インタビュー

all the way to Xscape ~ 2014年のマイケル・ジャクソン~(1)

Xデーをどれくらい待った? 3年半ぶりのマイケル・ジャクソンは、聴く者を未知=Xの境地へと誘う。その歌から伝わる快い興奮をじっくり体験してみよう!!

all the way to Xscape ~ 2014年のマイケル・ジャクソン~(1)

 コンテンポライズされた“Love Never Felt So Good”の仕上がりを聴いて、思わず快哉を叫んだ人は多かったのではないだろうか。それぞれのリスナーが初めて聴いた瞬間においてはもちろんのこと、リリース前に行われた試聴会でもそんな雰囲気だったし、それは恐らくキュレーターを務めたLA・リードにとってもプロジェクトを前進させる大きな確信に繋がったはずだ。

マイケル・ジャクソンほどの存在になると単に曲が良いとか悪いとかいう話ではなくなる。語弊のある言い方をすれば、曲そのものの云々よりも、現象のサウンドトラックであることが必要とされてしまう。『Thriller』以降のマイケル自身は最後の瞬間までそういう立場に居続けたわけだが、それは、幸か不幸か、現在でも同じことなのだ。結論を言ってしまえば、2014年にリリースされるマイケル・ジャクソンの楽曲として、“Love Never Felt So Good”以上のものはなかっただろう。そんなムードの漂うままに登場したのが、およそ3年半ぶりとなるアルバム『Xscape』だ。

MICHAEL JACKSON Xscape Epic/ソニー(2014)

現象への機運

 そうでなくても空気が醸成されていたのは確かだ。昨年初頭にヒットした“Fine China”は放蕩息子クリス・ブラウンからの改めてのオマージュだったし(ちなみに同曲の作者であるエリック・ベリンジャーの祖父=ボビー・デイは、幼い頃のマイケルがヒットさせた“Little Bitty Pretty One”や“Rockin' Robin”のオリジナル歌手でもある)、同曲を触発したと思しきジャスティン・ティンバーレイクの復帰や、ブルーノ・マーズの活躍も下地になったはずだ。そんなヒューマンなソウル歌唱のポップな広がりに並行して、アンダーグラウンドの熱を前提にしたブギーディスコの流行があり、その機運を掬い上げたダフト・パンク、そしてファレル・ウィリアムズ……という感じで、“Love Never Felt So Good”へと至る導線はゆっくり準備されていたとも言える(まあ、実際は逆なのだが)。A&M時代からジャクソン家と懇意なジョン・マクレイン(現マイケル・ジャクソン・エステート)が監督し、エイコンの腹心として実際にマイケルと仕事をしてきたジョルジオ・トゥインフォートのアレンジという布陣もバッチリだろう。

 【参考動画】マイケル・ジャクソン “Classic MJ x Love Never Felt So Good

 ただ、忘れちゃいけないのは、ここで試みられたディスコ・スタイルが、実際はマイケルらの先進性によって80年代に入ってすぐ流行遅れになっていったものであるということだ。例えばナイル・ロジャーズの手掛けたダイアナ・ロスの大ヒット作『Diana』(80年)の音と『Thriller』(82年)の音の間には、何とも厳然たる壁がある(シックは83年に解散)。つまり、83年に録音された優美な“Love Never Felt So Good”がこの形で世に出るということは、当時のマイケルが選ばなかった分岐点のもう一方のようにも思えるからおもしろい。もちろん、『Xscape』の本意は〈マイケルの遺志を汲むこと〉ではなく、〈楽曲をコンテンポラリーにすること〉だから、まったくもってLAの判断が正しいのは言わずもがな。キュレーターとして原曲を選び抜いたLAから楽曲を託されたティンバランドはエグゼクティヴ・プロデューサーの肩書きを得ると共に、腹心のJロックらを従えて5曲(+“Love Never Felt So Good”のジャスティン入りヴァージョン)の制作にタッチしている。

 

『Invincible』な姿

 そんなわけで実際はティンバの攻めたマナーが印象的な作品ではあるのだが、そこは楽曲の公開順をうまく活かしてアルバム全体へのイメージやテーマがうまく優美なディスコ方向へコントロール(悪い意味じゃない)されたのだと思う。明かされているマイケルのヴォーカル録音順に収録曲を追ってみると、“Love Never Felt So Good”の次は『Bad』セッションの初期=80年代半ばに残されたマイケル自作の“Loving You”だ。コーラスを聴いての通り“The Girl Is Mine”に構造のよく似たこの素晴らしすぎるAORナンバーは、恐らく『Thriller』から完全にモードを切り替えるべく『Bad』への収録が見送られたのではないか。言うなれば、80年代半ばまでの彼が備えていたあの眩しい包容力に満ちた歌い口は、エッジーに声を操らんとする自身によって意図的に封をされたのかもしれない(そうして編み出されたのが、『Bad』のエッジーな〈マイケル感〉全開の歌唱表現なのだろう)。

 その“Loving You”の後にくる録音は、『Bad』から初期『Dangerous』セッションにかけて録られた“Do You Know Where Your Children Are”。メッセージは重いものながら、徐々に宙に浮遊していくようなメロディー展開に“Wanna Be Startin' Somethin'”を思い出す人もいるのではないか。さらに、往時のLA・リードがベイビーフェイスと共に手掛けていた“Slave To The Rhythm”は『Dangerous』セッションの産物だ。で、それ以外の4曲は『Invincible』(2001年)用のレコーディングとなる。

 まず、99年に録音された“Chicago”は、当時トミー・モトーラの腹心だったコリー・ルーニーマライアJ.Lo他)のペンによるドラマティックなナンバー。さらにアメリカ〈名前のない馬〉のリメイク=“A Place With No Name”とパワフルな“Blue Gangsta”はDrフリーズベル・ビヴ・デヴォー他)とのセッション(後者のホーンズにはジェリー・ヘイが参加している!)で、後者はティンバランドではなくスターゲイトによってコンテンポライズされている。そして残る1曲こそが、ロドニー・ジャーキンスとの共作で、ロドニー自身によって現代化に取り組んだ“Xscape”だ。そこから浮かんでくるのは21世紀の音像に挑んだマイケルの姿そのままで、例えば『Invincible』のラストにそのまま置いても成立しそう。そうやって8曲を聴き進めれば、実際に最新のマイケル像に近い形の聴後感が用意されているわけで、曲順もなかなか巧みだし、そのあたりの采配はキュレーターの面目躍如だと思う。

 【参考動画】マイケル・ジャクソン “Immortal Tour Celebrates MJ And XSCAPE!”

 今回デラックス・エディションには遺された状態のオリジナル音源も並んで収録されているのだが、聴いて改めて思ったのが、きちんと曲として仕上がった状態の音源や提供曲のデモなどがまだまだ余裕で存在する可能性の凄さと、クォリティーの高さだ。この後にはフレディ・マーキュリーとの共演がクイーン側から出るという話もあるが、しばらくは『Xscape』への快い逃避を存分に楽しもう。

 

▼関連作品

左から、マイケル・ジャクソンの87年作の豪華新装盤『Bad 25』(Epic)、エリック・ベリンジャーの2014年作『The Rebirth』(Manhattan/LEXINGTON)、ポール・アンカの2013年作『Duets』(Verve)、ファレル・ウィリアムズの2014年作『G I R L』(I Am Other/Columbia)、ティンバランドの2009年作『Shock Value II』(Mosley/Blackground/Interscope)
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