太陽が待ち焦がれた夏色の彼女、夏色のエクスタシー

 「私も作りたかったし、みんなも〈夏の一十三十一〉を聴きたい頃だろうなって」──。2012年に発表したアルバム『CITY DIVE』以降、アーバンかつリゾーティーな世界観にフォーカスを絞ってきた一十三十一の楽曲。冬に夏のことを考えて歌詞を書くのが好きだったり、冬のコンセプト・アルバムもまずは夏ありきで編まれていたり、彼女の創作の起点はいつでも夏、と言っていいだろう。そんな一十三十一が約2年ぶりに届けたニュー・アルバム『Ecstasy』は、ぐぐっと目を惹かれるヴィジュアルからして明確、久々にどこを切っても〈夏〉な雰囲気のアルバムとなったわけだが、作曲/編曲/サウンド・プロデュースは、これまで幾度か手合わせしてきたDorianに〈一任〉するという過去にない制作スタイルで臨んだもの。今回のインタヴューではそのDorianにも同席いただいて、いつもと違う〈夏の一十三十一〉を探っていこうと思う次第。

一十三十一 Ecstasy Billboard(2017)

 

初めての試み

――近年は年1枚のペースでアルバムを作り上げてきましたけど、昨年はひと休みでしたね。

一十三十一「『CITY DIVE』以降の4年ぐらいは、半年で制作して、半年はライヴや次の予定を立てる作業みたいなタームだったんですけど、去年は人間活動を優先させながらいろいろ〈インプット〉して」

――インプットですか。

一十三十一「そう、学生のとき以来、久々に(山下)達郎さんのライヴに行ったり、ユーミンや小沢(健二)くんのライヴも観に行けたり、他にも素晴らしいステージをゆっくり観ることができました。あと、観たかった映画をたくさん観たり、読みたかった本をたくさん読んだり、しばらく旅行に行ったり……〈スーパー・ボーナス・イヤー〉でした(笑)」

――それを経ての今回のアイデアと?

一十三十一「前作の『THE MEMORY HOTEL』が終わったあと、次はプロデューサーを立てて作りたいなっていう考えがあって。3枚続けてセルフ・プロデュースだったので。まず脚本を作って、具体的な世界観が出来上がったところでサントラを作っていくようなここ最近のアルバムとは違う作り方をしてみたいっていうのもあって。だから、プロデューサーっていうのはすごく大事で」

――そこで名前が挙がったのがDorianさん。

一十三十一「そう、まず思いついたのがDorianだったんです。最近のアルバムには毎回参加してもらってたし、彼の独特なエキゾチシズムがとても好きだったから、何気なくふわっと訊いてみて」

Dorian「やれるのかなあ……とは思ったんですけど(笑)、雰囲気的には一枚全部っていうのが視野に入ってるように聞こえたので、そうかあ、たいへんだけど、一枚全部だったらやり甲斐あるかなって思ったので、〈ハイ!〉って返事しました(笑)」

一十三十一「一枚全部とはいっても監修みたいな感じで入ってもらえたらいいなってぐらいで訊いたんですけど、まさか作曲、編曲、全部がDorianになるとは……最初は、『CITY DIVE』のときみたいにプロデューサーは立てても作曲はいろんな人にって考えてたんです。だけど、Dorianがどんどんイイ曲を上げてくれたので、成り行きでこうなって、私の活動史上でも初めての試みの、スペシャルなアルバムになりました」

――その予想外の展開から察するに、基本的にはDorianさんに委ねて。

一十三十一「突き抜けて気持ち良いのっていうのと、夏に出す、Dorianと作る、基本もうこれだけで十分で。Dorianが私向けにできる限り自由に作ってくれた自然なものを聴いてみたかったし。あとはその、大まかなイメージはシェアしておいて。たとえば、いままでの曲のなかだとビーチ=湘南っていうイメージだったりしたんですけど、今回はもうちょい大人でラグジュアリーなリゾート感というか。場所は特定してないんですけど、たとえばカンクンだったり、イビザだったり、ポリネシアだったり……でもまあ、とにかく、Dorianから上がってくるデモが素晴らしく美しくて。そのなかで私が心置きなく、スーパー・ボーナス・イヤーでインプットしてきたものや、最近のコンセプチュアルな作品では出せなかったものを出して、っていう感じで」

――デモと言っても、ほぼ完成形に近いもので?

Dorian「そうですね。ほとんど完成版と同じです」

一十三十一「それを受けて、こういうことを伝えたいとかこういう世界観を描きたいっていうよりも、そこに何があるのかな?っていうのを探りながら、その答えを私が蓄えてきたネタのなかから当てはめていく感じでしたね」

 

もっとヌードなもの

――アルバム・タイトルからしても、感覚的に作った部分がいつにも増して多い作品と言えるでしょうか。

一十三十一「これまでも開放的な音楽をやってきてますけど、もっと人を裸にさせるような、より開放的なものがいいなあって。ヴィジュアルは今回も弓削(匠)さんにお願いしてるんですけど、身に着けてる布の量が近作でいちばん多かった『THE MEMORY HOTEL』とは真逆の方向で、もっと〈ヌード〉なものがいいなって」

――愚問かも知れませんが、夏っぽい音作りのコツってあるんですか?

Dorian「実は、夏を意識して曲を作ったことってあまりなくって。自分の作る音は夏っぽいってよく言われるんですけど……何なんでしょうね(笑)。でもやっぱり〈心温まる〉っていう感覚の音って夏っぽくはないですよね。夏っていろいろ複雑じゃないですか。思うこととか、人間関係とか」

一十三十一「超感覚(笑)」

Dorian「だから、和音とかも複雑なほうが夏っぽくなるんじゃないですかね。あとはあまりこもってない音のほうが夏っぽいとか。ハイが強いわけではないですけど、あまりローに重きを置かない感じにしたいな、っていうことは少し考えながら作ってましたね、今回」

――今回、キーになる曲というと、やはりタイトル曲“Ecstasy”になりますか?

一十三十一「そうですね。最初にきたデモがこれだったんですけど、Dorianにお願いして本当に正解だったって思いました」

Dorian「最初だったんでどんなものを作ろうかなって。で、近年の一十三さんのアルバムになかったもの、自分が最近作ってるもののなかで一十三さんのアルバムにはなかったようなものをまず作ろうって、あまり気負いせずに作って送ったのがこれで」

――Dorianさんがプロデュースということで、バンドでの再現をあまり考えずに編まれているものも多いと思いますが、そのぶん、曲それぞれに違った華やかさがあって。

Dorian「どの曲でも、歌が入っていないどこか一部分を切り出せばジングルみたいに使える……みたいなことは考えて作ってましたね。そうすればいろんなところで使ってもらえるかもって(笑)。聴いてもらえる機会が増えるのは嬉しいことなんで。あと、一十三さんの『Synchronizes Singing』(2005年作)が大好きで、あの雰囲気もちょっと考えてました。〈戻る〉っていう意味じゃなくて」

――そう言われると、なるほど!っていう部分ありますね。そういう意味では、『CITY DIVE』以前と以降、約5年のブランクを挟んで寸断されていた一十三十一のディスコグラフィーがここで繋がった感もあります。

一十三十一「コンセプチュアルな作り方とはまた違う、自由に新しいところをめざしたポップスということでは、以前やっていたときと同じような意識……戻ったわけじゃないけど、そもそもあったそういうメンタリティーがここで帰ってきた感じはありますね」