとして活動していたYUSHIの死をきっかけに「YUSHIが一番だったってことを世間に知らせるのが残された人間の役目と思って」(YOUNG JUJU)、メンバー全員が集結。活動のギアを上げた。今回到着したメジャー第1弾アルバム『KANDYTOWN』の“R.T.N”にはYUSHIが遺した歌声を使用。通常盤のジャケットにもYUSHIが描いたイラストがあしらわれており、彼のイズムはしっかり作品に刻み込まれている。

 KANDYTOWN最大の特徴は、黄金期と呼ばれる90年代ヒップホップを想起させるサンプリング重視のトラック作り。ジャズ/ソウル/R&Bをネタ使いしたネオ・ヴィンテージなサウンドは薫り高いメロウネスを湛えている。

 「今回はいままでやってきたことをさらに進化させようと。自主制作の2枚で自分たちのスタイルが完成されつつあると思っていたんで、その完成形を意識して作ったところはあります」(Neetz)。

 「俺もいままで通り。メジャーだからとかは考えず、自分の好きな感じで作りました。正直、最後に曲順を決めるまでは全体像が見えなかったけど、決まったときはすごくしっくりきました」(MIKI)。

 「今回、ビートはNeetzがメインで、次にMIKIが来て、俺は3番手でいいと思ってたんです。最終的に2人から上がってきたトラックを踏まえて、そこにちょっとしたスパイスを入れられたらいいなと思って作りました」(呂布)。

 「MIKIはけっこう自分でネタを選んで作ることが多いんですが、Neetzとはもともと一緒に作ったりしていたんで、俺がネタを選んで渡すこともあります。いまみんなが聴いてる最新のヒップホップも意外とネタ使いだったりするし、90年代からネタの使い方は進化しているので、そのへんは意識しました」(Minnesotah)。

 

ロマンティックでスムース

 歌詞がハードコアじゃないのも彼らの特徴。歌われるのは〈泥臭いリアル〉ではなく、リアルとイマジネーションが絶妙な割合で配合された〈ドライなようでいて熱を孕んだリアリティー〉。詩情はどこかメランコリックで、甘苦く、シネマティックな趣もある。そんな言葉たちを運ぶフロウはベタッとしていて湿り気があるのだが、言葉の響きが見事にサウンドと調和。そのためスムースに耳に届く。

 「たぶんリアルをそのまま伝えてもおもしろくないんですよ。IOくんがよく言うんですけど、ひとつ遠回しに表現する。直接言っちゃうのは簡単だから、聴き手にもう少し想像させるように書くっていう」(MUD)。

 「リリックを書くときは、頭に浮かんだロマンティックなシーンを切り取ったりして言葉にしていく。だから、リアルは6くらいで、そういうシネマ的なものが4くらいの割合かな」(IO)。

 「フロウを作るときは、まずビートに合わせてデタラメ英語みたいな感じで作っていくんです。それに合わせて言葉を探していく。だから、スムースに聴こえるんだと思います」(YOUNG JUJU)。

 「特に最後の曲のBSCのフロウは、曲との一体感が素晴らしいですからね」(MIKI)。

 全19曲という特大ヴォリュームで完成した『KANDYTOWN』。ここには日本語ラップの新しい潮流と、ひりついた都会の夜に似合うクールネスとほろ苦いロマンティシズムがたっぷり詰まっている。