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“渚”以来の突破口となりえるビッグ・ソング

誤解を恐れずに言えば、シャムキャッツにとって“渚”以来のアンセムではないか。昨晩、突如リリースされた新曲“このままがいいね”は、それほどまでにフレッシュで、前のみを見据え、力強い。“MODELS”は痛快だった。“GIRL AT BUS STOP”は夢みたいだった。そして、“マイガール”は頼もしかった。だが、バンドの立つ風景が、この地点から刷新される予感を音の隅々に宿しているという点で、やはりこの曲は彼らが“渚”を発表したときのことを思い出してしまう。

タム回しからスタートするリニアなドラム・ビートはニュー・オーダー的。いや、甘やかなギター・リフをふまえると、ロマンのありようとしてはLCDサウンドシステム風と言うべきか。そして、『Friends Again』から地続きのアコギ・ストロークと、アンサンブルのしなやかな躍動感は、『More Songs About Buildings And Food』期のトーキング・ヘッズを想起させる。それでいて、若干プラスティックな衣装を纏ったプロダクションには、シャムキャッツ初のスタジアム・ロックとでも言えそうなスケール感が備わっており、その80年代的でてらいのないキャッチーさと思わず拳を上げたくなる勇猛さは、ナショナルやニュー・ポルノグラファーズ、アレックス・キャメロンらの作品群とも並べて聴きたくなる。

彼らが、なぜ新曲のリリース方法として配信を、しかもサプライズでの発表を選んだのか、その理由はまだ定かではない。だが、かなりの自信作であることは間違いないだろう。ともあれ、“このままがいいね”はシャムキャッツ史きってのビッグ・ソングであり、〈何をしようが勝手だろう〉と歌った“渚”が、楽曲に込めた反抗とは裏腹に新たなファンを獲得していったのと同様に、まだ見ぬリスナーへとバンドを気付かせる1曲になるはずだ。その結果が〈このままではいられなく〉なることだったとしても、数々の苦境を乗り越えてきたこのファブ・フォーは、何も変わらず飄々と、4人で音を鳴らし続けるのだろう。 *田中亮太