RC&ザ・グリッツがめざした音楽性とコンセプト

――RC&ザ・グリッツとして2013年に発表したデビュー作『Pay Your Tab』はR&Bとヒップホップを軸にレゲエ調の曲などもやっていて、エリカとの共演に加え、“That Kinda Girl”ではスヌープ・ドッグとラヒーム・デヴォーンが共演していますが、この作品はどういったコンセプトで作られたのでしょう?

「『Pay Your Tab』は、アーティストのサイドマンとしてではなく、自分自身の作品を作るということから始まったんだ。最初に手掛けたのは“Summer Boo”。まだ他のアーティストに提供していなかった曲やフレーズ、アイデアをジャー・ボーンと共に僕の自宅スタジオで編集しはじめたんだ。レゲエ調の“Love, Love, Love”も作り溜めていた曲にバンド・サウンドを乗せて完成させた感じかな。“That Kinda Girl”はジャー・ボーンが作ったサンプリング・トラックをベースに作ることになったんだけど、作曲家が見つからなくて自分で作ってみたんだ。それで誰かに参加してもらおうか?という話になって、ちょうどその頃に僕がスヌープ・ドッグとツアーをしていたから、ダメ元でメールしてみたら4日後くらいに〈曲を送ってくれ。格好良かったら参加するよ〉って返事が来て実現した。最初のラインが〈She had to be from Texas〉なんて最高だったよ(笑)。ラヒーム・デヴォーンは、彼の“Make A Baby”という曲(2013年作『A Place Called Love Land』収録)を僕とジャー・ボーンがプロデュースしていたから知っていて、スヌープの話をしてコーラスを入れてくれるか訊いたら二つ返事でOKしてくれたんだ」

2013年作『Pay Your Tab』収録曲“Love, Love, Love”のライヴ映像
スヌープ・ドッグとラヒーム・デヴォーンが参加した2013年作『Pay Your Tab』収録曲“That Kinda Girl”
 

――昨年11月には2作目『The Feel』を発表しましたが、こちらは前作より現代的なジャズのカラーが強まったと感じました。今回はどういうコンセプトだったのでしょう?

「『The Feel』に関しては前作とは完全に違うゾーンにいて、ドラムやモーグを演奏しながらアイデアを構築していったんだ。2015年の12月から2016年の後半まで、街にいる時は毎週月曜日にスタジオに篭って曲作りをしていたよ。このアルバムでは特にダラスのプレイヤーのサウンドをフィーチャーするのがコンセプトで、ドラムだと(グリッツ一派の)スパットやクレオン、タロンと共に、ヒューストン出身のクリス・デイヴ、いまはスタンリー・クラークのバンドなどで売れてきている若手のマイク・ミッチェルなどに参加してもらっていて、ホーンではデューク・エリントン・オーケストラなどで活躍しているシェリー・キャロルに参加してもらった。最初に手掛けたのはタイトル・トラックの“The Feel”なんだけど、4分の7拍子という変拍子の曲で、自分がドラムなどを叩いているデモの上にスパットのドラムを乗せてもらって、その後さらにクレオンに別のテイクを録ってもらった。そうやって最初に出てくるヴァージョンとリプライズのヴァージョンに分かれているんだ。さらにいま伸びてきているラッパーのボビー・セッションズに参加してもらって、普通の4拍子の曲じゃなくて4分の7拍子だからそれに合わせてライムしてもらわないと……と心配して彼に何度か説明していたんだけど、彼はバッチリやってのけてくれたよ」

――バーナード・ライトが参加しているせいか、“Never Enough”などに80年前後のNYクイーンズはジャマイカ地区発のジャズ・ファンク/フュージョンに通じるエッジとスムースネスがあると思ったのですが、どうでしょう?

「何といってもバーナード・ライトの参加が一番嬉しかったよ。彼は僕にとってのヒーロー。マイルス・デイヴィスとも一緒に演奏していたピアニストで、彼自身のヒット曲“Who Do You Love”はLLクールJとかいろんな人がサンプリングしているよね。僕はハービー・ハンコックダニー・ハサウェイアーマッド・ジャマルなどと一緒にバーナードの音楽を聴いて育ったから、NYのクイーンズ地区出身のバーナードが5〜6年前にダラスへ引っ越して来た時は、いろんな場所で彼の演奏を聴けるのが本当に嬉しくて。彼と知り合うようになってからも、〈お前のための曲があるから、準備ができたら教えろよ〉と言ってくれていて。だから事前に相談もなくいきなり電話した時も喜んでくれて、別の日にバーナードと2人きりでスタジオ入りしたんだ。彼はルーサー・ヴァンドロスの“Never Too Much”的なテンポで、さらにLLクールJの“Doin' It”みたいなビートが欲しいと言い出して、一緒に模索していたら、結局その日の終いには2人でドラムを叩いていたよ(笑)。その後にダラスで活動しているドラマーのジャミル・バイロンを呼んで、バーナードにはモーグ・ベースを弾いてもらって、僕がローズを弾いて“Never Enough”が出来上がったんだ。バーナードのようなレジェンドに参加してもらって、80年代のクイーンズ的なファンキーなサウンドの色付けをしてもらえて最高だったよ」

バーナード・ライトの85年作『Mr. Wright』収録曲“Who Do You Love”
 

――クリス・デイヴとはエリカ・バドゥのバンド経験者という点でもグリッツと繋がっているわけですよね?

「クリスはヒューストン出身だからもともと知っていたんだけど、ある時エリカ・バドゥとドラマーを探していたら、クリスが〈エリカ・バドゥの仕事やれっかな?〉って連絡してきたんだ。〈いやいや、お前は忙しすぎて無理でしょ(笑)〉と返事しても、〈絶対にスケジュールを調整するから〉と言ってきたから、それでエリカに提案したんだ。彼の作品に僕が参加したりもしていたから、今回のアルバムには絶対クリスにも参加してもらおうと思ってダラスに呼んだよ。それで出来た曲が“Feathers”。そういえば、メンバーのクレオンやタロンには、クリスやクエストラヴが聴いてきたという音源を渡したりしていろいろと教え込んで、クリスが忙しくてエリカの仕事ができなくなってきた時に彼らを呼んだら、教えが良かったようで一発目からバシッと決まってたね(笑)。タロンには、エリカの海外公演でどうしてもクレオンが来られなかった時に代打でドラムをやってもらったんだけど、それもバッチリだった」

――ジャー・ボーンのMPCはバンドのサウンドにどんな効果をもたらしていますか?

「彼が出してくれるクリックやサンプルなどの音がグリッツ・サウンドに必須な音になっているんだ。アルバムのすべての曲で彼は大きな役割を果たしているし、ライヴでも彼は大きな存在だよ」

――クラウディア・メルトンのヴォーカルはどんな部分がスペシャルだと思いますか?

「言葉にはできないんだけど、クラウディアのヴォーカルには独特なサウンドがあるし、何よりピアニストであり教育者でもある彼女はヴォーカリストというだけでなく、音楽そのものでもグリッツ・サウンドに貢献している中核的な存在だよ。他にはダラスで活動するポップ/ソウル的なシンガー・ソングライターのサラ・ジャフィをフィーチャーしている。サラのサウンドを壊さずに、どうグリッツのサウンドに溶け込ませるか悩んで彼女の作品を聴き漁ったよ。でも、スタジオに入ってもらったら、サラは〈こっち側〉に溶け込ませる以前に〈どちら側〉にも行けたんだ。それで仕上がったのが“Good Day To You Sir”だったんだ」

――RC&ザ・グリッツとしての来日公演は今回が初めてとなります。米国では2016年に〈SXSW〉などに出演して高評を得たようですが、どんなステージになりそうですか?

「僕はエリカやスヌープ・ドッグの公演で日本に行っているけど、グリッツの公演に関しては、本当に気持ち良い音楽を楽しめる夜になると思う。〈SXSW〉では『The Feel』の原型となるような曲もやったし、ジャズ・スタンダードをもとにしてジャジー・ヒップホップ的な演出をした曲、それにJ・ディラ的なグルーヴの曲もやった。ブルーノート東京ではいろんな素晴らしいアーティストが演奏していると思うけど、そのなかでもまた違ったフィールやテクスチャー、雰囲気を楽しんでもらえるはずだよ。僕たちは常日頃から一緒にステージをこなしているから、前もってどんなステージにするか決めるというより、お客さんのヴァイブスを汲み取って、その流れに合わせてバンドのサウンドを持っていったりするんだ。楽しんでもらえることを願うよ」

 


RC&ザ・グリッツ
日時/会場:2月23日(木)~24日(金) ブルーノート東京
開場/開演:
・1stショウ:17:30/18:30
・2ndショウ:20:20/21:00
料金:自由席/8,000円
※指定席の料金は下記リンク先を参照
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