ヨーロッパ・フリーのパイオニア、シュリッペンバッハがトリオで遂に来日!
1960、70年代の巨大な幻影が息づくヨーロッパのフリージャズは今も衝撃を持って受けとめられるか、それとも絶滅危惧種となってしまうのか。アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハ・トリオの11月の来日公演はその疑問への解答になるはずだ。70年代、世界がフュージョン・ミュージックに浮かれた時代から現在までも脈々としてフリージャズが続いてきたドイツ、ヨーロッパを代表する80歳の巨人である。同じ頃ニュー・ジャーマン・シネマが起きて、ジャーマン・ロックではファウスト、カン、ノイ!、ポポル・ブフなどの全盛期があった。日本でもそういった70年代ドイツ文化のムーヴメントは世代を新たにして語られてきた。20代の新卒社員から〈ファスビンダーと70年代の文化〉で卒論を書いた話をきいて驚いたが、残念ながらそこにフリージャズへの文脈はなかった。現在の若者達からはフリージャズ一派とは高すぎる知性、象徴性を振りまわす頑固者の集団のように見えるらしい。まるで超高学歴のゼンガクレン世代の小難しい説教のようで恐怖の対象にすらなりかねない。映画やロックとはぜんぜん違うのだ。でも、恐れずに(知らないのだから恐れようもないけれど)もう一歩踏み出してみると、すぐ霧の彼方にシュリッペンバッハという強靭で完全無欠な〈デコン建築〉みたいな峰が見えてくる。その美しい独立峰は登頂をこころみる若者を決して拒んだり、威圧したり、上から岩を落っことしてきたりはしない。よく見ると静かに微笑んでいてユーモアさえ感じられるはずだ。
以前、ジム・オルークから彼が中学生の時にシカゴよりロンドンに〈神様〉デレク・ベイリーを訪ねた話をきいて、そのあまりにおませな早熟ぶりに爆笑したことがある。ベイリーの音楽は彼がシカゴの図書館で聴いた世界中のどんな音楽とも異なっていた。だからこそ子供心にも神に会ってみたいと思いついたのだろう。彼はその後にファスビンダーやヘルツォークにも開眼して現在もなおその熱は続いている。同じくシュリッペンバッハを聴くことは他のどの音楽カテゴリーでの体験と比べても独自のものだ。いま、シュトックハウゼンやポポル・ブフに共通して感じてしまう自分自身の〈70年代への懐かしさ〉と違和感など少しもなく、あらためて心地よい新鮮なショックを受ける。
今回の〈冬の旅:日本編〉はエヴァン・パーカー(サックス)、ポール・リットン(ドラムス)とのトリオ+夫人の高瀬アキ(ピアノ)によるもの。11月23日 東京 高円寺から始まる〈冬の旅〉“Winterreise”が〈最後の希望〉”Letzte Hoffnung”にならないよう、峰を目の当たりにできるラスト・ツアーになってしまわないことを祈る。
LIVE INFORMATION
シュリッペンバッハ・トリオ+高瀬アキ
○11/23(金・祝) 14:30開場/15:00開演 会場:東京 座・高円寺2
「冬の旅:日本編」 シュリッペンバッハ・トリオ
○11/24(土) 19:00開場/19:30開演 会場:横浜 横濱エアジン
○11/25(日) 15:30開場/16:00開演 会場:静岡 青嶋ホール
○11/26(月) 19:30開場/20:00開演 会場:東京 新宿ピットイン ゲスト:高瀬アキ
シュリッペンバッハ講演+ミニ・コンサート
○11/27(火) 会場:東京 慶應大学北館ホール