数値上の成功もさることながら、それ以上に注目すべきなのは、『カミラ』では彼女が全曲を綴り、フィフス・ハーモニーと一線を画す独自の音楽的アイデンティティを確立したという点だろう。

 

突然のフィフス・ハーモニー脱退から1年を経て、全米チャートでシングル『ハバナfeat.ヤング・サグ』とアルバム『カミラ』が同時にナンバーワン獲得! 2018年最初のビッグ・ニュースを届けてくれたのは、薄々予感はしていたものの、やっぱりカミラ・カベロだった。

どちらもキャリア初、グループ時代の記録を更新し、アメリカに留まらず世界中でチャートを席巻していることはご存知の通りだ。でも数値上の成功もさることながら、それ以上に注目すべきなのは、『カミラ』では彼女が全曲を綴り、フィフス・ハーモニーと一線を画す独自の音楽的アイデンティティを確立したという点だろう。つまり、ひとりの女性かつミュージシャンとして自分が何者なのかようやく明らかにしているのが『カミラ』であり、本人も次のように説明する。

「アルバムのメッセージは、タイトルを『カミラ』にした理由と同じなんだけど、1stアルバムだから、私のことをあまり良く知らなかった人たちに、自分がどんな人間かを紹介する作品だということ。私のあらゆる面が披露されていると思うわ。自信に満ちた面もあるけど、弱さをさらけだした面もたくさんあって、過去1年半の間に経験したことの全てが曲になっているのよ」

そんな本作をレコーディングするにあたって彼女は、スクリレックスやファレル・ウィリアムスら豪華な面々の協力を得ているのだが、全曲にクレジットされているキー・パーソンは、フランク・デュークスことアダム・フィーニー。最近ロードやフランク・オーシャンにも起用されて脚光を浴びるこのカナダ人をパートナーに、これまでは見え難かった自分の音楽嗜好を前面に押し出した。そこに重要な柱があるとしたら、ひとつはずばりラテン・ミュージックだ。

母の故郷であるキューバはハバナで生まれ、一時は父の故郷メキシコで過ごしたのちにマイアミに移住したカミラは、中南米の音楽にたっぷり触れて育った。よって、キューバン・テイストを満載し、郷愁を誘ってやまない“ハバナfeat.ヤング・サグ”はまさにルーツへのオマージュ。

ほかにも“シー・ラヴズ・コントロール”や“インサイド・アウト”といった曲でトロピカル気分を醸し、ジャケットもキューバ系アメリカ人が集まるマイアミのリトル・ハバナ地区で撮影するなど、ラティーナとしてのプライドをしっかり伝えている。

そしてもうひとつの柱は、アコギ弾き語り調の“オール・ディーズ・イヤーズ”やピアノ・バラード“コンシクエンシズ”に顕著に表れた、オーセンティックなシンガー・ソングライター志向だ。テイラー・スウィフトやエド・シーランに憧れて、長年ギターを片手に曲を書いた彼女にとって、自分の言葉を歌うことこそ、グループで叶わなかった念願の目標。本作では何よりも、「私にとってリアルな曲を書くこと」にこだわったという。

「目指したのはヒット曲を作ることとかじゃなくて、その時々で私が実際に感じたことを表現する曲を書くことだった。ユニークな視点のリアルな曲であればあるほど、人々がより共感してくれるものだと感じているから」

確かにこれらの曲には素直な表現を用いた鮮明な状況描写・感情描写が溢れていて、リアリティに不足はなく、失恋の痛みと向き合う曲も多いせいか、心の重荷を下ろしてどんどん軽くなってゆくかのような印象を与えるアルバムだ。

しかもフランクのプロダクションがまた的を射ていて、生楽器の響きを重視し、多様なスタイルを網羅しながらも音数は絞られ、驚くほどシンプル。切なさと甘さを含んだ複雑な味わいの声の魅力を、最大限に引き立てている。

シンプルと言えば、曲数も然りだ。候補は幾らでもあったらしいが、厳選した計10曲で勝負することを、カミラは選んだ。だから聴き終えた時には、〈もっと!〉という気分になる。彼女のストーリーの続きを知りたくなる。これは始まりに過ぎないんだと思わせてくれる。

振り返ってみると、脱退を巡ってあれこれ噂も立ったし、やりたいことができるという解放感をかみしめる一方で、心細さやプレッシャーを感じてもいたはず。そんな中、まだ20歳にして、目標を見失わずに自分に正直なアルバムを完成させたカミラの意志の強さは賞賛に値する。

ビヨンセやジャスティン・ティバーレイクのように人気グループから独立して息の長いキャリアを築けるのかどうか、今後が楽しみなところだが、とりあえず絶好のスタートを切ったことは間違いない。