1968年のコンサート音源! 50年前のステージがリアルに蘇る

 あれ程の発掘盤『Some Other Time: The Lost Session From The Black Forest』の後に、更に驚愕のライヴ音源が出てきた、しかも、放送音源用に録られたバランス抜群のコンサート・ライヴ。リアリティという意味では、こちらに軍配が挙がる。しかも、ジャック・ディジョネットが最高にアグレッシヴ、というか、自由なのだ。はっきり言ってエヴァンスは煽られている。それくらい、ディジョネットが自由なのだ。ポスト・コルトレーンの混迷の時期、マイルスさえも混迷の中にあった。エヴァンスはディジョネットを得て、とんでもない高みに達しようといていたことが本盤で確認できる。ディジョネットは時にエヴァンスを置き去りにし、ゴメスを後方に追いやる勢いで疾走している。

BILL EVANS 『Another Time: The Hilversum Concert』 Resonance(2017)

 次に何が起きるか分からない事がジャズの楽しみ=愉しみだとしたら、エヴァンス自身がそれを一番感じていたに違いない。プラグド・ニッケルのマイルスのバンドでのハンコックの“エルボープレイ”がそうであったように。時間がエヴァンス達を彼方へ連れ去ったとしか思えない。新たなる傑作が現れた。ゴメスの非凡振りを改めて確認する⑤、エヴァンスのリリカルな側面を究極に押し進める⑥、エヴァンスの解釈としては最もアグレッシヴな一曲となる⑦と、中盤の3曲は珠玉の中の頂点。⑦のディジョネットのソロの自由な発想にはマイルスが自分のバンドに引き抜いた理由が垣間見られる。エルヴィン・ジョーンズやトニー・ウイリアムスを凌駕するようなフリーな精神のドラミング。ポスト・コルトレーンの時代の息吹がすでにここに響いている。

 幾多の傑作を世に送り出して逝ったエヴァンスにとっても60年代の作品としてベスト3に入れていいだろう。そして、リリース・インフォとして忘れられないのが、寄せられた文章だ。ゴメス、ディジョネット、スティーヴ・キューンの長文インタヴュー。ここにも〈時代の証言〉が満載だ。楽器演奏者にとっても突っ込んだ楽器の話など必読だ。