ほぼ半世紀にわたって活動する伝説的な、そして現役のプログレッシヴ・ロック・バンドのゴングがBillboard Liveに登場する。しかも、今回はなんとスティーヴ・ヒレッジをスペシャル・ゲストに向かえての来日。バンドの全盛期に在籍した重要ギタリスト、ひいてはイギリスとカンタベリーのロック史にその名を刻むスーパー・プレイヤーであるヒレッジとの共演は観逃せないだろう。

そんな記念すべきゴングとヒレッジの来日を前に、バンドの歩みを振り返ってみよう。まずはバンドを結成したリーダー、デヴィッド・アレンについて。7月に来日したソフト・マシーンの記事にも書いた通り、彼は同バンドの最初期のメンバーであった。

スティーヴ・ヒレッジとデヴィッド・アレンがカンタベリー・シーンについて語っている2009年のインタヴュー映像
 

オーストラリア出身のヒッピーで、イギリスにおいてフリー・ジャズ・バンドを率いていたアレンは、66年にロバート・ワイアット、マイク・ラトリッジらとソフト・マシーンを結成。ジャズとサイケデリック・ロックをポップに昇華したサウンドで注目を集めていた矢先、アレンはビザの期限切れのためにツアー先のフランスに留まらざるをえなくなってしまう。時は67年。まさにロック・ミュージックが成熟し、多様化していこうとする時代だ。

アレンは、そのままパリに定住。同地で出会ったミュージシャンたちとゴングの前身バンドを結成する。68年のフランス五月革命でパフォーマンスを行ったかどで政治犯として追われるなか、スペインでサックス奏者のディディエ・マレルブと出会う。アレンは彼とソルボンヌ大学の教授で後にアレンの妻となるジリ・スマイスをバンド・メンバーとして巻き込みつつ、70年、ゴングの記念すべきファースト・アルバム『Magick Brother』を吹き込む。

71年のパフォーマンス映像
 

その後も『Camembert Electrique』(71年)、ドキュメンタリー映画のサウンドトラック『Continental Circus』(72年)と作品を発表。しかし、彼らのユニークなサウンドが花開いたのは、73年の『Flying Teapot』からだ(ちなみに、ヒレッジが参加するのもここから)。その後の一連の作品は〈レイディオ・ノーム・インヴィジブル(見えない電波の妖精の物語)三部作〉と呼ばれ、アレンのヒッピー思想に基づく宇宙観、神秘思想を音楽的に展開している。

『Angel’s Egg』(73年)と『You』(74年)を含む三部作のなかでも名盤とされているのは『You』。フランク・ザッパの音楽にも近いユーモラスなメロディーと、フリー・ジャズ由来の陶酔的な演奏、サイケデリックでスペーシーなシンセサイザーの音色、そしてアレンの奇妙な世界観とが一体となったゴングの音楽のピークが『You』には刻まれている。収録曲の“Magick Mother Invocation”や“Master Builder”、“You Never Blow Your Trip Forever”などは現在もコンサートで演奏されているようで、今回の来日でも聴くことができそうだ。

74年作『You』収録曲“Master Builder”
 

音楽的には絶頂期にあったゴングからはしかし、リーダーのアレン、スマイス、マレルブという主要メンバーが脱退。76年、残されたドラマーのピエール・ムーランがバンドを率いることに。ゴングは、リターン・トゥ・フォーエヴァーやエレクトリック期のマイルス・デイヴィスを彷彿とさせるようなフュージョン・バンドに生まれ変わった。そんなピエール・ムーランズ・ゴングの活動は、88年には停滞。2000年代になって復活を遂げ、ムーランが逝去する2005年まで存続した。

一方のアレンはムーランの活動も横目に見つつ、ソロ活動や周辺ミュージシャンとの共演を重ねる。アレン脱退前の活動や他のメンバーの動向も含めて、その過程で〈ゴング・グローバル・ファミリー〉と呼ばれる多数の関連バンドが次々と誕生。パラゴング、プラネット・ゴング、マザー・ゴングなどなど……(なかには日本のアシッド・マザーズ・テンプルとの合体ユニットも)。そこで巻き込まれたミュージシャンたち――つまり〈ゴング・ファミリー〉の数は、50人近くにものぼる。もはや〈ゴング〉という共同体というか、一つの小宇宙のようである。2015年にアレンが他界するまで、その宇宙は拡大していった。

2017年のライヴ映像。演奏しているのは74年作『You』収録曲“Master Builder”
 

アレンとムーラン亡くなってしまったが、しかしゴングという一大プロジェクトは終わってしまったわけではない。2018年の現在も、現役の音楽集団として活動し続けているのだ。そんなバンドの現在のメンバーは、ファビオ・ゴルフェティ(ギター)、カヴース・トラビ(ギター)、デイヴ・スタート(ベース)、イアン・イースト(サックス/フルート)、チェブ・ネトル(ドラムス)の5人。今回の来日では、そこにスティーヴ・ヒレッジが加わる。

ファミリーのなかでも比較的若手~中堅のメンバーがアレンの遺志と思想と音楽を引き継ぎつつ、サイケデリック・ロックとジャズ、さらにはポスト・パンクを織り交ぜたかのような新鮮なサウンドを奏で続けている。ゴング宇宙の膨張と拡大は、まだまだ途上なのだ。それを感じるためにも、ぜひヒレッジを加えたゴングのライヴを観たいところ。

 


LIVE INFORMATION
ゴング
special guest スティーヴ・ヒレッジ

2018年10月30日(火)Billboard Live OSAKA
1stステージ 開場 17:30/開演 18:30
2ndステージ 開場 20:30/開演 21:30
サービスエリア 8,900円/カジュアルエリア 7,900円
★詳細はこちら

2018年10月31日(水)Billboard Live TOKYO
1stステージ 開場 17:30/開演 19:00
2ndステージ 開場 20:45/開演 21:30
サービスエリア 8,500円/カジュアルエリア 7,500円
★詳細はこちら

■メンバー
スティーヴ・ヒレッジ(ギター)
ファビオ・ゴルフェティ(ギター)
カヴース・トラビ(ギター)
デイヴ・スタート(ベース)
イアン・イースト(サックス/フルート)
チェブ・ネトル(ドラムス)