(C)Museo Nacional del Prado(C) Lopez-Li Films

 

プラド美術館の全面協力を得た傑作ドキュメンタリー
没後500年で再注目される、謎に満ちた作家の創作の謎に迫る!

 「快楽の園」のなかにウサギを探している人物が、ここにも、あ、ここにも、というふうに一匹ずつ、それぞれ異なったタイプのウサギをみつけて、あぁ、トトロも、と言う。トトロもボスのこの絵から発想されたのかもしれないね、と。

 プラド美術館に展示されているヒエロニムス・ボス「快楽の園」を中心に語られる人たちのことばから、さまざまなイメージが呼び寄せられ、絵とならべられる。作家のパムクが、ラシュディが、ノッテボームが、指揮者のクリスティが、ソプラノのフレミングが、画家の蔡國強(ツァイ・グオチャン)が、絵を前に。

 15~16世紀、フランドルで生きた 画家の作品がスペインにあること。フェリペ2世が執着し、ティツィアーノの作品とともに所有していたこと。画家が〈聖母マリア兄弟会〉に属していたこと。あわせて画面にはフランドルの風景や祭りの様子もあらわれる。映画は周辺的なことも加えて説明してくれるが、主たるところは、人ひとりひとりが、絵をどうみるか、何をみるか。ときに唱和し、ときに相反する。ボスは夢を描いたと言う人がおり、ボスは現実を描いたと言う人がいる。そんなコントラストがごくあたりまえにならべられる。

(C)Museo Nacional del Prado(C) Lopez-Li Films

 アプローチもさまざま。ボスという人物の名が公的な文書のなかに最初にでてくるのは、と歴史上の証言もあれば、X線を用いて画家がいまみえているのとは異なった描き方をしていた最初の段階を検証する科学的なアプローチもある。宗教的な解釈も美術史的解釈も。あいまにひびく古今の音楽。

 で、あなたはどうなの? 映画はそんなことをわざわざ問い掛けてなどこない。こないけれども、みている人はいつのまにか、こうなんだろうか、ああなんだろうかと、問いを自分のなかでぐるぐるとまわしているだろう。あわせて、こうした多様な見方、解釈がでてくるさまにふれながら、絵画をみることの自由を、自由というものの、イメージを羽ばたかせることの尊さをかならずや感ずるはずだ。

(C)Museo Nacional del Prado(C) Lopez-Li Films

 神やキリストの表象について、男女について、動物や植物について、造形物について、赤い実について、楽器について、などなど、どこに眼をむけるかによって浮かびあがってくるものは変わる。

 中世における愛を「薔薇物語」やクリュニー美術館の一角獣のタピスリーと対比しながら、ボスにあるのは違うんだ、と強調もされる。そのうえでこんなことばがあらわれる――「鑑賞者は愛のジムへ誘われる/精神のスポーツ・ジムだ/愛の筋肉を鍛えるのさ」と。

 映画だからこそ、細部をクロースアップし、いくつもの細部をモンタージュし、あ、そうか、こんなところに!との発見がある。それは画集でも、また、ネット上でもなかなかわからない、監督や監修者の〈眼〉をとおしてあらわれてくるものだ。大きな画面で美術館とはまた異なった絵画体験を!

 

映画「謎の天才画家 ヒエロニムス・ボス」
監督:ホセ・ルイス・ロペス=リナレス
原案:ラインダー・ファルケンブルグ
出演:ラインダー・ファルケンブルグ(美術史家)/シルビア・ペレス・クルース(歌手)/ルドヴィコ・エイナウディ(作曲家)/オルハン・バムク(作家)/他
配給:アルバトロス・フィルム(2016年 スペイン・フランス 90分)
◎12/16(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー!
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