インタビュー

JACK WHITE 『Lazaretto』(1)

音楽への愛とレコードへの愛。シンプルな思いを挑戦に変えて、ほどけていくブルー。ここに立っているのは、まぎれもなく2014年のジャック・ホワイトである

JACK WHITE 『Lazaretto』(1)

21世紀のブルースマン

 2年前に満を持してソロ活動を始めた時にジャック・ホワイトは、ホワイト・ストライプス時代の赤・白・黒に代わるテーマ・カラーに、ブルーを選んだ。ひとつの決まったブルーではなく、広い意味でのブルーを。

「それは僕が〈21世紀のブルースマン〉だということと関係があるのかもね」と彼は語るが、ソロ・アーティストとしての自由度の高さを象徴しているとも言えるのだろう。ファースト・アルバム『Blunderbuss』(2012年)では曲ごとに男性だけ、もしくは女性だけのバンドを従えて、ソウルカントリーの要素を織り込みながら、まさに濃淡さまざまなブルーを追求。同作は、ジャックにキャリア初の全米No.1記録をもたらしている。

【参考動画】ジャック・ホワイトの2012年作『Blunderbuss』収録曲“Love Interruption”

 

「あれはショッキングだったよ。僕みたいな音楽を作る人間が、商業的成功を追い求めていない人間がチャートのトップに立つなんて、本当に驚くべきことだ。ほら、昔のアーティストについて調べていると、例えばジミ・ヘンドリックスにはTOP20ヒットが1曲もないってことを知ったりする。偉大な人々が商業的には無視されていたわけだから、そういう史実を踏まえると余計に感慨深いよ」。

 あれからその2組のバンドを引き連れて世界を回った彼は、ツアー終了に際して、1年休んでふたりの子供たちとゆっくり過ごそうと心に決めていたという。「でもって、どうせ休むなら、思い切り時間をかけてアルバムを作ってみようかと考え付いたんだ」とジャックは笑う。ライヴ録音でスピーディーにアルバムを作り、2000年代を通してほぼ毎年何らかの形で新作を発表してきた彼にとっては、初の試みだ。

「まさか自分がやるとは思ってもみなかったことに挑んだのさ(笑)。いつも2~3週間で仕上げて〈終わり!〉ってノリだったけど、今回は1年たっぷり費やして、どうなるか様子を見たんだ。ゆっくりしたやり方を楽しめる時もあったし、〈こんなのやってらんない〉と思うこともあった。だからいろいろと学んだし、初の試みを数多く採り入れたから、聴いていて〈これはラカンターズのジャック・ホワイトでも、ホワイト・ストライプスのジャック・ホワイトでもなく、まぎれもなく2014年のジャック・ホワイトだ〉と実感できて、深い充足感を覚えるよ」。

JACK WHITE Lazaretto Third Man/Columbia/ソニー(2014)

 

昔の自分が伝えてくれるもの

 こうして完成に至ったセカンド・アルバム『Lazaretto』は実際、曲の構成もアレンジもかつてなく複雑で、さらに多様なスタイルを網羅しており、じっくり練ったことが音からはっきり聴き取れる。ツアーを通じて各人の持ち味を理解したうえで、ふたたび2組のバンドとさまざまな編成でコラボしたジャックは、ハープフィドルペダルスティールマンドリンシンセ……と適材適所で人員を配置。ギタリストとしてのアプローチにも自由度を増し、一歩引いて他のプレイヤーに任せたり、ギターの代わりにフィドルのソロを配したり、主演俳優として名演を見せながら、監督としてのバランス感をも印象付ける。

 また編集作業にもかなりの時間をかけたそうで、アナログ・テープを好む人だけに余計に煩雑なプロセスを経ている。

「例えば1曲録音して、素晴らしいテイクだったのに、ドラマーが途中でドラム・スティックを落としちゃったとする(笑)。それだけの理由でボツにするのはもったいないから、ドラムのトラックをPro Toolsに移してノイズを修正し、またテープに移し替えた。そうすれば音のソウルを維持できるし、そういう風変わりな手法をたくさん試したよ。レコーディングやミックスは絶対にデジタル形式ではやらないけど、複雑な編集作業には最適だね」。

 一方の作詞の手法も風変わりで、19歳の時に書いたという多数の戯曲の原稿に着想を得た、言わば若かりし日の自分とのコラボレーションだ。どれもキャラクターを介して人懐こく語りかける物語ばかりで、ブックレットに原文が一部掲載されているが、「完成した作品だけで判断してほしいから他はすべて破棄した」という話も、ジャックらしい。

「僕は昔書いた文章を読んで、若い頃の自分についてあれこれ考えはじめて、いまの自分に当時の自分が何を伝えてくれるのか、昔の自分の作品をいかに新しい作品に転化できるのか、掘り下げてみたくなったんだよ。それで、文章に登場するキャラクターをまったく新しい物語の中に配置し、新しい命を吹き込んだ。そうすれば、僕自身の人生とアルバムを完全に切り離すことができるよね。しかもこれだけの時間が経過しているんだから、いまの僕からは途方もなく遠い存在だろ? それでいて極めて近しい存在でもあるわけで、本当に奇妙な感覚だったね」。

 

音楽の歴史に投資したい

 そしてアルバムのタイトルには、〈blunderbuss(らっぱ銃)〉に劣らず古めかしい、〈隔離施設〉を意味する言葉を選んだジャック(「収録曲に漂うさまざまなアイデアを包み込む言葉だと思ったんだ」)、これまた古めかしいジャケットも当然ブルーでまとめており、そこに映る姿はまさに21世紀のブルース・マン。「僕じゃなくてロバート・ジョンソンブラインド・ウィリー・マクテルが写っていても不思議じゃないよね」と嬉しそうに指摘する。

 音楽活動のペースは多少スロウダウンしたものの、5年前にナッシュヴィルに、みずから主宰するレーベルのオフィスやショップを擁する施設=サード・マンを設けて以来、アナログ盤にこだわったリリースや、ブルース系レーベルの作品の復刻に忙しい。そんな彼がアナログ盤の市民権復活における最大の貢献者であることは間違いなく、今年のレコード・ストア・デイにはアナログ・シングルの最速発売記録に挑戦。サード・マン内のライヴハウスで録音した本作の表題曲を4時間弱でシングルに仕上げ、ショップの前に長蛇の列を成したファンにみずから届けて話題を集めたばかりだ。最近ではサンパラマウントの作品復刻に携わっており、アメリカの古典音楽を自身の作品でアップデートしつつ、歴史保護にますます情熱を傾けている。

「若い頃は本当に貧乏で、晩メシ代にも車のガソリン代にも困ったものだけど、じゃあこうしてある程度自由になるお金を手にしたいま、それをどう使うのか。なかには高級車を買う人もいるだろうし、罪悪感からチャリティーに寄付する人もいる。僕の場合は、自分が身を置く音楽という世界の歴史にとって意味深いことに、時間とお金を投資したいんだ。例えばサード・マンみたいな場所も音楽の歴史を伝えるうえで役立つし、それが僕にできる最高のチャリティーだと思っているよ」。

【参考動画】ジャック・ホワイトの〈レコード・ストア・デイ〉ドキュメンタリー映像

 

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