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さまざまな波乱を経て

――90年代後半はバンドが安定していて、直枝さんを中心に、大田譲、矢部浩志(ドラムス)、棚谷祐一(キーボード)、鳥羽修(ギター)という5人のメンバーがそれぞれ個性を発揮していました。

「メンバーに自立心が芽生えていた時で、曲を書いた者がメインで指示してました。それで、そういうやり方を離れて、プロデューサーを入れてみようと思ったのが『Parakeet & Ghost』(99年)。プロデューサーにウエケン(上田ケンジ)を迎えて、スタジオにこもってとことん遊びました」

――そこに収録された“月の足跡が枯れた麦に沈み”は、ファン投票で〈裏名曲1位〉に選ばれました。

「(作曲を手掛けた)矢部君がキレッキレの時で、僕は彼のおもしろいサウンドに負けない強い歌詞を書こうと思ったんです。当時、よくリチャード・ブローティガンを読んでいて、翻訳文学の雰囲気を意識しています。意訳の際に起こる意味のズレとか日本語の文字のかたちの説得力とか。幼少期からロック音楽は訳詞を通して学んできたところもあるし」

――カーネーションはそういう文学的な歌詞も魅力的ですよね。5人編成で快進撃を続けたカーネーションですが、2002年に棚谷さんと鳥羽さんが脱退します。その直前にレコーディングされた“長い休日”は、直枝さんにとって重要な曲だとか。

「やっぱり、切ない時期なんですよ。いろんなことを考えましたね。そんななかで生まれたこの3分の曲は非常に濃密で、出来た時に手応えを感じたんです。リズムの取り方とか、いろいろ仕掛けがあって簡単にライヴではできないけど、バンドの節目になった曲です」

――そして、3人になって初めてリリースされた『LIVING/LOVING』(2003年)からは“やるせなく果てしなく”が収録されています。

「3人になった時、〈あの豊潤な5人時代の曲をどうやって表現するんだ?〉って悩んで、ギターの音色とか、いろいろ見直していく作業をしたんです。“やるせなく果てしなく”は歌メロが豊潤で、3人の演奏が最高のバランスでグルーヴを生み出している。〈トリオのカーネーション〉の究極の形を残せた曲だと思います。でも、そういう曲ばかりやっていられないのがカーネーション体質というか、新しいものを見つけにいきたくなる。そこで、あまり我慢せず音を入れたいだけ入れよう、ということで作ったのが『SUPER ZOO!』(2004年)なんです」

――このアルバムからは最多の4曲が収録されていますね。

「自信作なんですよね。やっててとにかく気持ち良い。この頃、矢部君はナイーヴな名曲をいっぱい作ってくれました」

――その矢部さんが2009年に脱退されて、『Velvet Velvet』(2009年)から2人編成になります。バンドとしてはギリギリですね。

「もう、大変でした。僕たちは矢部君のドラムで育てられたので。矢部君のドラムは歌に対して批評的というか、すごく歌いやすいんです。そういう人がいないので、これまでとは全然違うことをやっている気がしました」

――ベースの大田さんも大変ですよね。作品ごとにリズム隊の相棒が変わるわけですから。

「そうですよね。跳ね方の相性っていうのがありますから。ギリギリ跳ねるか跳ねないか、というところに歌心が潜んでいると僕らは思っているので」

――そんななかで“ジェイソン”という代表曲が生まれました。ライヴで盛り上がる定番曲ですね。

「5人編成のカーネーションの時に形にならなかった曲なんですけど、それを改良したんです。ジャム・バンドっぽいというか、インプロで楽しめる、ライヴ映えする曲にしようと思って。ライヴで演奏してると楽しくて弾きすぎちゃう時もあるんですけど(笑)」