ねえ、ジャネール。次の時代へ連れてって――女王のパレードは真夜中発、気持ち良くて新しいビートの磁場へ。マルチに才能を発揮してきた正真正銘の天才が久々に音楽に本気なのだ!

 さまざまなボーダーを越境してきた近未来型ソウル・ディーヴァ、ジャネール・モネイがニュー・アルバム『Dirty Computer』をとうとう完成させた。SF的な組曲のようになったこれまでの作品と繋がっているのかどうか、詳細はまったく不明のままだが、リリースの報せから段階的に公開されてきた楽曲を追っていけば、切り離された単曲として考えてみても、またまたとんでもないアルバムになるのだろう。オールド・ソウルもニューウェイヴ・ファンクも、ヒップホップ以降のR&Bも、それ以降のオルタナティヴな動きもすべて吸収/融合してきた彼女のハイブリッドな音楽性はまたしても心ある音楽ファンの大きな注目を集めることだろう。

JANELLE MONAE Dirty Computer Wondaland/Bad Boy/Atlantic/ワーナー(2018)

 多くの重鎮からも一目置かれるジャネールは、そもそもカンサスからアトランタへ移住して本格的に活動を開始。デビューのきっかけとなったのはアウトキャストのビッグ・ボーイとの縁で、20歳の時に彼の主宰するパープル・リボンのコンピ『Big Boi Presents ...Got Purp? Vol. II』(2005年)で表舞台に登場している。翌年登場したアウトキャストの『Idlewild』では2曲に参加し、そのうち“Call The Law”ではネイト“ロケット”ワンダー、チャック・ライトニングと共同でプロデューサーにも抜擢。現在に至るまでのワンダランドの盟友たちとは当初から行動を共にしていたのだ。そこから2007年にはパフ・ダディ率いるバッド・ボーイ/アトランティックと契約し、仲間たちとの独自世界の構築を認められた最初のEP『Metropolis: Suite I(The Chase)』がいきなりグラミーにノミネートされるという快挙を達成。世界観の追求のみならず明快なヒット・チューン“Tightrope”という入口も用意した初のフル・アルバム『The ArchAndroid』(2010年)は多くのメディアで賞賛を浴び、以降は業界内でも一目置かれる存在として商業面でもゆっくり上昇していくことになった。

 2011年に客演したファンの“We Are Young”が翌年に全米チャートで7週連続No.1(年間チャートもNo.1)になるという副産物もありつつ、2013年にはセカンド・アルバム『The Electric Lady』を堂々のリリース。プリンス、エリカ・バドゥ、ミゲル、ソランジュといった孤高の大物たちが参加。特にアウトキャストと縁深いエリカやプリンスの参加は具体的な成果物以上の箔のようなものをジャネールに付与したに相違ない。

 2015年にはワンダランドをレーベルとして本格始動させてエピック経由でコンピ『Wondaland Presents The Eephus』を発表し、そこから自身とジデンナのコンビ・チューン“Yoga”も披露するも、演技の仕事が軌道に乗りはじめた2016年には出演映画の「ムーンライト」「ドリーム(Hidden Figures)」が続けざまに公開される。翌年のアカデミー賞で作品賞を授かった前者はもちろん、主人公の一人を演じた後者ではBETアワードの最優秀女優賞などにノミネートされ、女優としてもブレイクしてしまうのだから凄まじい。

 そんなこんなで5年ぶりとなったサード・フル・アルバム『Dirty Computer』だが、先行シングルとしてはプリンス&ウェンディの絡むMVごと“Kiss”にオマージュを捧げたソリッドなファンクの“Make Me Feel”と、ラップ歌唱の映えるヘヴィーな“Django Jane”が公開済み。エアロスミス“Pink”も借用して女性器のパワーを称揚する“Pynk”、トラップ仕掛けのスウィート・ソウル“I Like That”なども続いている。それらのMV群は「The Emotion Picture」という映像作品の一部でもあるそうで、独特の美意識は健在だが……アート・ポップの領域に踏み込む部分もありつつそれだけに終わらないのが彼女の良さだ。リリースまで明かされないというその全貌に期待を膨らませて待ちたい。

ジャネール・モネイの作品。