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ブルー・マジックは数年前なら聴けなかった

「60年代に活躍したコーラス・グループで、ドゥワップから派生した曲を歌い、モータウンH=D=Hが書いた良質のポップスを歌ってヒットを飛ばした後に、メンバーが抜けたり、時代が変わってファンクをやるようになって……といった変遷を生き抜いた面々は、その後(70年代当時トレンドだった)フィリー録音作を出すようになったりしていて、なかでもスピナーズテンプテーションズあたりはすごく良くなるんです。テンプテーションズはものすごく男らしい曲ばかり歌うようになっていた。A面がファンクで、B面はメロウ・チューンが占めたアルバムを出したりしていて」

※ホランド=ドジャー=ホランド。60年代を通じてモータウン専属のソングライター/プロデューサー・ユニットとして活躍。数々の特大ヒット曲を送り出して黄金期を支えた

テンプテーションズの81年作『The Temptations』収録曲“Open Their Eyes”
 

「スピナーズの曲もいいんですよ。このグループは“It’s A Shame”以外はないと思っていたので、フフフ(笑)。絶頂だなと思いました――第1次ディスコ期と言われたフィリー・ソウル、いまさらかよ!と思う人もいるかもしれませんが、僕はいまようやくハマりました」

スピナーズの73年作『Spinners』収録曲“Could It Be I’m Falling In Love”
 

――でも遅かれ早かれ、ハマくんにもその時は来ると思いましたよ。ソウルもファンクもこれだけいろいろ聴いてきているわけだし。そういうフィリーなモードになるタイミングが巡ってくるんですよね。なんでかオージェイズを欲するような(笑)。

ブルー・マジックなんて、絶対数年前じゃ聴けなかったんですよ。あ~こっち系ね、歌が上手い感じね、というくらいで」

ブルー・マジックの74年作『Sideshow』収録曲“Sideshow”
 

――歌が上手い感じ(笑)。

「それ以上何も感じられないというか。いまはそういう音楽を聴ける心持ちなんでしょうね。ハロルド・メルヴィン&ブルー・ノーツ、あとはビリー・ポールの顔がいっぱいあるジャケットのアルバム(72年作『360 Degrees Of Billy Paul』)――あれは名盤と言われているだけあります」

ハロルド・メルヴィン&ブルー・ノーツの72年作『I Miss You』収録曲“If You Don’t Know Me By Now”
 
ビリー・ポールの72年作『360 Degrees Of Billy Paul』収録曲“Me And Mrs. Jones”
 

「あとジャクソンズもPIRから出してますよね(76年作『The Jacksons』、77年作『Goin’ Places』)。あれも良かった。そしてオージェイズはもちろん。結構男性グループが多いですよね。スリー・ディグリーズはいますが」

ジャクソンズの76年作『The Jacksons』収録曲“Enjoy Yourself”
 
オージェイズの72年作『Back Stabbers』収録曲“Back Stabbers”
 
スリー・ディグリーズの73年作『The Three Degrees』収録曲“When I Will See You Again”
 

「(フィリー・ソウルは全体的に)83年あたりからドラムの音が変わっていって機械的になるんですよ、クラブ・ミュージック感覚が強くなっていくというか。マクファデン&ホワイトヘッドの3作目(『Movin’ On』)は82年にリリースされていますが、それはギリギリ聴けました。少し前までは音的に70年~78年くらいまで(聴ける)かなと思っていたものの、83年くらいまで大丈夫なことに気付きました」

マクファデン&ホワイトヘッドの82年作『Movin' On』収録曲“Movin’ On”
 

――ついに80年を跨ぎましたね。

「そうですね。80年代は、ブラック・ミュージック以外は好きなんです。でもブラック・ミュージックだけ……なんでだろう?」

――なんでだろう? まだまだ探求が続きますね。

「本当ですね。ツアーに出るとGoogleマップが便利で、自分のいる地点から〈レコード〉と入れると周辺のレコード屋がバーッと出るんです。会場から近いと歩いて行ったりしていて。それだけでおもしろい。行ったことのあるレコード屋もたくさんありますが、去年行った時は何にもなかったなという店でも、いまこういう音楽を好きになって改めてそこへ行ってみると、ものすごく欲しい盤があったりして。それで行けば行くほど知るじゃないですか、記憶力との闘いです。だから知れば知るほどツライんですよ、フフフ……」


慣れないジャズ・コーナー行脚

「話はいきなり変わりますが、1930年代~50年代手前くらいに活躍したアーリー・ジャズのシドニー・ベシェは知っていますか?」

――ソプラノ・サックス奏者の。

「そうです。ニューオーリンズ出身の、ジャズ創世記の一人だと言われている人です。彼の音楽はいわゆるジャズと言って思い浮かべる、チーチキチーチキとスウィングする感じではないじゃないですか。だから僕はこれがジャズだという認識もなかったくらいなのですが、でも“Si Tu Vois Ma Mere”がすごくいいなと思って。それで調べたら大昔中の大昔の人だということがわかった」

★シドニー・ベシェ
1897年生まれ、ニューオーリンズ出身のソプラノ・サックス奏者。幼い頃にクラリネットを始め、10代の頃からクラリネット奏者として地元で頭角を現す。19歳でピアニストのクラレンス・ウィリアムズと共にシカゴへ渡り、その後に渡英。そこでソプラノ・サックスを始めた。帰国後の1923年にクラレンスのグループで初録音、そしてデューク・エリントンのバンドなどに参加したり、ルイ・アームストロングとも演奏。アメリカだけでなくヨーロッパ各国で活動を展開する。1939年にブルー・ノートで“Summertime”をレコーディング。レーベル初のヒット作となる。1950年代にパリへ移住し、それ以降はフランスを拠点に活躍。1959年没

シドニー・ベシェ“Si Tu Vois Ma Mere”。ウディ・アレン監督による2011年の映画「ミッドナイト・イン・パリ」で使用された
 

「ソプラノ・サックスをジャズ・シーンに持ってきた人と言われているらしいです。そのヴィブラートの過剰さにヤラれてしまって。ソウルやロック、日本の歌謡曲はなんとなくわかりますが、僕がレコード屋でいちばん手を出さないのはジャズなんです。でもやっぱりジャズはすごく強いので、日本各地にジャズ・ストリートやジャズ・クラブというものがある。だからおのずとジャズを置いているレコード屋も多い。でも僕には知識がないのでレコードの堀り方もわからなくて。でも僕はこの楽曲(のレコード)が欲しいと思ったんです」

――これもまた新しい扉を開いてしまいましたね!

「“Si Tu Vois Ma Mere”はフランスに行った後の楽曲なので、ベシェ後年のもので。それでツアー先の岡山にあるジャズのレコード屋で、物は試しにSの棚を見てみたんです。そうしたらベシェがあったんです。この楽曲は入ってなくて、1930年代のものしか入っていないレコードだったのですが、どれもすごく良かった。だから……ヘンな話ですけど、ザ・フーのシングルは、どの国の盤でもシングルを見つけたら全部買うことにしていて、それと同じようにシドニー・ベシェも見つけたら全部買おうと思って(笑)」

シドニー・ベシェの1952年の楽曲“Petite Fleur”。ザ・ピーナッツが“可愛い花”として同曲をカヴァーしている
 

――結構見つけられていますか?

「このツアー中は、地方で6枚くらい……やっぱり本当に少ないんです。扱いが普通のジャズと違うので。ニューオーリンズのコーナー、ディキシーランド・ジャズというふうになる。だからなかなか見つけるのが難しい」

※ニューオーリンズで20世紀初頭に生まれたジャズのスタイル

――あー、そうですよね。

「それで東京のディスクユニオンのジャズ館に初めて行きましたもん。ソウル館だとDJも来るし、みんなギラギラしているんですよ、探すのに必死で。でもジャズ館はびっくりするくらい平和(笑)。値段の高い盤を店内で試聴して、さんざんウンチクを垂れて、8万円くらいのレコードを買っていくおじいちゃんがいるような(笑)。それがすごくいいなと思って。でもやっぱり掘り方がわからないんですよ。レーベルごとに分かれていたり、楽器で分かれていたり、ブルー・ノートの盤が品番ごとに並んでいたり。本当にわからなさすぎるので、とりあえず片っ端から全部堀ってみました、ハハハハハ(笑)」

――全部! 気が遠くなる(笑)。

「だって、どこにベシェがいるかわからないから(笑)。時代もわかるし、楽器もわかりますが、ソプラノ・サックスのところを見てもいないし。それで全部掘っていたら、見かねたお店のお姉さんに〈何かお探しですか〉と声をかけられて。でも僕は店員さんに訊いて何かを達成するのを良しとしないので、〈いや、いいです〉と言って、自力でずっと探していたのですが、結局見つからなかったんです。仕方がないので別の名盤ものを買おうと思ってレジへ行ったら、レジ横に7インチの箱があって、会計してもらっている最中にそれをチェックしていたらベシェが出てきたんですよ、300円くらいで! そうしたら、誰かがまとめて売ったのか、15枚くらい出てきて。なのでそれをガサッと取り出して、〈(レジに)これも〉と(笑)」

――ほ~。

「なので結構集まってきましたよ。でも“Si Tu Vois Ma Mere”が入っているレコードにはまだ巡り会ってないんです」

――でも、ベシェはそもそも作品としてあるものが少ないんじゃないですか?

「そうなんです、アルバムとしてはない。聴こうと思ったらSP盤の世界になっちゃうと思います。でも流石にSP盤は聴けないので……。だからいまはレコードを買いはじめたばかりの子のような失敗をしているんです。なぜなら、見つけた盤を片っ端から買うじゃないですか、そのほとんどは収録曲が被ってる」

――あー、編集盤だから(笑)。

「そう、勉強になりますよ。幸いベシェはアーリーすぎて、価格がすごく安いので助かっていますが。ブルー・ノートで吹き込んだものは少し高いみたいですね。でもやっぱり個人的にはフランスに行った後の楽曲を見つけたい。だからフランスの棚とニューオーリンズの棚を見たりしています。レコード屋で掘るのは慣れたと思っていたものの、いまは慣れないジャズのコーナーでアワアワしている(笑)。でも楽しいですよ」

 

PROFILE:ハマ・オカモト


OKAMOTO'Sのヒゲメガネなベーシスト。バンド活動の傍ら、TV番組のMCや数多くのアーティストの楽曲に参加するなど、忙しい毎日を送る好青年。2015年の最新作『OPERA』の発表以降は、シングルのリリースが続いており、今年は6月の“BROTHER”を皮切りに、9月の“Burning Love”、10月の“ROCKY”(共に配信限定)をリリース。その最中にはOKAMOTO'S初となる47都道府県ツアー〈OKAMOTO'S FORTY SEVEN LIVE TOUR 2016〉を半年かけて完走するなど、バンドとしてエピックな活動を展開。そして12月21日にはTシャツ付きアナログ盤&配信のみでミニ・アルバム『BL-EP』をリリースする。またハマ個人の最近の活動としては、平井堅吉澤嘉代子Negicco杏子星野源らの作品に参加するなど、相変わらず外仕事も精力的! 

OKAMOTO'S“ROCKY”
 
ハマ・オカモトが参加した星野源の2016年のシングル“恋”