FLY ME TO THE MOON
いまなお止まないオアシス再結成の噂を完全に否定し、今年50歳になったノエル・ギャラガーはさらなる高みをめざして翼を大きく広げる。未来だけを見つめる男が、デヴィッド・ホルムズと共に創造した新しい自分自身の姿とは?
NOEL GALLAGHER'S HIGH FLYING BIRDS Who Built The Moon? Sour Mash/ソニー(2017)
従来とは違う方法で臨んだ一枚
オアシスのデビュー当時からノエル・ギャラガーを見ているが、最近のノエルの動きや発言には感慨を禁じ得ない。何しろ、ゴリラズの最新作『Humanz』でかつての宿敵であるデーモン・アルバーンと共演した一方、弟リアム・ギャラガーが発表した初のソロ作品『As You Were』には興味を示さず、オアシスの再結成についても「あのバンドでやり残したことなどない」ときっぱり否定。過去に固執することなく、その視点がただ未来や新しさへと向いていることがよくわかる。
そしてソロ・プロジェクト、ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズの3枚目となるニュー・アルバム『Who Built The Moon?』だ。前作『Chasing Yesterday』(2015年)は初の全面セルフ・プロデュースだったが、今回はDJにして映画のスコアも多数手掛けるデヴィッド・ホルムズに指揮を委ね、いつもよりサイケな雰囲気となっている。オアシス時代から一貫して、デモを完璧に作ってはスタジオで録音するというスタイルを取ってきたノエルが、今回は現場で構想を練り、時には〈もっと書けるはず〉とホルムズに鼓舞され、ひとつのアイデアから多くのフレーズを生み出したりもしたそう。結果、手癖は皆無なのにノエル節、という斬新さでオールド・ファンにも夢のような一枚に。あと、歌詞が最高。 *妹沢奈美
現行のUKロック・シーンをノエルなりに意識した?
ここ数年のUKロック界にはさまざまなタイプの若手バンドが存在している。グランジからの影響を公言するウルフ・アリス、ブリット・ポップ回帰を目論むスーパーフード、ビッグ・ビートやヒップホップの要素も交えたパンキッシュな音作りを身上とするラット・ボーイなど多様さが印象的だ。
そんな現況にノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズのニュー・アルバム『Who Built The Moon?』はピタリとハマる。正調ロックンロールもあれば、“Fort Knox”ではねちっこいファンクネスを創出。実に多彩な音楽性だ。作品の軸となるのは、ニュー・オーダー風のギターが映える“She Taught Me How To Fly”ほか、エレクトロニック・ミュージックの意匠を纏った楽曲。前作『Chasing Yesterday』のリミックスで好相性を見せ、今作の共同プロデュースを手掛けたデヴィッド・ホルムズの影響がおそらく大きいのだろう。サイケ味を加えてドラマティックかつ分厚いアレンジで迫る感じは、テクノを出自に映画音楽の分野でも成功したホルムズならでは。〈ポスト・ストーン・ローゼズ〉と囁かれるブロッサムズも、この仕上がりには舌を巻いているはず。そんなわけで、『Who Built The Moon?』に触れると、〈現行のUKロック・シーンをノエルなりに意識した?〉とも邪推してしまう。 *近藤真弥