
原曲に対するリスペクトがないと上手くいかない
――マーティさん、今回のアルバムはいかがでした?
マーティ「すごく好きでした。選曲もおもしろいですね。原曲への愛を感じさせつつ、自分たちらしい演奏をしている。完コピだとつまらないじゃん?」
西山「そうですよね」
マーティ「西山さんの解釈になっているからワクワクするんですよ。そこが好きですね」
――選曲するにあたってはどういうテーマがあったんですか?
西山「前のアルバムで入れられなかったバンドを入れようと。あと、有名なバンドはまず押さえておきたくて。前作のとき、私たちのアルバムをきっかけにメガデスに関心を持ったり、CDを買ってくれたジャズのリスナーもいたそうなんですね。メタルのバンド名すら知らないジャズのリスナーが初めて聴くにあたって、どういった楽曲を選ぶか……すごく責任重大なんです(笑)」
マーティ「そうだよね、怖いよね」
西山「レーベル的には〈三部作〉というプランがあるので、アルバム3枚で主だったバンドは取り上げたいなと思ったんです。前のアルバムは高校生のときに好きで聴いていたものがメインになっていたんですけど、今回はジャズのリスナーへの責任感を感じながら選んだところもあって(笑)。もちろん好きな曲ばかりなんですけどね」
マーティ「僕はね、いちばん興味があったのは5曲目、ジューダス(・プリースト)の“Beyond The Realms Of Death”」
――これは比較的原曲に近いアレンジですよね。
西山「そうですね、これはわりと普通にやってるかな」
マーティ「ジューダスは子どもの頃の大ファンで、一緒にツアーをやったこともある。この曲の後半のギター・ソロが聴こえてくると、楽屋から飛び出してステージ横まで聴きに行ったんですよ(笑)。それぐらい好きな曲。特にギター・ソロね。感動的なんです。だから、なんでこの曲を選んだのか知りたいです」
西山「ジューダスは〈運命の翼〉(76年作『Sad Wings Of Destiny』)とこの曲が入っている『Stained Class』(78年作)が大好きで、その2枚のアルバムから探していたんです。この曲はメロディーがちょっと懐かしいというか……」
マーティ「演歌だよね」
西山「そう、そうなんです! 曲も長いし、いいタイミングでギター・ソロがガッツリ入る。そのクドさが大好きで(笑)」
マーティ「(音を聴きながら)美しいですねえ……」
西山「今回はゆったりした曲がなかったので、これをやろうと」
マーティ「今回のアルバム、オリジナルのアーティストには聴かせたんですか?」
西山「LOUDNESSの高崎(晃)さんには聴いてもらって、コメントもいただきました」
マーティ「そうですか! 喜んでいたんじゃないですか?」
西山「光栄なことに……怒られるかと思ったんですが(笑)」
マーティ「怒る人、絶対に一人もいないですよ」
西山「特にマノウォーの“Kings Of Metal”は、本人たちだけじゃなくファンからも怒られるじゃないかと思って(笑)」
――NHORHMヴァージョンの“Kings Of Metal”、ちょっと聴いてみましょうか。これが1曲目ですね。
西山「これはだいぶ原曲を破壊しましたね(笑)」
マーティ「晩御飯を食べながらマノウォーは絶対聴きたくないけど、これだったら大丈夫(笑)。デート中のマノウォーは絶対ダメでしょ?」
西山「そうですね(笑)」
――おもしろいアレンジですよね。まず原曲が何かはわからないという。
マーティ「原曲のどこからピックアップするか、そのセンスが抜群だと思いますね」
西山「ありがとうございます。この曲もメロディーそのものは全然変えてないんですよ。あと、この曲にはコール&レスポンスのパートがあって、そこがおもしろいんですね。なので、その雰囲気は残してアレンジしようと」
マーティ「マノウォーの魅力はどこにあると思いますか?」
西山「おもしろいんですよね、単純に言って(笑)。バンドのコンセプトや歌詞がおもしろい。ジャズのイメージとかけ離れたバンドの曲をやりたくて、前のアルバムではそれがパンテラだったんです。で、今回はマノウォーをやろうと(笑)」
マーティ「なるほどね(笑)」
――今回のアルバムのなかでもちょっと異色の1曲が、唯一の歌モノであるエクストリームの“Decadence Dance”ですね。この曲では冠徹弥さん(THE冠)がヴォーカリストとしてフィーチャーされています。
西山「ドラム(橋本学)とベース(織原良次)が高校生のときにこの曲をカヴァーしていたそうなんです。聴き直してみたらすぐにビッグバンド・アレンジになりそうだったので、やってみました」
マーティ「原曲を愛していることがわかる演奏ですね。本人たちもすごく喜ぶと思う。僕、ビッグバンドでやってみたいんですよ。定番の“Sing, Sing, Sing”とかでギターを弾きまくって、メタル・ヴァージョンにしたい」
西山「いいですね、カッコイイかも(笑)。この曲はもともとシンコペーションの多い曲なんです。アメリカのバンドってやりやすいんですよ、シンコペーションの感じや尺の長さがジャズにアレンジしやすい」
――そうやって見てみると、今回はアメリカのバンドが少ないですよね。マノウォーとエクストリーム、ドリーム・シアターぐらいですか。
西山「そういえばそうですね。このヴァージョンでホーン・セクションをやっているプレイヤーは、ドリーム・シアターのメンバーがバークリー(音楽大学)にいたのと同じくらいの時期にバークリーにいたそうなんです」
――そのドリーム・シアターは、今年彼らがリリースした最新作『The Astonishing』から“The Gift Of Music”がセレクトされていますね。
西山「ドリーム・シアターは意外とできそうで、うまくハマるネタがなかったんです。本当は『Images & Words』(92年)や『Awake』(94年)あたりの曲をカヴァーしたかったんだけど、パーツが多すぎるので、スペースを作ってアドリブを入れる曲がなかなか見つからなかった。それでいちばん新しいアルバムの曲にしたんです」
マーティ「そういえば、他のメンバーにはアレンジした譜面を渡すんですか?」
西山「渡します。前もって譜面を送っておくんですよ。原曲も送っておいて、〈しっかり聴いておいて〉と」
マーティ「原曲を聴かせたんですか? マジで? (原曲を聴かせても)役に立たないじゃん(笑)」
西山「いやいや、やっぱり原曲に対するリスペクトがないと上手くいかないと思うので。私が打ち込んだものを渡すという方法もあるんですけど、そういうことは一切せず、譜面だけの情報で〈後は考えてください〉というやり方ですね」
マーティ「僕のやり方とは違いますね。(石川さゆりの)“天城越え”をカヴァー※するときも、参加してくれた外国人のミュージシャンには完成するまでオリジナルを聴かせなかったんですよ。だから、最初彼らは“天城越え”がもともとゴリゴリのメタルの曲だと信じきっていた(笑)」
※マーティが2009年にリリースしたJ-Popのメタル・カヴァー集『TOKYO JUKEBOX』収録

――原曲からかけ離れたアレンジという意味では、ブラック・サバスの“Iron Man”も凄いですよね(笑)。
マーティ「これも素敵ですね。センスがいいし、とてもおもしろい」
西山「“Iron Man”はパーツが2つか3つしかないんですよね。(ブラック・サバスは)もともとフリージャズ的なことをやっていたバンドじゃないですか。きっとこの曲もセッションのように演奏していたと思うし、ループの楽しさがあると思うんです。だから、そんな感じで演奏しながら合図を出して……とちょっとインタールードっぽくやってみました。ピアノはバッキングだけで、ドラムとベースのソロがメインというアレンジですね」
――この曲の次に、西山さん作の“Mystery Of Babylon”が入っていますね。前のアルバムにも“The Halfway To Babylon”というオリジナル曲が入っていましたが、オリジナルを1曲入れるというのがNHORHMのアルバムの作り方になってきていますね。
西山「普段の自分のアルバムはほとんどオリジナルでやっているので、1曲入れたいというのもありましたし、ジャズのカヴァー・アルバムを作るときにオマージュ的なオリジナルを入れるというのが、自分のなかのジャズ・マナーとしてあるんですよ。それで毎回入れることにしているんです」
――今回は何に対するオマージュなんでしょうか?
西山「前回のアルバムではレインボーのカヴァー“Man On The Silver Mountain”を入れたんですけど、本当は(レインボーの)“Gates Of Babylon”をやりたかったんです。ただ、一発のコードの曲をピアノでやるのが難しくて、メタルでよくあるスケールを使って“The Halfway To Babylon”というオリジナルを書いたんです。その続編を作ろうということになって、この曲を書きました。いちおう三部作の予定で、その第2弾というイメージですね」
マーティ「ジャズにもいろんなスタイルがあるけど、これはすごくロマンティックですね」
西山「私、もともとヨーロッパのジャズが好きなんです。クラシカルでハーモニーが美しいものを聴いてきたので」
マーティ「そういうことが伝わってきますね。不協和音だらけの聴きにくいジャズじゃなくて、なおかつイージー・リスニングでもない。ディープでロマンティックなジャズですね。とても好きです」
――前回同様、BABYMETALの曲も取り上げられていますね。前作では“悪夢の輪舞曲”でしたが、今回は“THE ONE”がライヴ・ヴァージョンで収録されています。
西山「この曲、演奏していて楽しいんですよ。BABYMETALを毎回取り上げようと思っているわけじゃないし、無理矢理選んでるわけでもないんですけど、パッと聴いた瞬間に演奏してみたいと思ったんです」
マーティ「とてもいいですね。原曲も好きだけど、自分なりに弾いてるところがいい。BABYMETALのライヴ後、お客さんが帰るときにこの曲がかかってたらいいじゃないですか(笑)。……そういえば、今回のアルバムもギターは入ってないですね?」
西山「そう、入ってないんです」
マーティ「ギターは入ってないほうがいいと思う(笑)。ないほうがコンセプトに合ってると思うし」
西山「〈電気を使わず、人力でやる〉というところだけは決めているんです、このバンドの場合。メタルの音圧には負けるので、アコースティックでやろうと」
マーティ「なるほどね。電気がないとメタルはできないから(笑)」
――ただ、今日のお話を聞いていると、マーティさんとNHORHMの共演も聴いてみたくなりましたよ。
マーティ「2人とも原曲を完全に破壊するタイプだから(笑)、どうなるんだろう?」
西山「そうですね(笑)」
マーティ「アドリブも結構好きなんです。勉強になるだろうし、機会があればぜひやってみたいです」
――三部作ということは、次のアルバムも準備しているということですよね。
西山「そうですね。1回ライヴをやるごとに1曲ずつ新しいレパートリーを加えていて、ちょっとずつ準備をしているところです」
マーティ「えっ、そうなんですか」
西山「そうなんです。まだメタリカやスレイヤー、アンスラックスもやってないし……チルボド(チルドレン・オブ・ボドム)もやりたいんですよ。デス・ヴォイスからメロディーを抽出できれば何とかなるだろうと(笑)」
マーティ「ワハハ、スゴイね!」