コラム

波多野敦子『Cells #5』山本達久や石橋英子と多重録音で構築した〈器官を持たない生き物〉のような弦楽アンサンブル

〈Cells Music(=細胞音楽)〉シリーズ第二弾は、多彩なゲストと共に

 ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロなどを扱う弦楽器奏者としてポピュラー・フィールドから実験的/即興的な音楽シーンにいたるまで多岐にわたる領域で活躍する波多野敦子が、2014年頃より開始した弦楽多重録音オーケストラの〈Cells Music(=細胞音楽)〉シリーズ。『Cells #5』はその第二弾となるアルバムだ。2017年に第一弾『Cells #2』が発表された同シリーズでは、粘菌や蜂の巣のような集合体に対する愛着、いわばトライポフィリアを音楽へと転換することが目論まれており、録音された無数の音素材を重ね合わせ、あるいはミニマルに連ねることによって、結果的にダイナミックな集合体としてのアンサンブル・サウンドを生み出している。(なお、同シリーズは当初より全7作品が構想されており、今作に続く第三弾となる『Cells #7』に向けた習作として過去の録音を再構築した作品が彼女のBandcampでは公開されている)

波多野敦子 『#Cells 5』 Triolabel(2021)

 前作では20分弱の長尺トラックがメインだったことと比べれば、今作では比較的短い楽曲として各トラックがまとめられていること、そして何よりも楽曲ごとに多彩なゲストを迎えていることが特筆に価する。ワルツのような三拍子のフレーズを繰り返す生駒祐子のアコーディオン、時におおらかなメロディーを歌い上げるicchieのトランペットや工藤夏海のホルン、あるいは徐々にリズミカルなビートを滲ませていく山本達久のドラムス、そして叙情的で映像を喚起する石橋英子のピアノも聴きどころだが、そうしたゲストたちが発する音を包み込むように自己の一部として取り入れて増殖/変容していく弦楽アンサンブルがやはり素晴らしい。微視的に着目することで聴こえてくる緻密な音の動きと、それらが集合することで巨視的には緩慢に変化するサウンドの流れは、あらかじめ決められた器官を持たない生き物のようでもある。人間社会もまた、個々の特異な人生が集合することでリゾーム状の変化を全体にもたらす。本盤は制作に約4年が費やされたそうだが、身体的にも精神的にも隔離されつつある現在こそ、個と全体の有機的な関わり合いそして協働性へと思考を導く本作の意義は、より一層重要なものとしてあるとは言えないか。