類稀なキャラクターと才気に満ち溢れた世代のカリスマ、熱いエモーションを届ける歌姫、そんな女神の名前はカミラ。全世界が待ち焦がれていたソロ・デビュー・アルバムの降臨!

キューバの血を引くアイコン

 合衆国のオバマ大統領(当時)とキューバの国家評議会議長のカストロが進めてきた国交正常化交渉が実り、2015年に国交が回復したキューバとアメリカ。2017年になってからはトランプ大統領が対キューバ政策をふたたび硬化する方向を打ち出しているが……そうした時代に逆行する動きの是非はともかく、キューバ系のアーティストがUSシーンを経由して世界に飛び出すという流れは、往年のグロリア・エステファンから近年のピットブルに至るまで途絶えることがないのは明らかだろう。そうでなくてもラテン音楽のシーンが継続的に盛り上がっている背景も手伝って、多様性を備えたバックグラウンドの存在は大きなアイコンとなり得る可能性にも繋がっている。その最新のアイコンとなるのがここで紹介するカミラ・カベロだ。

 97年3月3日にキューバはハヴァナで生まれたカミラ・カベロ(本名カーラ・カミラ・カベロ・エストラバオ)は、父の故郷であるメキシコを経由して幼い頃にUSはフロリダ州マイアミに移住、そこでさまざまな音楽を吸収して成長していく。2012年にTVのオーディション番組「The X Factor」に出演すると、ガールズ・グループのフィフス・ハーモニーとしてレコード契約を勝ち取り、2013年にデビューEP『Better Together』を発表している。日本ではさほど有名ではなかったこの時期にオースティン・マホーンとの交際でゴシップ欄を賑わせたのも、いまとなっては懐かしい類の昔話だが……キッド・インクとの“Worth It”(2015年)やタイ・ダラー・サインとの“Work From Home”(2016年)といったアーバン路線のヒットを得てフィフス・ハーモニーが大躍進を果たすと、さまざまなバックグラウンドを持つメンバーの揃った華やかなグループにあって、特にカミラはその中心人物と目されるようになっていく。仲良しなショーン・メンデスの“I Know What You Did Last Summer”(2015年)に招かれてコラボしたり、マシンガン・ケリーの全米4位ヒット“Bad Things”(2016年)で客演するなど、早くから単独でも脚光を浴びる機会は多かったし、2016年にはTimes誌による〈世界でもっとも影響力のあるティーン30人〉にもグループからひとり選出。音楽的な才能と恵まれたヴィジュアル、持ち前のキャラクターによって同世代の同性/異性から絶大な支持を集めるに至ったのだった。が、そんなブレイク中の2016年12月、彼女は突如フィフス・ハーモニー脱退を選んでいる。

 

全方位型の存在感

 とはいえ、そんなカミラを世界が放っておくはずもなかった。翌2017年に入るとブルーノ・マーズの北米ツアーでサポート・アクトに抜擢され、カシミア・キャット“Love Incredible”や大ヒット映画「ワイルド・スピード ICE BREAK」(物語はキューバから始まっている)のサントラ所収のJ・バルヴィン&ピットブル“Hey Ma”に立て続けに客演、そして5月にはベニー・ブランコ×カシミア・キャット×ハッピー・ペレス制作の“Crying In The Club”でソロ・デビューを飾っている。さらに“I Have Questions”やミーゴスのクエイヴォとの“OMG”、メジャー・レイザーの“Know No Better”客演などのトラックを経て生まれたのが、ヤング・サグを迎えたビッグ・チューン“Havana”だ。これは全米チャートで2位まで浮上し、5週連続で全英1位をマークするなど、グループ時代をも凌ぐ特大ヒットになった(リミックスにはダディ・ヤンキーが参加)。そして、これがゴーサインとなってついに完成されたのが、このたびのファースト・ソロ・アルバム『Camila』というわけである。

 

CAMILA CABELLO Camila Syco/Epic/ソニー(2018)

 アルバム全体は“Havana”を手掛けたフランク・デュークスがほぼ全曲に関与してメイン・プロデューサーを担当。“Crying In The Club”や“OMG”などの先行カットを含まない構成も、厳選に厳選を重ねてアルバムの全体像をブラッシュアップした結果なのだろう(ただ、日本盤のボーナス・トラックには“I Have Questions”を収録!)。フランクといえば、ポスト・マローン“Deja Vu”やドレイク“Pop Style”、ゼインの“Still Got Time”、他にもロードやフランク・オーシャン、トリー・レインズ、ビービー・レクサらのポップスターにここ数年で軒並み関わってきた振り幅の広いヒット請負人だが、ここで思い出すべきはやはり“Needed Me”(2016年)に代表されるリアーナとの仕事となるだろうか。カリブ音楽をバックグラウンドとして全方位的なトレンドの創出に貢献してきた往時の歌姫のように、カミラの備えたポテンシャルは己のルーツと多様なモダンを縦横無尽に結ぶものだ。スマートにしてフレッシュな現代ポップのポジティヴな最新スタンダードとして、『Camila』が2018年の幕を切って落とす重要作であることは間違いないだろう。

 

関連盤を紹介。

 

カミラ・カベロと『Camila』に繋がる定番ディスクを紹介!

 USメインストリームにおけるアーバン(ヒップホップ/R&B)カテゴリーの作品がどんどん刹那的かつ退廃的なムードを濃くしていくなかで、本来それらが備えていたポップネスやエンターテイメント的な側面を巧みに掬い上げていたのがフィフス・ハーモニーのようなポップ・アクトだったのでは……と、いまにして思う。彼女たちのポジティヴにしてポップなバランス感覚は、道は違えど4人組になったグループ作品にもカミラの作品にも息づいているわけで、そろそろ瞬間最大風速だけを計測するような刹那的で小賢しいゲームがアホらしくなってきたリスナーとしては、こうした楽しい作品がふたたび主流となることに期待したいものだ。

関連盤を紹介。

 

MAJOR LAZER Know No Better EP Mad Decent(2017)

『Camila』に熱いムーンバートンを提供しているのはスクリレックスだが、そのヒントは彼の盟友ディプロがカミラを迎えた“Know No Better”にあったとも言えるか。雑食ブーティーな手腕とセクシーな歌の相性は抜群だ。

 

VARIOUS ARTISTS Fast & Furious 8: The Album Atlantic/ワーナー(2017)

キューバを舞台に幕を開ける人気映画のサントラでは、ピットブルとコロンビアのJ・バルヴィンが組んだホットなコラボ“Hey Ma”にカミラも客演。メロディアスなレゲトンに乗せて情熱的な快唱を聴かせてくれる。

 

CASHMERE CAT 9 Mad Love/Interscope/ユニバーサル(2017)

アリアナ・グランデやチャーリーXCXらとの仕事で名を上げ、ムー、ホールジーら当代きっての大物女性アクトに奉仕し続けているノルウェーの若き才猫。その初作では“Love Incredible”にカミラも招聘されている。

 

LUIS FONSI Despacito & Mis Grandes Exitos Universal Latino(2017)

いまやラテン・ポップの王となったダディ・ヤンキーの、昨年の2大客演といえば“Havana”と“Despacito”。2005年ぐらいで感覚が止まってる人はさておき、硬軟自在なレゲトンのアーバン浸透は今年さらに表面化するはず。

 

RIHANNA Anti Westbury Road/Roc Nation/ユニバーサル(2016)

ダンスホール・レゲエの転用から始まり、ブーティーなM.I.A.風からEDMまでを跨いで時代のアイコンとなった彼女。フランク・デュークスも携わった本作の入口の多様さはカミラの作品も継承している部分だろう。

 

FIFTH HARMONY Fifth Harmony Syco/Epic/ソニー(2017)

カミラ脱退に瀕して心機一転、4人で結束した再出発作。ハーモニーを活かしつつトレンディーなアーバン色を増強した快作で、カミラ盤にも参加のスクリレックスがここでは毛色の違うダークな意匠をあしらっている。