サンダーキャットも酔猫と化すチョップド&スクリュードの魅惑

 各メディアの年間チャートなどでも大絶賛され、2017年指折りの名作という評価を認定された感もあるサンダーキャットの『Drunk』。ケンドリック・ラマーやファレル・ウィリアムズ、マイケル・マクドナルド&ケニー・ロギンス、ウィズ・カリファ、フライング・ロータスら参加メンツの豪華さはもちろん、日本では同作を引っ提げてのツアーや〈フジロック〉登場なども強い印象を残したに違いないが、何より、間口の広いポップな作風がいままでの雷猫にない方面/角度から広く支持されたこと自体が素晴らしかったと思う。そんな話題作ならではの二次創作ということで、アルバム発表の半年後にはチョップド&スクリュード仕様にリミックスした音源『Drank』が公開されていたが、何とその『Drank』がこのたびブレインフィーダーから公式CD化! チョップド&スクリュード・ミックスは、ヒューストンの重鎮OGロンCと、彼の率いるチョップスターズ所属のDJキャンドルスティックという本職の手掛ける本気の一枚だ。

THUNDERCAT Drank Brainfeeder/BEAT(2018)

 ここでいう〈チョップド&スクリュード〉とは、90年代のヒューストンでDJスクリューが編み出した作法で、切り刻んだフレーズを繰り返したりピッチを極端に下げてスロウにするミックス手法のこと。ガシガシしたチョップや音色や声色のモッタリした歪みでドラッギーな効果を生み出すべく、現在では楽曲の構成パーツとして一般化しているマナーだが、2000年代半ば頃までのUS南部のヒップホップ作品では、アルバムを丸ごとチョップド&スクリュード仕様のリミックス盤として出すのもごく普通のことだった。

 その辺の状況は当時のbounceでしつこく紹介していたのでバックナンバーなどをご覧いただくとして……オリジネイターのDJスクリューが2000年に急逝後、チョップド&スクリュードの総本山となったのはマイケル“5000”ワッツの率いるクルー/レーベル=スウィシャ・ハウスだったが、その設立時に在籍していたメンバーこそOGロンCであった。独立後の彼はDJミックスをストリート盤で出したり、ラップ・ア・ロットやカミリオネアのスクリュー仕事などを通じて活況を呈したヒューストンのシーンに根を張りつつ、2008年に自身のサイトで世界初のスクリュー専門ウェブラジオ局〈ChopNotSlop Radio〉を設立。自身の技法を〈Chop Not Slop〉とポジティヴにシグニファイし、DJチームのチョップスターズを組織して、地元が生んだチョップド&スクリュード文化の普及と革新に努めはじめるのだった。

 2010年代に入ってからのロンCは、ドレイクの諸作を『Chop Care』(2011年)、『Choppin Ain't The Same』(2013年)としてリミックス(テキサスの血を引くドレイクはスクリュー・サウンドのファンだったという)。それに前後して、ポスト・ダブステップやチルウェイヴ、ウィッチハウスなどの近からず遠からずなノリも拡散の助けとなってエクスペリメンタルな意味でのスクリュー・スタイル導入(単にピッチを落としているだけのものもあるが)も多方面で試みられるようになり、ロンCとキャンドルスティックもリトル・ドラゴンの『Nabuma Purple Rubberband』(2015年)やパーケイ・コーツ“Captive Of The Sun”(2017年)のリミックスなどを手掛けている。チョップド&スクリュードを意識した映画「ムーンライト」(2016年)のサントラをキャンドルスティックが『Purple Moonlight』化したのも記憶に新しい。

 このたびの『Drank』はそうした状況を踏まえて登場するものだが、御託は必要ない。スクリュー盤はオリジナルを聴き親しんでいればいるほどおもしろく響いてくるものだが、単純にパープルな音を文化価値のあるお洒落なものとして受容してみるのも全然アリだろう。願わくば、それが新しい扉となりますように。