角銅真実(かくどうまなみ)という名前を見かける機会が、最近増えていないだろうか? 長崎県出身。東京藝術大学音楽学部を卒業後はパーカッショニストとして活動する一方、自身のリーダー・バンドやシンガーとしての活動に、舞台や映画への楽曲提供などコンポーザーとしても活躍の場を広げている。2016年末からはceroにサポートとして参加し、ライヴでもレコーディングでも重要な役割を果たしており、ceroをきっかけとして彼女の名前を知る人も、最近は多いかもしれない。
その彼女が、昨年7月にリリースしたファースト・ソロ・アルバム『時間の上に夢が飛んでいる』に続くセカンド・アルバム『Ya Chaika』を先頃リリースした。アンビエントかつ実験的な要素も強かったファーストの世界観を踏まえつつ、本作では、フォーキーとも言える歌モノの比重も増えるなど、よりポップな側面も窺える。レコーディングには、ceroのサポート・ドラマーである光永渉やyoji & his ghost bandの寺田耀児、シンガー・ソングライターの滝沢朋恵などさまざまな才能が集う〈タコマンション・オーケストラ〉や、光永と岩見継吾との〈タコマンション・トリオ〉、気鋭ジャズ・ドラマー石若駿と吉田ヨウヘイgroupのギタリスト・西田修大との〈Songbook Trio〉のメンバーや、彼女のイマジネーションをのびのびと発揮したソロ録音にも表現(Hyogen)の佐藤公哉が尽力するなど、多彩な面々が参加した。
まだ誰も聴いたことのない音楽や見たことのない世界を求めて、自分自身を更新し続ける彼女。しかし、その感性が作り出す世界にはひたすら前に進む鋭さだけでなく、音楽に宿る生命を慈しむような眼差しが常にある。新作を携えてのインタヴューは、その中身を紐解くというより、彼女が持ち続けている音楽への想いや、環境の変化がもたらした社会との関係性についてなど、かなり根源的な内容となった。
なお、参考までに前作の発表時に僕が個人的に行った彼女へのインタヴューも、下記に特別にリンクさせていただいた。新作の素晴らしさと、彼女がここで語る言葉に惹かれた方は、ぜひそちらもご参照いただけたらと思う。
★松永良平による『時間の上に夢が飛んでいる』リリース時のインタヴュー(全4回)
私は過去と繋がっていくことはない。今、今、今なんです
――ファースト『時間の上に夢が飛んでいる』から約1年というペースは、早く感じました?
「いえ、早く次の作品を作りたかったんです。今も、この『Ya Chaika』の次をすぐに作りはじめたいくらい」
――『時間の上に夢が飛んでいる』は、ある意味、それ以前の何年かで録っていた曲をまとめた作品という性格もありました。が、今回はこの1年をぎゅっと入れ込んだ形になっていますよね。この1年はceroのアルバム制作やツアーがあったり、タコマンション・オーケストラやタコマンション・トリオの始動もありました。さらには舞台の音楽やコンテンポラリー・ダンスの音楽も行っていて。
そもそも、この『Ya Chiaka』の制作も、Motion Blue YOKOHAMAで行われたタコマンション・オーケストラと石若駿トリオのライヴ※がきっかけだったそうですね。
※2018年4月2日開催。角銅自身が率いる2つのバンドで出演した
「もともとはMotion Blueのライヴの物販で売る7インチを作りたいと思っていて、アルバムを作ろうとしてたわけではなかったんです」
――あのライヴはそもそも1月にやるはずだったのが、関東の大雪で順延になったんでしたよね。
「そのやり直しという意味もあったし、時間も空いたので、せっかくだから何か作ろうと思ったんです。思いついたものはすぐに出したいし。だけど結局7インチじゃなくて、気がついたらアルバムになっていたんです。……ちらし寿司みたい、というか(笑)」
――ちらし寿司? ええと、要するに握り寿司みたいにひとつひとつポンポン出したかったのが、ちらし寿司みたいにひとつにまとまった、みたいなことですか?
「はい。当初はパッパッパッと出していきたかったんですけど、そのやり方がわからなかったから、Motion BlueのライヴにいらしていたAPOLLO SOUNDSのディレクター、阿部(淳)さんに相談したんです。そのときは、アナログは予算がかかるから無理って言われて。でも他にも曲はいっぱいあったので、〈じゃあ、アルバムを作りましょう〉ということになり、CDの流通などの面倒を見ていただくことになったんです。
最初はどういうアルバムにするか全然考えてなくて、ミニ・アルバムでもいいという話もあったんですけど、途中から〈今あるものをもう全部詰め込んじゃって、そして次に行きたい!〉という気持ちになったんです」
――アルバムは当初に計画されていたリリース予定日からじりじりと延びていったそうですが、それは制作に煮詰まったとかじゃなく、やりたいことがどんどん増えていったからなんですね。
「そうです。締め切りも確かあったんですけど、〈今こうなっていてますが、ここから(曲が)増えるか減るかするし、曲名も変わると思います〉って阿部さんにはその都度、その時点で出来ている音源を渡しながら、作業を進めてました」
――なるほど。そういう過程を経てようやく出来上がったのが、『Ya Chaika』なんですね。アルバムには、あきらかに前作からの変化があります。1曲目“Dance”からそうですが、まず歌モノが増えている。歌モノが増えているということは、音楽が言葉を獲得しているという意味でもあるし。
例えば、前作の“夜が朝を照らしている”はインストだったけど、今回2曲目に入っている同タイトルの曲は言葉が乗せられた歌になっているんです。これは前作での反省点とかをふまえて次に向かった、というのとも違うアプローチなんでしょうか?
「全然違います。私は過去と繋がっていくことはないから。今、今、今なんです。同じタイトルだけど違うってのも、錯覚みたいでおもしろいなと思って。歌詞も、二言くらいを繰り返すだけの日本語の歌詞に対して、中尾美羽子さんに英語で倍以上のストーリーのある言葉を、英語の字幕みたいに重ねてもらいました」