今回の課題盤
とはいえ……(の理由は後述)
「まずはこの話から始めたいのですが、おかげさまでアクセスが……」
――そうなんですよ! トロ・イ・モワの新作『What For?』を取り上げた前回もまたたくさん読んでいただいて。
「おかげさまで。ちょうど新作がリリースされる直前だったこともありましたし」
――あとは、アンジュルムやJuice=Juiceなどのお話をした〈番外編〉効果もあったかなと。
「僕もハロプロ界隈で拡散されているところを見てました……見てましたよ~!(※拡散してくださった皆さんに呼びかけています)。ハロプロのファンの人たちにもとても好意的な捉え方をしていただいて。トロ・イ・モワの新作の音源や彼の〈SXSW〉でのライヴ映像が貼ってあるなかでアンジュルムやカントリー・ガールズの話をしているというのはなかなかないと思うので、とても良かったです。引き続きお願いします、皆さん!」
――私からもよろしくお願いします、皆さん!
「前回のトロ・イ・モワは新作リリース前に先行して公開された楽曲からその中身を予想する、ということだったので、いざアルバムがリリースされて……というところで、まずは僕の感想を言うと、後半戦とても盛り上がっていく傾向にありましたね」
――とても良いサイケなギター・ポップ盤でしたね。
「すごく良かったです。全編に渡って入っている音はちょっと懐古っぽくもあるけど、いまの機材というか新しい音がしっかりと入っていてカッコイイ。冷静に考えたらあのテンションを保ってアルバムを作り上げている人は最近いないなと思って。“Buffalo”や“Empty Nesters”も映えているし。前回言っていた通りの内容だったなと思います。発売形態もいいですよね、CDとTシャツのセットがあったり、ヴァイナルもあるし」
――最近Tシャツとセットになっているのをよく見ますよね。
「ヴァイナルはマーブルなんですよ(※デラックス・エディションのみ)」
――カワイイ!
「コレクションというか、買って飾っておく、といった感覚に訴えかけるところもいいですよね。それで、そのトロ・イ・モワの回の記事が掲載された頃にちょうどツアーに出ていたのですが、ライヴ以外はほとんど食っちゃ寝みたい感じなので(笑)、音楽をいっぱい聴いてたんですよ。そのタイミングでファレルがプロデュースしているスヌープ・ドッグの新譜からの先行曲“Peaches N Cream”を聴いたり、機材車でケンドリック・ラマーの新しいアルバム(『To Pimp A Butterfly』)を聴いて盛り上がったりしていて。なので、そのなかから今回のお題をピックアップしようと思ったのですが……盤を一枚となるとどうしたらいいんだろうと思って」
――なるほど、どれを取っても言いたいことが集約されるから……ということなんですね。まあどれにするかは後で考えましょう(笑)。
「そうですね。とりあえずびっくりしたのが、ケンドリック・ラマーの新作に収録されていた“i”でアイズレー・ブラザーズをモロ使いしているという」
――“That Lady”ですね。この曲が収録されている『3+3』は以前bounceでの連載時に取り上げました。
※アイズレー・ブラザーズ『3+3』を取り上げたbounce連載の記事はこちら
「そうそう。マーク・ロンソンの回などでさんざん言っていた、かつてのファンクをモダンなサウンドにアップデートして提示するというこの流れが、ケンドリック然り、モロにPファンクじゃん!となったスヌープの“Peaches N Cream”然り、ヒップホップ界隈でも顕在化してきたんだなと」
――スヌープの“Peaches N Cream”には元ギャップ・バンドのチャーリー・ウィルソンを招いているのもありますし……チャーリーのちょっと前に出たアルバム(『Forever Charlie』)にスヌープが参加したという伏線はあったにせよ。一方でケンドリックのような使い方それ自体はそもそも……なものの、まったくいまのこの流れと関連がないとは言えないし、われわれリスナー的にもそういう耳で聴いてしまう向きはあるかもしれません。
「確かに作法などの面では新しくはないんですけどね。このタイミングでアレをやられると……。ケンドリックの“i”は、サンダーキャット(ベース)が個人的に苦手なので〈ジャマすんな〉って思ったんですけど(笑)」
――苦手ですか……。
「奇を衒いすぎな感じがするんですよね。ああいう人がいるから〈ベーシストは変態だ〉などと言われて、寒い感じになってしまうのかなと。いわゆるそういうことをやっていない時はとてもいいと思うんですよ、エリカ・バドゥのバックをやっていたりする時は。普通に徹してくれていればいいのですが……キャラクターの強すぎる人はあんまり好きじゃないのかもしれないですね、個人的に」
――そうですか~……結構いい仕事してると思いますけどね(笑)。
「もう40年以上前の曲である"That Lady"ですが、サンダーキャットのイントロ※をなしにするかのような破壊力はいまだ健在ですね。でもこういうこと言うと……前に〈マーカス・ミラーが好きじゃない〉という発言ですごい炎上してしまったのですが、サンダーキャットも含めてちゃんと聴いてきたうえでの感想なので……そこがなかなか伝わらないんです(苦笑)。まあそれはともかく、いよいよファンクがキテる、ソウルがキテるというのではなくて、ブラック・ミュージック史が1周してるぞということが明確になってきているような気がしますね。ケンドリックの新作がレコード・ショップで面出しされているなら、アイズレーの『3+3』が併売されているか否かはすごく大きいことだなと」
※MVで聴ける冒頭部分はアルバムに収録されているヴァージョンには含まれていません
――一緒に並んでいるのがベストでしょう……。
「そうやって置かないとダメだと思うんですよね。いまだからこそ」
――はい……そうですね……。
「そういえばシックもアルバムがリリースされるんですよね」
――23年ぶり……ですか。6月あたりに出るようです(予定)。
「先行して2曲入りのEPがリリースされましたよね。表題曲の“I'll Be There”はインストが事前にYouTubeなどで公開されていて、その時点ですごいカッコ良かった。あのPVも観ました?」
――観ました。あのベタな感じが結構好きですよ(笑)。
「まあそのー……作りはちょっとこう……って感じでしたけど、ナイル・ロジャース・ワークスのヴァイナルが床に散らばっていたりするところが泣けるなと思いましたし、Aメロに〈Everybody dance~♪〉ってサンプリングが入っているのにもすごいグッときて。サウンドはもちろんすごくカッコイイし。この“I’ll Be There”で、最近自分がこの連載などで言ってきたことを全部まとめてくれた感じがしたんですよ。さらにB面が……“Back In The Old School”(笑)!」
――そのまんま(笑)。
「ちょっと預言者みたいな感じになっている(笑)。だから本当に流れが完璧だなと思って。ところで、マーク・ロンソンの“Uptown Funk”が米ビルボード・チャートで10週以上連続1位だったというのもちょっとすごいことですよね。この間(星野)源さんと話していたんですけど、某コンビニで〈超イケメンDJのマーク・ロンソンの新作!〉みたいな感じで“Uptown Funk”がかかっていたみたいで。紹介の仕方はどうあれあの楽曲が普通にコンビニで流れてるのはすごいことだなと」
――一部の音楽好きだけが盛り上がっているのではないということですからね。まあ〈超イケメン〉というキャッチーさもあるかもしれませんが(笑)。
「僕としては止めてほしいんだよな~(苦笑)。まあそれはともかく、この連載がMikikiでリスタートする前から言っていますが、やっぱりダフト・パンク“Get Lucky”の影響の大きさは改めて感じますね」
――水面下ではなく、オーヴァーグラウンドで顕在化した瞬間だったのかなと思います。
「年齢層を広げたのがブルーノ・マーズの“Treasure”(同曲収録アルバム『Unorthodox Jukebox』のリリースは“Get Lucky”より早い2012年だが、シングル・カットされたのは2013年)なんですかね。ここまでこういう音が一般化するのって、音楽史的にも久しぶりのアタック感なんじゃないかなと思います」
――このタイミングで良い作品がたくさん生まれているからだと思いますよ。
「ホントそうなんですよ。やっぱり良い作品がどんどん生まれて、そのテンションに乗っかったり影響されたりしてまた良いものが生まれるというサイクルも絶対ありますよね。良い時代っていうか良い瞬間にいるなと思いますよ。そこでやっぱり……かつて不思議な小さな島国・日本は独自のディスコ文化が作られたわけじゃないですか。そういう感じでいままた盛り上がったらおもしろいんじゃないかと思うんですけどね」
――真似ではなくて独自の、というのがポイントですね。
「そういう意味ではいち早く清(竜人)くんがやってますよね」
――ああ~! そうだ!
「清 竜人25の“ラブ♡ボクシンング”などダンス☆マンが関わった楽曲はいまリリースされていたらちょっと印象が違ったんじゃないですかね。やっぱりスゴイ人は早いんですよ」
――昨年の楽曲とはいえ、いまのスピード感からするとちょっと早い気がしてしまうという。
「そのスピード感が、やっぱり他の国と違うところだなと。単純に〈いまキテるからやろう〉みたいなノリも絶対にあると思うし、その素晴らしさたるや!というのをすごく感じます」
――なるほど。良い意味でのフットワークの軽さがあっても、ということですよね。
「そういうノリが広く響き出しているのがおもしろいじゃないですか。でも日本だとブラック・ミュージックが他の国ほど浸透していないから難しいのかな。ホントにそこが不思議なところで。『Superfly』(カーティス・メイフィールドによる72年の映画『スーパーフライ』のサントラ)なんて本当にすごいカッコイイと思うんだけどな、ヴィジュアルも含めて――なんでダメなんだろう。でも、この記事をわざわざ読んでくれている人たちは少しでも興味がある人だと思うので、ぜひこの良さは共有したいです」
――そうですね。「スーパーフライ」といえば、スヌープ・ドッグ“So Many Pros”のMVがブラックスプロイテーションのポスターをオマージュしていて、その作り込み方といい最高でしたね。スヌープの新作は個人的にかなり気になっています。これまでに公開された曲を聴く限りでは思った以上にファレル色とPファンク色が強い印象です。
「全体が気になりますよね。僕はもうスヌープ・ドッグとして聴いてないです。普通に声にクセのあるラッパーの新譜っていう、まっさらな感じで聴くと新曲はすごい良かったですね。“Peaches N Cream”のサビで言ってる言葉……なんて言ってるんだろう……あれはまさにファンク・マナーなんですよ」
――ほ~?
「〈スター・ウォーズ〉でいう〈嫌な予感がする〉みたいな絶対に出てくるフレーズというか。それにしても本当に多いよな~。今回だけでケンドリック、スヌープ、シックでしょ。他にもそれっぽい作品ありましたか……?」
――やっぱりタキシードじゃないですかね。聴きましたか?
「やんわりと。みんな結構褒めてますよね。好きですか?」
――私は好きです。あんまり……でした?
「うーん……何となく試聴しましたけど。ちゃんと聴いたら(気持ちが)変わるのかもしれないのですが、やっぱり……80年代(スタイル)だから」
――そうか……そうでしたね(笑)。
「そこだと思うんですよ。個人的には70年代のリヴァイヴァル、70年代の匂いが戻ってきてるのに、いきなり10年飛んじゃったから〈うわ、早いっす!〉みたいな(笑)」
――まだ追いついていない感じだ(笑)。
「うん……そういう印象があったから、いいやと思ってたんですけど、この間レコード屋でDJやってる友達に会ったら〈タキシード聴きました?〉と言われて、いまのように返したんです。そうしたら、〈あれヴァイナルの音がハンパじゃなく良いので、そっちを買ったほうがいいですよ〉と」
――あれま、そうなんですね! 普通にCD買っちゃいました。
「ダウンロード・コードもありますし。だからヴァイナルで買って聴こうと思ってるのでまだ手を出せてないんです。でもみんないいって言ってますよね」
――いまの話の流れだと聴いておいたほうがいいアルバムなのかなと。
「このへん(ディスコ/ブギー系)のコンピは結構聴いていて、コンピ聴きは好きなんですが、全部一緒になってきちゃう感じありません? そこなのかな。でも(タキシードは)アートワークもイイし、いま盛り上がっているなかの一枚だからちゃんと聴いてみます」
――その時にまた感想を聞かせてください!
「じゃあ今回の1枚はどうしましょうかね……。やっぱりシックにします!」
PROFILE:ハマ・オカモト
OKAMOTO'Sのヒゲメガネなベーシスト。4月24日(金)の東京・EX THEATER ROPPONGIを皮切りに大阪、名古屋を回る〈OKAMOTO'S LIVE 2015 CDVDC〉ツアーが絶賛開催中! また、4月25日(土)には黒猫チェルシーと合同で〈ARABAKI ROCK FEST. 15〉に、5月4日(月・祝)には〈rockin'on presents JAPAN JAM BEACH 2015〉へ出演します。さらに、6月17日には岸田繁(くるり)プロデュースの“Dance With Me”含む両A面シングル『Dance With Me / Dance With You』をリリース! ハマ単体では、5月22日に発売されるCharの新作『ROCK十』収録曲“トキオドライブ”にベースで参加しています。そのほか最新情報は、OKAMOTO'Sのオフィシャルサイトへ!