ドイツ・ベルリンで活動するヴィブラフォン奏者、作曲家のMasayoshi Fujitaがサード・アルバム『Book Of Life』をリリースした。el fogとして作り出す実験的かつ精緻なエレクトロニカ作品でも高い評価を受けているが、この本名名義ではヴィブラフォンの可能性を探究することにフォーカス。この新作でも、弓を使ったり、マレットの柄の部分で弾いたりとさまざまな技法を駆使している。加えて、ニルス・フラームらの作品にも貢献するコーラス・グループ、シャーズが参加するなど、これまで以上に表現力の飛翔を感じさせるサウンドになった。すでに〈Pitchfork〉や〈FADER〉といった海外サイトでも賛辞の声と共に採り上げられている同作は、2018年の音楽シーンを語るうえで必聴の一枚と言えるだろう。
今回はFujitaと、以前から彼のファンだと公言してきたシンガー・ソングライター、岡田拓郎との往復書簡インタヴューを実施。一見、異ジャンル交流に思えるかもしれないが、森は生きている時から菅楽器や打楽器の導入を積極的に行い、音響/アンサンブルの面でもドローンやミニマルの影響下にある志向性を持っていた岡田は、資質の根本においてはFujitaと近しいのではないか。ヴィブラフォンの持つ可能性や、音楽制作へのインスピレーション源まで掘り下げたディープな対話となった。 *Mikiki編集部
アレンジが発展していく経緯
岡田拓郎「はじめまして。東京で音楽を作っている、岡田拓郎といいます。ぼくはfujitaさんの『Apologues』(2015年)がリリースされた時に、近所のレコード屋さんでおすすめされてその場でLPを買って帰って以来、愛聴させていただいております! その後、ほかの作品もすべて聴かせていただきました、ただのfujitaさんのファンなので、こういった機会を設けていただき大変恐縮です。 よろしくお願いします」
Masayoshi Fujita「はじめまして。前から聴いていただいているということでとても嬉しいです。僕も岡田さんの『ノスタルジア』(2017年)がリリースされたときのインタビュー記事 をたまたま読んだんですが、〈なんか面白いこと言ってる人がいるな〉と気になり何曲か聴いてみて良かったのでアルバムを買いました。以来本当に毎日のようによく聴いています。なので今回その岡田さんにお相手をしていただけるということでとても楽しみにしています。よろしくお願いします」
岡田「『Book Of Life』を、早速聴かせていただきました! ヴィブラフォンの凛とした響きを中心とした楽曲も素晴らしかったですが、なかでも個人的に特に耳を引かれた“It’s Magical”についての質問です。ストリングスやフルートによる曲線的でスピード感あるパッセージにとっても魅了されました。今年イレースト・テープスからリリースされたコンピ『1+1=X』には、同曲のヴァージョン違い(?)の“Spaceship Magical”が、収録されています。どちらのヴァージョンもヴィブラフォンを使ったアレンジですが、もともとヴィブラフォン中心のアンサンブルを想定した楽曲として書かれたのでしょうか? また2種類のアレンジが生まれた経緯を教えてください」
Fujita「僕が曲を作るときは大概、曲の元になるような短いフレーズをこねくり回して曲にしていくんですが、あの曲もそうやって少しずつ発展させていく段階で、ヴィブラフォンをオーケストラ的というかアンサンブルとして拡張していくようなイメージのアレンジをつけたいと思いながら作曲をしていました。ヴィブラフォンの延長としてのアレンジというか。
ヴィブラフォンは基本的には3オクターブしかないですし、同時に弾ける音数も4本マレットを使っても4つのみで、わりと制限が多い楽器なんです。なので、ヴィブラフォン1本だけでは表現しきれない範囲でほしい音が色々聴こえてくる場合は、他楽器でのアレンジを念頭に曲作りをすることが多いです。この曲に関しては、曲調や曲の勢いもあってわりとはじめの段階から今のようなアレンジのアイデアがありました。
ただこれは稀なことなんですが、途中で同時に全然違うアレンジのアイデアも浮かんできたんです。それは歪んだエレキ・ギターやベースが入ったもので面白いアイデアだと思っていたんですが、さすがにアルバムにフィットしないなと自然消滅しかけていました。ちょうどその頃イレースト・テープスのオーナーのロバート(・ラス)からコンピレーションの話があってそのヴァージョンをやってみようと思ったんです。
頭の中に鳴ってるイメージの音をどうやって実際の音に落とし込んでいくのか自分でもよくわからない部分もあったんですが、コンピレーションのアイデア自体が、レーベルのアーティストが集まって一緒に作業して曲を完成させていくというものだったので、それもちょうど良かったですね。デモの段階からロバートのアイデアを取り入れたり、スタジオで色々アーティストたちに試してもらったりして少しずつ形を変えながらも面白いものになったと思います。岡田さんが曲を作る時は、アレンジはどの時点で考えますか?」
岡田「僕の場合はミックスの段階で、リミックスをするようにアレンジを組んでいきます。デモの段階で、一度イメージ通りのアイデアを反映させたアレンジまで組み込んで1人で録音して、そのイメージを元に、各楽器のプレイヤーと相談しながら、本録音。ミックスの段階で、更にモアベターを目指して音の抜き差しや、別の楽器への置き替えなどを試していきます」