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多くの即興音楽は、実は大嫌い(笑)。政治的すぎたり、退屈だったり

――そもそも皆さんはいつ頃から即興音楽をやるようになったんですか?

山本「僕は地元が山口県の防府市なんですけど、そこにある〈印度洋〉というバーに、高校生の頃から通い詰めてたんですね。地元が同じ一楽儀光さん(ドラびでお)が、そこを拠点にしていたというのもあって、灰野敬二さんや、大友良英さん、海外からも即興演奏する人たちがたくさん来ていて。〈西の(難波)ベアーズ〉とも呼ばれていたんですよ。まあ、ベアーズも西ですが(笑)。だから、いわゆる即興演奏を特殊な音楽の作り方などとも思わずに、気が付いたら自分も始めていました」

ドラびでおの2006年のライヴ映像
 

ジム「私が100%即興の音楽を初めて聴いたのは、デレク・ベイリーデイヴ・ホランドのデュオが制作した『Improvisations For Cello And Guitar』(71年)のレコードだったと思います。ECMからリリースされた作品ですが、私が聴いたのは79年か80年くらいで、10才か11才の頃でした。それまで特に即興に興味があったわけじゃないけど、これはおもしろい!と思って、関連作品を図書館で片っ端から借りまくった。ただ、多くの即興音楽は、実は大嫌い(笑)。政治的すぎたり、退屈だったり……おもしろい作品ばかりではないんだよね」

デレク・ベイリーとデイヴ・ホランドの71年作『Improvisations For Cello And Guitar』収録曲“Improvised Piece III”
 

一同「ハハハ(笑)」

ジム「高校生の頃には普通のジャズ、マイルス・デイヴィスジョン・コルトレーンなどを聴いていて、そこからセシル・テイラーオーネット・コールマンに行きました」

セシル・テイラーの69年のライヴ映像
 

石橋「私はいま40代なんですけど、30才になる頃まで、人前で即興音楽というものをやったことがなくて。ライヴなどでやるようになったのは、吉田達也さんや達久くんのような、即興音楽を盛んにやっている人たちと会うようになってからですね、でも、最初の頃は私も即興ってよくわからなかった。演奏しててもつまらないというか……(笑)。それでもいろんな人たちと即興のセッションを続けていたら、かつて自分が曲を作るときにしていたこと――つまり曲を作っていくプロセス自体が即興なのだということに気が付いて。それからはわりと楽しめるようになっていきました」

石橋英子と山本達久の2013年のライヴ映像
 

――曲を作っていくプロセス自体が即興とは?

石橋「宅録というのは、その場で考えながらトラックを重ねていくわけじゃないですか。それって要するに、〈即興の積み重ね〉だったと気付いたんです。自分はそれまで即興演奏に対して、難解かつ堅苦しいものという認識だったんですよね。演奏するうえでも、いろんな制約があると思い込んでしまっていたけれど、そこから解放されることでようやく楽しめるようになりました。そうしたら、即興以外の音楽に対しても捉え方が変わってきたんです」

――どのように変わったのですか?

石橋「曲を作ることも、人前で演奏することも、自分のなかから出すと思ったら相当しんどい作業です。でも自分でも思いがけないことを待つ態度が風通しを良くするんですよ。そんな感覚を即興に教えてもらったような気がします」

 

どうして音楽を〈理解できるもの〉と思う?

――即興演奏をしていて、どんなときにおもしろさを感じるのでしょうか。

山本「例えば自分がアイデアを出すとしますよね。それに対し、相手が何か応えてくれたとき、自分が思い描いていたイメージとまったく違うものだったりする。そうすると、自分のアイデアもガラッと変わる。そこには聴いたことのないような新しい音楽が生まれる可能性だってあるわけで。それが高校生の頃からいままで、ずっと即興演奏をやっている理由ですね」

――相手のアイデアに対して反応するためには、やはりある程度の引き出しや反射神経が必要なのでしょうか。

山本「うーん、どうかなあ。大事なのは〈度胸〉じゃないですかね(笑)」

――そういう演奏スタイルは、ミュージシャンなら誰しもができるというわけじゃないんですよね? ある程度インプロヴィゼーションに関する知識やトレーニングが必要というか。

山本「いや、やろうと思えば誰でもできるんじゃない?」

石橋「うん。そういう耳と心を訓練すれば、自分が必要だと思う以上の技術や理論は必要ないし」

――相手に反応するためには、引き出しも必要なのかなって。

石橋「引き出しなんてなくてもいい。私なんて引き出し全然ないですよ。引き出しとか、あまり考えたことがない」

山本「俺も考えたことないかな」

石橋「むしろ、そういう手癖に繋がるものから解放されたいと思ってやっているのかもしれない。自分はこんな手の動きをするつもりじゃなかったのにという瞬間を、期待してやっているというか。そうすると、自分の足りない部分もわかってくる。自分の壁を乗り越えるためには、自分自身を知る必要がありますよね」

――今日はまったくダメだったなという日もあるんですか?

山本「ダメな演奏でしょう? たくさんありますよ」

石橋「それだけ、演奏者のその日のコンディション、お互いの波長の違いとか、そういうものに影響されやすいんでしょうね、即興演奏は」

――即興音楽には、どうしても難解なイメージがあるというか、理解するためにはある程度の知識や素養が必要なのかなと思ってしまうのですが。

ジム「逆に、あなたはどうして音楽を〈理解すべきもの〉〈理解できるもの〉と思うんですか? 例えばポップソングに関しては、多くの人が聴く前から理解できる音楽だと思ってる。私は、即興音楽に対してもポップソングに対しても、理解できるはずとは思わない。どんな音楽だろうが〈理解できるはず〉ではないんです」

石橋「音楽を聴くとき、すでに聴いたものや聴いたことがある感じのするほうが、やっぱり好きだし安心できるんですよね。でもポップソングだって、よく聴いてみたら凄く難解なものだってある。コードチェンジや歌詞が狂気じみているものもあるじゃないですか(笑)。だから、即興音楽とポップソングには、実は明確な境界線はないんじゃないかと思うんです」

 2013年に100枚限定のCD-RとBandcampで発表された楽曲“Two”
 

――お話を聞いて、いますぐ『nemutte』を聴き返してみたくなりました。3人のせめぎ合い、対話、そして、良いね!と思った瞬間……それをジムさんがどのようにエディットしていったのか、いろいろ想像しながら聴いたらさらに楽しめそうですね。

ジム「そうですね。今回、私は3人の演奏のドキュメンタリー作品を作っているつもりはなくて。最終的には〈作品〉として完成させているつもりなんです」

石橋「誰がどこで何を演奏したかという〈記録〉みたいなものよりも、音楽としていかにおもしろいか、ということだよね。決して難解なことをやっているつもりはないし、もしカフカ鼾に対して、〈難解なことをやっているバンド〉みたいな、何かハードルや壁のようなものを感じているのだとしたら、それをできる限り外して楽しんでもらえたら嬉しいです」

 


カフカ鼾『nemutte』release live
日時/会場:2016年12月1日(木) 東京・六本木SuperDeluxe
開場/開演:19:00/19:30 
料金:前売り/3,000円、当日/3,500円(いずれもドリンク代別)
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