乾いた風の匂いがどことなく物寂しいある日の午後。ここはT大学キャンパスの外れに佇むロック史研究会、通称〈ロッ研〉の部室であります。

【今月のレポート盤】

NEIL YOUNG Hitchhiker Reprise/ワーナー(2017)

 

逗子 優「おはようございます~。あれれ? ニール・ヤングの歌声ですね~。新作ですか~?」

穴守朔太郎「いや、これは数年前から断続的にリリースされているアーカイヴ・シリーズの最新版で、76年にレコーディングした未発表アルバム『Hitchhiker』なんさ」

逗子「へ~。ニール・ヤングって、昨年もライヴ盤『Earth』とスタジオ盤『Peace Trail』という2枚の新録アルバムを発表していたし、いまなお現役感がバリバリ強いですよね~。そのうえ発掘音源も次々と監修&ドロップしていくワーカホリックぶりには圧倒されちゃいますよ~」

穴守「同世代のボブ・ディランやポール・マッカートニーも精力的だけんどよ、リリース量でいったらヤングには適わないだんべえ」

戸部小伝太「ゴホン! もう少し静粛に願えないものですかね。我輩がヤング先生を拝聴している最中ですぞ」

穴守「何を言ってるんさあ、コデータ! これはオイラのCDだんべ」

戸部「まったく、尻の穴の小さい男ですな。こんなにも素晴らしい音源を聴かされたら、誰の所有物であろうが平伏すしかないでしょうが。それに貴殿のものは我輩のもの、我輩のものはもちろん我輩のもの」

穴守「意味不明だんべえ! でもよ、この『Hitchhiker』が素晴らしい音源だってことは確かなんさ」

逗子「そもそも、どういう作品なんですか~?」

穴守「70年代半ばから90年代にかけて、ヤングが幾多の名盤を吹き込んだインディゴ・ランチ・スタジオでの録音であり、これまた長きに渡って彼の作品に関わっている名プロデューサーのデヴィッド・ブリッグスと共に制作されたアルバムなんさ。悪いわけがねえべよ」

戸部「注目すべきは、ヴォーカル以外のパートがほぼアコースティック・ギターとハーモニカだけという点で、キャリアを通じてもワンマン体制でのスタジオ作品は非常に珍しいですぞ」

逗子「なるほど~。でもこれ、初心者の僕ですら知っている曲も入っていますね~」

穴守「全10曲中8曲は、アレンジを変えて後のアルバムで披露されるナンバーなんさ」

戸部「“Powderfinger”は79年の『Rust Never Sleeps』にて、“Human Highway”は2010年の『Le Noise』にて、エレキ・ギターによるラウドなヴァージョンで再録していますぞ。しかし、ここでは簡素な弾き語りで歌われていて、ファンにとっては驚きですな」

逗子「こうして聴くとどちらもメロディーの際立ったキレイな曲ですよね~」

穴守「“Hawaii”と“Give Me Strength”が完全未発表の曲なんだけんど、特に後者は切々とした哀愁が胸を打つ名品で、かの『Harvest』に収録されていてもおかしくないような出来だいな」

戸部「もともとセンティメンタルでメロウな歌と旋律を紡ぐことにかけては天下一品ですからな。そうかと思えば、91年作『Weld』のようにグランジ勢もビックリの大爆音を叩き付けたりするんですから、一筋縄ではいきませんよ」

穴守「そればかりか、カントリーやジャズ、テクノ・ポップにロカビリー、ノイズからトラッド・フォーク調まで、作品ごとにコロコロとスタイルを変える予測不能な多面性が、ヤングのおもしろい部分でもあるんさ」

戸部「そんな忙しない音楽遍歴の中でも、間違いなく本作はもっともシンプルかつ生々しい魅力を放った一枚である、と吾輩は断言したい」

逗子「僕にとってニール・ヤングは怒っているのか、優しいのか、どっちかよくわからない人なんです~。でも、このアルバムが彼のメロウな側面を抽出した美しい作品であるってことだけは、はっきりわかりますよ~」

戸部「左様。だから無駄話などせず、ゆっくりとコーヒーでも飲みながら感傷に浸るのが本作の正しい聴き方なのですよ」

穴守「おめえ、さり気なくコーヒーの催促をしているだけだんべ?」

 穴守会長とコデータの3年生コンビは何だかんだで仲が良いようで。それにしても、男3人でニール・ヤングについて熱く語る秋のひととき。渋い青春です。 【つづく】

『Hitchhiker』収録曲の既発ヴァージョンが聴ける作品の一部を紹介。

 

ニール・ヤングの『Hitchhiker』と並べて聴きたい作品たち

NEIL YOUNG Peace Trail Reprise/ワーナー(2016)

ジム・ケルトナーとポール・ブシュネルという名手たちとのトリオ編成で作られた目下のところの最新作。シンプルという点では『Hitchhiker』に共通していますが、感傷的な雰囲気はなく、ブルージーでザラついた不穏さが全体に漂っていますな。これもまたひとつの新境地。いやはや頭が下がりますよ。 *戸部

 

Okada Takuro ノスタルジア HOSTESS(2017)

元・森は生きているのリーダーによる初のソロ作です~。シティー・ポップを土台にサイケやプログレなどの要素を呑み込んでいたバンド時代も良いですが、より音楽性を整理した本作も絶品ですね~。内省的なサウンドと物憂いハイトーン・ヴォイスは、ニール・ヤングのメロウ面にも通じると思います~。 *逗子

 

DINOSAUR Jr. Give A Glimpse Of What Yer Not Jagjaguwar/Hostess(2016)

ヤング先生のDNAをもっとも強く受け継いでいるオルタナ世代のバンドは、彼らに他ならないでしょう。実際、『Weld』のツアーでは前座に抜擢されていましたしね。全編でエレキの鳴っている本作も、スロウ・チューンにおける乾いた叙情と荒涼感が『Hitchhiker』的ですな。 *戸部

 

BON IVER Bon Iver Jagjaguwar/HOSTESS(2011)

いままであんまり意識していなかったけんどよ、静寂でフォーキーな内容の『Hitchhiker』を聴いて、〈ニール・ヤングとボン・イヴェールは意外に似ているんじゃ?〉と思ったんさあ。そしたらボンはヤングからコラボの誘いを受けたこがもあるらしく、俺の直感もまんざらじゃねえってことだいな。 *穴守

 

部室に置かれたキャンパス・ノートを覗き見しちゃいましょう!

BAKER-GURVITZ ARMY BAKER-GURVITZ ARMY Vertigo/BELLE ANTIQUE/MARQUEE(1974)

 さっそくですが、最近入手したお宝CDを紹介しましょう。今回は我輩の趣味全開ですので、ご了承ください。まずは、元ガンのガーヴィッツ兄弟とジンジャー・ベイカーの3人で構成されたベイカー・ガーヴィッツ・アーミー。74年のデビュー作『Baker-Gurvitz Army』(Vertigo/BELLE ANTIQUE/MARQUEE)が紙ジャケ+SHM-CD化ですぞ! 兄弟の豊潤でエモーショナルなギター&ベースと、ベイカーのやたらと自己主張の強いドカドカしたドラムスが、噛み合っているんだか、いないんだか微妙なバランスを保ちながら、実に英国ハード・ロックらしい陰影のある音世界を作り出しておりますな。そこはかとなく漂うB級テイストもオツです。

 

ZODIAC Cosmic Sounds Elektra(1967)

 お次はシンセ音楽ファンであれば馴染みの2人――モート・ガーソンとポール・ビーヴァーを中心とするプロジェクト、ゾディアックが67年に発表した唯一作『Cosmic Sounds』(Elektra)。〈十二星座〉をコンセプトにした奇天烈なサイケ・ビート企画盤として、モンド/エキゾ筋から評価の高い一枚ですぞ。驚くべきはハル・ブレインらレッキング・クルーの面々がバッキングを務めていることと、朗読でモダン・フォーク・クァルテットのサイラス・ファーヤーが全面参加していること。雰囲気は胡散臭いものの、プロダクションはしっかり緻密に構築された逸品であります。

 

GERMAN OAK Down In The Bunker Bunker/Now Again(1972)

 続いてのジャーマン・オークによる72年作『Down In The Bunker』(Bunker/Now Again)もサイケな一枚。こちらは相当なマニアでもノーチェックだったであろうクラウトロックの激レアな発掘盤で、防空壕の中で録音されたという、気の滅入るほどダークで取りとめのないサイケデリック・ジャムが、脳内を激しく麻痺させること確実です。いかにも当時のドイツらしい混沌さが我輩好みですぞ。

 

THE WIND IN THE WILLOWS The Wind In The Willows Capitol/Big Pink/ヴィヴィド(1968)

 さて、最後くらいは爽やかな作品を推しておきましょうか。NYの男女混声グループ、ウィンド・イン・ザ・ウィロウズが放った68年の唯一作『The Wind In The Willows』(Capitol/Big Pink/ヴィヴィド)です。バロック調やジャグ・バンド風も交えたヒッピー・テイスト満点のフラワー・ポップは、ママス&パパスを少しだけサイケにしたような趣。デボラ・ハリーが在籍していたことで知られていますが、ブロンディ的なサウンドを期待するとズッコケますのでご注意を。 *戸部小伝太