フルーティーな正体不明の覆面トリオが始動……!

 「一昨年の12月にME**ORと久々に〈遊ぼうよ〉っていう話になって、俺の家に来てもらったんですけど、ちょうど買ったばかりだったローズ(・ピアノ)を使って一緒に曲を作りたくなって、その日のうちに出来たのが今回のアルバムに入ってる“ほんとそう!”で。それがいい感じだったから〈どうせならアルバムめざしてみる?〉ということになって、そこでME**ORが〈ヤバい奴がいる〉って紹介してくれたのがbuta■■だったんです」(K○N)。

 旧知の仲であるK○NとME**ORという二人のラッパーに、ME**ORの飲み仲間だったシンガー・ソングライターのbuta■■が合流する形で実を結んだのが、ここで紹介する青い果実というユニットだ。仕事や生活の合間を縫っては月イチでK○N宅に集まり、一日で一曲ずつ作るというペースで制作を進めてきた彼ら。「13時頃に集まるんですけど、18時には作業を終えてさっさと飲みに行きたくなるんですよ。制作期間の後半はそれがより顕著になって、もう飲みが目的になってて(笑)」(K○N)、「早く飲みに行きたいから、ちょっと録ったら〈もうこれでOKでしょ!〉って」(ME**OR)と冗談めかして話しはするが、そうやって完成したファースト・アルバム『AOKAJI』には、もう決して青くはない彼らが気負いなく純粋に音楽を楽しむ姿勢が表れている。

青い果実 AOKAJI VYBE(2018)

 「若いときは張って高い声を出そうとしてたんですけど、いまはもう無理するのをやめて低い声で歌ってるし、家でリリックを練ったりもしないし」(M**EOR)。

 「俺もそういうのは意識しましたね。ゼロのテンションというか」(K○N)。

 「普段の生活と同じぐらい気が抜けてる感じですよ。僕の場合はフックを考えるとき、まず平日の会社員の人物像とか一日の流れを想像して歌詞にしましたから」(buta■■)。

 ユーモラスな変化球を投げまくるME**ORと地に足の着いたK○N、そんな個性的な両名のラップをソウルフルなフックで束ねるbuta■■という三人のバランスと一体感は絶妙。大半のトラックはK○Nが制作しており、「野外でお酒を飲んでる人たちの歌というか、いままでクラブでシャンパンおごってたラッパーもコンビニで酒買って河川敷で飲めばゆとりが生まれて救われるかもしれないと思って(笑)」(ME**OR)書いたというアラビックな酩酊チューンの“THIS TOWN”、buta■■製のボッサなビートに3人の肩を組んで合唱しているようなサビが微笑ましいはしご酒のテーマ“ふらつこう”といった酒絡みの楽曲を多く配しているのもこの三人ならではだろう。一方、リード・トラックの“mebius”ではFar Farmのico!をゲスト・シンガーに迎えてブギーなディスコに浮かれたり、ローズが揺らめく先述の“ほんとそう!”では〈すべては気の持ちよう〉〈いいこともあれば悪いこともある〉とある種の真理をサラッと突いてみせたり、日常の目線を失わない当人たちの大らかな人生観が流れている。その押しつけがましくない在り方はアルバム全体に通底するテーマのようだ。

 「SNSで何かを代表してるようなことを書く人とかいるじゃないですか。自分がそう思ってるだけならいいけど、さも全体がそうじゃなきゃダメみたいに言うのは越権行為だと思うんです。八百屋が〈ウチはこういう野菜しか置かない〉って言うのはアリなんですけど、八百屋全体の話にするのは止めてくれっていう。別にどんな野菜を売ってもいいんだから」(ME**OR)。

 ままならぬ人生と折り合いをつけて歩む姿が深く心に沁みる“許され許し”など、酸いも甘いも噛み分ける年代だからこそのソウル・ミュージックが刻まれた本作は、きっとあなたの日常にも程良い距離感で寄り添ってくれるはずだ。

 「今回の作品は〈そんなふうに受け入れてくれるんだ!?〉っていうのが起こる気がしててすごく楽しみで。どこに届くんだろう?って感じだよね」(K○N)。

 「僕としては生活してる人全員に聴いてもらえるものが作れたと思ってるけど、たぶん高校生とかは聴いてもわからない部分が多いと思う。きっと居酒屋とかに届くんじゃないですかね(笑)」(buta■■)。

 

メンバーたちの個性が光る、青い果実と共に味わうべき果実たち

 一応〈覆面トリオ〉ということで、インタヴュー本文では伏せ字を入れてみましたが……ここでは関連盤を紹介する都合上、名前が載ってしまいますよ。まず、大半のトラックも手掛けるラッパーのKYNは、SD JUNKSTAの一員として活動しつつ2008年にソロ・デビュー、当時からDJやビートボックスもこなすオールラウンダーとして、マイペースに自作や幅広い外部制作に携わってきました。KOYANMUSIC名義のリーダー作『prelude』(2015年)では、クラシックの素養も活かして自身の演奏でループを創作するなど、音楽家としてなお成長中。近年はSALUやMARIAらにビート提供する傍らエンジニアとして多くの作品に携わり、湯煙beeの初作でもミックスを担当しています。

KOYANMUSIC名義『prelude』収録曲“Clap! featuring MARIA”

 

 一方、METEORは同業者人気の高い奇才のラッパー。SMRYTRPSを経て2004年にはDARTHREIDER × 環ROYとD.M.R.を結成し、Da.Me.Records中心にマイペースな活躍を見せてきました。2009年には名曲“4800日後...”を含むソロ快作『DIAMOND』を自主リリースしていますが、近年は秘密結社MMRを拠点として個性的な才能を見せつけてくれています。

秘密結社MMR『スーパーヒップホッパーズ -幻の巨大魚編-』収録曲“ロキソニン~アダムとイブ~”

 

 そして、比較的ラップ・ファンには馴染みが薄そうなのがシンガー・ソングライターのbutaji。艶のある歌心とソウルフルなフィーリングの光るソロ作『アウトサイド』、入江陽との連名EP『探偵物語』はいずれも評価の高い傑作なので、彼の歌にグッときたらぜひチェックを! *出嶌孝次

butaji『アウトサイド』収録曲“サンデーモーニング”

 

関連盤を紹介。