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 ピアソラのもとを離れて、その才能が開花。近年はキケ・シネシ(ギター)、ワルテル・カストロ(バンドネオン)らと活動を共にすることが多い。3人による『バホ・セロ』は2005年のラテン・グラミーのベスト・タンゴ・アルバム賞を、2012年の『ロホ・タンゴ』はドイツのエコー賞を受賞している。

QUIQUE SINESI,PABLO ZIEGLER Bajo Cero Enja/MUZAK(2005)

「キケはブエノスアイレスではわたしのグループにいたが、夫婦でドイツのケルンに移住してしまった。その後電話があって、デュオでドイツをツアーしないかと誘われた。で、二人でやろうと思ったら、マネジメントからバンドネオンはどこ?って言われたんだ(笑)。それでワルテル・カルロスを呼んだら、大受けで、以来ヨーロッパではずっと一緒にやっている。アメリカでは9.11以降、入管が厳しくなったので、アメリカにいる別のアルゼンチンのミュージシャンとやっている」

 日本では鬼怒無月(ギター)、北村聡(バンドネオン)、西嶋徹(ベース)ら多数のミュージシャンと共演。古いタンゴもたくさん演奏している。

「古いタンゴには美しい曲がたくさんあって、ジャズ・スタンダードのようなものだ。たとえばフアン・カルロス・コビアンは、わたしと同じ音楽院の先輩で、クラシックの素養のある素晴らしいピアノ弾きだった。彼の曲を室内楽に編曲してみたら、ショパンみたいだと思ったよ。わたしは伝統的なタンゴの曲を即興で新しくしたいんだ」

 オラシオ・サルガンオスバルド・プグリエーセカルロス・ガルデル…タンゴの先人の話になると話が止まらない。タンゴを革新する彼の試みはタンゴの伝統への愛に支えられているのだ。

「日本のミュージシャンはアルゼンチン・タンゴのことをよくわかっていて、とにかくきっちり演奏してくれる。リハーサルも時間通りはじまる。ラテン・アメリカじゃ、こうはいかない(笑)。聡がピアニストの中島ノブユキと日本橋の小さなクラブでやったライヴを聴きにいったら、ピアニストが作った『八重の桜』の音楽を演奏していた。とてもロマンチックな曲で、お客さんに受けていた。それを聴いて、なぜ日本のお客さんがタンゴのロマンチックでノスタルジックな感覚を好むのかがわかったような気がしたね」