マッスル・ショールズ。それはアラバマ州の田舎町の地名だが、我々音楽ファンには長らく魔法の呪文のような言葉であり続けてきた。60年代にパーシー・スレッジの『男が女を愛する時』、アレサ・フランクリンの『貴方だけを愛して』、ウィルソン・ピケットの『ムスタング・サリー』など、南部ソウルの名作の数々を産み出し、70年代に入ると、ローリング・ストーンズ、ボブ・ディラン、ロッド・ステュワート、ボブ・シーガー、ボズ・スキャッグスら、ロックのスーパースターがこぞって訪れたレコーディング・スタジオのあるアメリカ音楽の聖地だからである。そして、そのアレサ曰く「ファンキーでグリージー(脂っこい)」な独特のサウンドを作り出してきたプロデューサーとスタジオ・ミュージシャンの大半はなんと地元出身の白人だった。ポール・サイモンも「(ステイプル・シンガーズの大ヒット)《アイル・テイク・ユー・ゼア》で演奏している黒人たちと録音したい」と問い合わせ、その意外な答えに驚いたのだ。
『黄金のメロディ マッスル・ショールズ』はそのマッスル・ショールズ・サウンドを作り出したフェイム・スタジオのオーナーでプロデューサーのリック・ホールと、スワンパーズと呼ばれたドラマーのロジャー・ホーキンズを中心とするマッスル・ショールズ・リズム・セクションの面々の歴史を、本人たちに加え、アレサ、ピケット、スレッジ、クラレンス・カーター、ストーンズのミック・ジャガー&キース・リチャーズ、グレッグ・オールマン(亡き兄デュエインはフェイムでギタリストとして働いていた)、スティーヴ・ウィンウッド、ジミー・クリフ他の豪華な顔ぶれのインタヴューで振り返るドキュメンタリーだ。
グレッグ・フレディ・キャマリア監督の初の長編である本作の面白さは、何よりもリック・ホールという強烈な個性の人生の物語であることだ。極貧の家庭に生まれ、最初の妻と父を立て続けに亡くすなど、多くの苦難に遭いながらも、スタジオを設立し、プロデューサーとして大成功したわけだが、納得するまで細部まで徹底的にこだわる完璧主義は「ヒットが途切れたら最後、仕事の依頼がもう来なくなる」という危機感ゆえだったという。そして、彼を支えたスワンパーズの面々が、その泥臭いファンキーなサウンドについて「俺たちはそれを滑らかにする方法を知らなかっただけ」と語る素朴な田舎者だったことも興味深い。そして、そんな彼らも自信を得て、69年にフェイムから独立。新たにマッスル・ショールズ・サウンド・スタジオを設立し、リックの手強い商売敵となる。そんなドラマの回想こそが見どころであり、映画は彼らがその怨恨を水に流して久々に再会し、アリシア・キーズを迎えて行った特別なセッションで締め括られる。
映画「黄金のメロディ マッスル・ショールズ」
監督:グレッグ・フレディ・キャマリア
製作:ステファン・バッガー/グレッグ・フレディ・キャマリア
撮影:アンソニー・ブレント
音楽:ドリュー・バイエル/ジル・メイヤーズ/レイ・スミス
出演:リック・ホール/アレサ・フランクリン/ミック・ジャガー/キース・リチャーズ/ボノ/スティーブ・ウインウッド/デュアン・オールマン/ジミー・クリフ/パーシー・スレッジ/ウイルソン・ピケット/アリシア・キーズ/他
提供:メディアメダリオン
配給:アンプラグド(2013年 アメリカ)
◎7/12(土)新宿シネマカリテほか全国順次公開予定!
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