Photo by Jake Michaels
 

2009年にデビュー、USインディーの10年を支えてきたバンド、リアル・エステイトが新作『The Main Thing』をリリースした。この5人組にとって通算5作目となるアルバムには、シルヴァン・エッソやウォークメンのマット・バリックら外部ミュージシャンも参加。彼らならではの浮遊感や柔らかなサイケデリアは変わらないながらも、より大胆かつ深みを増したアレンジがバンドの成熟を伝えてくれる。

リアル・エステイトの瑞々しいメロディーと流麗なギター・アンサンブルは、ここ日本のインディー・バンドたちにも多くのインスピレーションを与えてきた。昨年、デビュー10周年を迎え、東京・新木場STUDIO COASTでのワンマン・ライブを成功させたシャムキャッツもそのうちの1組。『TAKE CARE』(2015年)、『Friends Again』(2017年)といった作品を中心に、その影響を随所で聴くことができる。

そこで、今回は『The Main Thing』のリリースを記念して、シャムキャッツのフロントマン、夏目知幸が同作を考察。一聴した瞬間〈個性を消している、超好感〉との感想を持ったという彼が、アルバムを聴きこんでいくうちに、どんな作品と位置づけるようになったのか。その思考の旅を綴ってもらった。 *Mikiki編集部

REAL ESTATE The Main Thing Domino(2020)

 

 

〈らしさ〉を捨て、4番バッターっぽくなったリアル・エステイト

『The Main Thing』の興味深い点は、〈リアル・エステイトじゃなくても作り上げられたかも知れない音楽〉に仕上がっているところ。オリジナリティーを放棄したと言ってもいい。相変わらずメロディーは美しく、抑制の効いたバンド・アンサンブルが心地いい。しかし、今まで培ったリアル・エステイトらしさを捨てている。

『The Main Thing』収録曲“Friday”
 

具体的に指摘すると、ギターも鍵盤もコードを恥ずかしげもなく大げさに鳴らしている点。リズムのフックが減った点。意外な曲展開をしない点などが、いままでと違う印象を導いている。リアル・エステイトをリアル・エステイトたらしめていた〈ギター2本とベースラインの緻密な絡み〉と〈滑らかにストップ・アンド・ゴーするリズム〉は今回メインの武器として登場しない。

代わりに、大味とまでは言わないがこれまで避けていたであろう、インスタントだと批判されかねない大衆的なエクスタシーの追求が垣間見れる。なんというか、別の喩えをすると、4番バッターのスイングをイメージさせる。言うなれば筒香嘉智(MLB、タンパベイ・レイズ)の雰囲気。どっしり、肉厚でパワフルなのだ。グルーヴはより太くなり、音像も味わい深く重層的になった。一度ノったら最後まで滑らかに浸らせてくれる度量を持ったアルバムだ。

『The Main Thing』収録曲“Paper Cup”

 

不動産と名乗るバンドがついに建てた、新築の一戸建て

〈再構築的〉に音楽と向き合って来た彼らだったが、今作は〈真っ当に構築的〉にアルバムを作ったということだと思う。再構築は元あるものを最初に細かくしていって組み直すから、音楽的に〈点〉の集積になるきらいがある。しかし今作の心地よく芳醇な音楽からは、〈点〉よりも〈線〉や〈面〉を描くというイメージを豊かに育くみながら楽曲を作ったという印象を受ける。

Photo by Jake Michaels
 

そしてその作業を通して、〈Re〉ではない側から音楽を作っているという自覚が彼らの中に芽生えたのではないだろうか。だから『The Main Thing』というタイトルを冠しているのだろう。これは〈主物〉を意味する。あまり聞き覚えのない言葉なので調べると、〈主従の関係がある物で、従物が付属している方の物〉〈家具や畳における家〉と出てくる。

なるほど、リアル・エステイトは不動産というバンド名の割には家っぽいというより家具っぽいバンドだった。家をいちから作るのではなく、部屋のレイアウトを変えたり、大きく出てもせいぜいDIYでリノベするといった手振りで、これまでのアルバムを作ってきた。つまり、バンドのスタンスは、あくまでも従属する側からのアクションであり、従属せざるを得ない社会に対して、市井の人間の意地や良心を軽やかに提示することだった。無理なく、地に足のついた、一見淡白な音楽。団地っぽい、のっぺらぼうの音楽。そんな彼らが本作では、一戸建てを建てた。

『The Main Thing』収録曲“The Main Thing”

 

少年から父親へ。『The Main Thing』は社会の一員たる大人のアルバム

そう考えると、リアル・エステイトはこのアルバムでオリジナリティを放棄したわけではなさそうだ。今まで学んだやり方でもっと大きいものを作ろうとしたら、結果的に〈家〉という〈主物〉ができた。それは、どこかの知らない誰かが見るともなく見る可能性のある、生まれながらにして公共性が伴うもの。計画的に作ったのか、遊んでいるうちに自然とできたのかは分からない。それでもひとつ言えるのは、社会の最小単位である〈個人〉の枠を越えて、もうひとつ大きい単位である〈家族〉や〈コミュニティー〉の代弁者たれという声を彼らが受け入れたということだ。

結果、サウンドは包容力に満ちている。同時に、これまでで最も幻想的に聴こえるのが面白い。夜、眠る前に親が子に本を読み聞かせているかのような、静かさと暖かさが想起される。物語が深くなるにつれて、親も子も現実から遠ざかっていく。幸せってなんだろうなんて、僕は考えたことがないけれど、もしかしてあの瞬間のことかもしれない。

『The Main Thing』収録曲“You”
 

まだまだ続くだろうリアル・エステイトの歴史の中で、いまは大きな変化の時期なのではないか。彼らの年齢もそこそこいい歳になっているし、ご近所づきあいとかもやらないといけないくて、町内会で役割を与えられることもあるんじゃないだろうか。このアルバムからは、そんな風景も見えてくる。

Photo by Jake Michaels