過去と現在の素敵な出会いは、ふとしたことから新しい歌へと辿り着いた。20周年の節目を祝うセルフ・カヴァー集が登場!
「ピアノの弾き語りでセルフ・カヴァー・アルバムを出しませんか?というお話をいただいた当初は、それだけで最後まで聴けるアルバムになるかな?と迷ってたんです。でも、弾き語りのライヴをやることもあるし、友達のミュージシャンにアイデアをもらったりしながら、何とかカタチにしてみたいなと思うようになって」。
デビュー20周年を迎えた川本真琴が、ピアノの弾き語りを中心とする初のセルフ・カヴァー・アルバム『ふとしたことです』をリリースした。クラシック、ソウル、ジャズなどの要素が織り込まれたピアノの演奏、感情の繊細な動きと重なるヴォーカル、生々しい女性性とファンタジー的なイメージが共存する歌詞。“愛の才能”“1/2”といった活動初期のヒットをはじめ、2001年のアルバム『gobbledygook』に収録されていた“OCTOPUS THEATER”、mabanuaと共作した2013年の“fish”などを〈2016年の川本真琴〉が取り上げた本作は、シンガー・ソングライターとしての際立った個性、普遍性を備えた楽曲の魅力を改めて体感できる作品と言えるだろう。
「選曲はレコード会社の方にお任せしました。私の楽曲をすべて知っている方だったから、ずっと私の音楽を聴いてくれているファンの皆さんの目線に近いのかな、と。20周年ということもあるし、皆さんにプレゼントできるような作品にしたかったんですよね」。
“やきそばパン”“タイムマシーン”など、ミリオンセラーとなった初作『川本真琴』(97年)の楽曲を40代になった彼女が改めて表現しているのも聴きどころ。デビュー当初の作品と向き合うことは、彼女自身にもさまざまな気づきを与えたようだ。
「改めて歌詞を読み返して、昔はこういう人だったんだな、可愛いなって思いましたね(笑)。20歳くらいの頃は社会のことを知らなかったし、初めて大人と接点を持った時期でもあって、それでいいのかな?と納得できないことがあっても、どうしていいかわからなかったんですよ。だから〈ひとり感〉みたいなものはあったかもしれないですね。時代もそうだったと思うんです。最近はグループで活動しているアーティストが多いけど、90年代後半から2000年くらいまでは、ひとりひとりが個人で動いている感じだったから。当時の楽曲を通して、その頃の空気が感じられるのはいいですよね」。
さらに新曲“ふとしたことです”も収録。ジャズのスタンダード・ナンバーのような軽やかさを感じさせるメロディーライン、〈小石を蹴とばすようには 好きだとは言えないのです〉という詩的な表現からは、ソングライティングの深まりが感じられる。
「もともとライヴで歌っていた曲なんですが、収録するにあたって、もうちょっと物語の要素を入れたくて。〈ふとしたことです〉って、私のなかでは物語性がある言葉なんですよ。普通の会話では使わない言い方だし、例えば映画の冒頭でおじいちゃんが〈ふとしたことです〉と言ったらロマンティックだろうな、って」。
ショーロクラブの沢田穣治によるクラシカルなアレンジと、「4つ打ちやアルペジオだけではなくて、いろいろな弾き方でやってみたくて」というピアノの演奏も魅力。本作によって、彼女の創造性も高まっているようだ。
「20周年に関して特に思うことはないんだけど(笑)、また新しい出会いがあるといいですね。私は同じことを続けるのが苦手で、誰かと出会うことで新しい作品に繋がるので」。