華麗なるレースを繰り広げた戦慄の王女たちを待ち受けるのは、愛という名の欲望か、もしくは地獄へ道づれ? BiS始まって以来のクライシス間近……準備はいいか?

 47都道府県を回った全59公演のツアー〈I Don't Know What Will Happen TOUR〉を、昨年12月29日のZepp Tokyoで締め括ったBiS。そもそもの6人が5人になるという波乱で幕を開けた過去最長のツアーは、10人を二分する〈BiS.LEAGUE〉を展開しながら続いてきましたが、ファイナルのライヴ後にプロデューサーの渡辺淳之介が告げたのは、2チーム制の廃止と一部メンバーへの〈戦力外通告〉でした。元日にネル・ネールの脱退が発表された2019年、9人体制で動きはじめた彼女たちではありますが、この記事が出る頃には恒例の〈WACK合同オーディション〉の最終審査合宿の真っ最中。そこには戦力外を告げられたアヤ・エイトプリンス、YUiNA EMPiRE、ムロパナコ、トリアエズ・ハナも参戦しており、最終日の3月30日には何か動きがあると考えるのが自然でしょう。やっとひとつになったようでいて、不穏なI Don't Know What Will Happen状態はまだ終わっていないというわけです。微妙に間の悪いこのインタヴューは、9人のBiSにとって最後の記録となるのでしょうか……?

 

10人のラプソディ

――まずは昨年末の話ですが、Zeppでのツアー・ファイナルはどうでしたか?

キカ・フロント・フロンタール「BiS2ndは必死だったからか、みんな記憶がなくて」

ムロパナコ「終わった瞬間、どんなライヴだったかわかんなくなってしまって、一人一人に〈今日どうだった?〉って訊いたら、みんな〈いや、覚えてない〉って(笑)」

YUiNA EMPiRE「この2ndでは最後のライヴだと思いながら、いままでの全部を出しきろうって、凄い必死でした」

ムロ「出しきった感はあります」

パン・ルナリーフィ「やっぱりツアー・ファイナルだし、これからの規模を見せないといけない気持ちもあったんで。良いライヴだったか自分ではわからないんですけど、1年間やってきたものを絶対に残さなきゃいけないと思ってました」

ゴ・ジーラ「ライヴ制作の方からは〈1stの4人の形が残せたね〉って言っていただけて少しホッとした部分はあったんですけど、まあ、もうビックリの発表もあり(笑)」

――その、戦力外通告が伝えられた時はどんな心持ちでいましたか?

アヤ・エイトプリンス「意味はわかんなかったんですけど、たぶんヤバイことだなとは思いました。文字的に怖いというか……〈督促状〉みたいな。そういうの、たまに来るから」

キカ「そんなこと言うんじゃないよ(笑)」

トリアエズ・ハナ「どういうことなのか渡辺さんに訊きに行ったし、後から全体にもお話がありました。そこで戦力外の理由を明確に言われたわけではないんですけど」

YUiNA「でも、〈BiSのために何をしてきたか〉みたいな話もあって。そこは残せなかったなと思って」

――この状況は納得して受け止めている?

ペリ・ウブ「納得するとかじゃないですけどね。誰が、とかじゃなくて、みんなで乗り越える試練だと思ってます」

ゴジ「〈戦力外〉って言葉のインパクトは強いですけど、それを通してBiSのために何ができるのか改めて考えて、9人でがんばっていくためのものだと思ってて、だからこれは新たなチャンスだと思います」

ムロ「戦力外はチャンス」

ゴジ「がんばるための、まとまるためのワードだと思っているので」

――一方、元日にネル・ネールさんの脱退発表があり、気持ちの面はもちろん、物理的な切り替えも大変だったと思いますが。

キカ「そうですね。1月3日が新年最初のライヴだったので、29日にワンマンが終わってすぐ10人のフォーメーションも作りはじめてたんですよ。でも、急遽9人になったから作り直して、それを3日までに仕上げるっていう年末年始でした」

――でも、特殊な状況だったのが逆に集中できて良かったのかもしれませんね。

ペリ「うん、その時は時間がなくて追い込まれてたし、みんな寝てないし、必死でひとつのものを作り上げるのって大変だったけど、いまとなってはホントにあの時間があって良かったなって」

ミュークラブ「ペリの言う通りで、そのおかげでって言ったら変なんですけど、いままで2つに分かれてたグループがずっと一緒にいたんですよ、もう朝から晩まで。私もあまり喋ったことのなかった1stのメンバーと喋るようになったし、ずっと一緒の空間にいたおかげでグループ全体がまとまったかなって思います」

BiS Are you ready? Revolver(2019)

――はい、そんな9人で初めてのシングル“Are you ready?”が完成しました。これはフレディ・マーキュリーの命日にちなんだ11分24秒の曲で、曲調もクイーンのオマージュなわけですが、皆さんは映画の「ボヘミアン・ラプソディ」はご覧になりましたか?

YUiNA「レコーディングまでにメンバーみんな観ました」

パン「〈次はこういう曲だよ〉って聞いて、一緒に観に行ったよね」

ペリ「心を打たれた。曲はいっぱい知ってたけど、クイーンだって知らなかった曲もあったし。音楽が生き続けるってめっちゃ凄いなって」

ムロ「私は前からクイーンの曲にハマってて、それを渡辺さんに言ってたんですよ、ずっと。そしたら、〈映画やってるから観に行けよ〉って言われて、その日に観に行って。そしたらこういう曲になりました。別に私が映画を観たから曲になったわけじゃないですけど(笑)」

キカ「でも、渡辺さんも『ボヘミアン・ラプソディ』を観に行ってて」

パン「そう、渡辺さんが観た日に松隈(ケンタ:サウンド・プロデューサー)さんに電話したら、たまたま松隈さんも同じ日に観てたらしくて、そこで〈こういう曲やろうぜ〉って盛り上がって、一週間で作ったらしいです」

ハナ「仮歌の時点では〈10人のラプソディ〉っていうタイトルで」

――ってことは、曲自体はZeppの前から準備されてたわけですね。

パン「たぶん。だからこれは10人のBiSっていう形に対する想いを込めて作られた曲だと思ってます。ネルは辞めてしまったけど、別に曲の概念は変わんなくって、この全員でいまのBiSの形を残していくための曲だなって。ずっと1stと2ndでバラバラだったし、合宿の日程とリリースが近いから、よりそう思えます。“BiSBiS”を10人で再録する予定だったのも、そういうことだなって思っているんですけど」

ペリ「たぶん、いまの私たちを曲にしたら4分に収まらないんじゃないかな。コロコロ変わるパートがメンバーそれぞれのキャラクターに凄く合ってるし、BiSがひとつになるタイミングでこういう曲をいただけたのかなって思います」

 

それぞれのベスポジ

――確かに各々の見せ場がちゃんと出せるだけの尺ですし。それぞれお気に入りのパート、聴きどころを教えてください。

YUiNA「最初の〈パパ~〉のところからインパクトがあって好きです。全部おもしろいんですけど、初めて聴いた時からもう驚きましたもん、こんな歌ある?って」

――そのまんまですからね(笑)。

YUiNA「はい。今回も振付けはペリが考えてくれて、全部お気に入りなんですけど、その最初のパートではみんなで集結するので、そこを観てほしいです」

ムロ「そこだけ私が考えた」

YUiNA「そうだね、そこはムロが考えたんですよ」

ムロ「そう、このジャケのポーズだけ(笑)」

――『Queen II』のジャケの。この冒頭で〈あたしたち悪い子なんですか?〉って歌ってるのは、BiSのことなんですか?

ペリ「う~ん、たぶん」

ゴジ「解釈はそれぞれだと思うんですけど、歌ってる私たちからしたら私たちのことになるんじゃないかなって」

――BiSは悪い子なんですか?

ハナ「良い子ですよ」

ゴジ「う~ん、良い子すぎて悪い子なのかもしれないけど」

アヤ「確かに、それはあるかも」

――それはリアルなやつじゃないですか(笑)。

ゴジ「いや、ウソです(笑)。あれですね、ゴ・ジーラの好きなパートは、その冒頭と最後にも出てくる〈殺したい〉って言葉で、〈わあ、素敵な歌詞だな〉って思いました。もともと自分の歌割じゃなかったんですけど、〈1回やってみて〉って言われて歌ったら選ばれて、ラッキーって」

ハナ「〈殺したい〉が好きってヤバいでしょ(笑)」

アヤ「まあ、日頃から言ってるしね」

――今回は全員が全パートを歌ってみたわけではないんですね

YUiNA「はい。いつもは全部歌うんですけどね」

キカ「11分もあるので(笑)。今回はセクションごとに松隈さんの考えた歌割が事前にあって。で、プラスアルファで追加のパートを当日録ったりして、合いそうな部分を選んでくださった感じです」

パン「結果それぞれのベスト・ポジションみたいな感じですよ」

ムロ「ベスポジよね」

――はい。そこからゴリゴリのラウドなパートが続きます。

キカ「はい。私は声にディストーションがかかる部分をいっぱい録って、それを見事に全部使ってもらえたんで、声にエフェクトがかかってる感じを聴いてほしいなと思います。こんなにディストーション・ヴォイスでガッツリ歌ってライヴでどうなるのかなっていうのはあるんですけど。バリバリにイキッて歌ってるんで」

ハナ「そこ録ってる時スタジオにいたんですけど、みんなで〈キカしかねえな〉って」

キカ「自分でもハマってると思います(笑)」

――その激しい部分から唐突にキラキラした曲調になって、そこはミュークラブさんとYUiNAさんがメインですね。

ペリ「その可愛いパートで、私が〈ね〉の一文字だけ歌ってるんですよ。今回は歌割が多くないんですけど、そこが凄い見せ場になってて、気に入ってます」

ミュー「そこのペリ、めっちゃ好き」

――これ、音源だけでなくライヴで確認しないと全部は伝わらなさそうですね。

ムロ「ホントにそう、マジで、マジで。私はその3人の可愛いパートから、一気に世界が変わって〈ボエ~〉ってゲボ吐くところが好きです。私の好きなマキシマムザホルモンの“小さな君の手”っていう曲がありまして、凄く優しい曲調からいきなりゲロ吐いて世界観が一気に変わって、ガンガンにヘドバンして、っていう」

――“maximum the hormone”と繋がってるネタ曲ですよね。

ムロ「はい。私はあれが凄い好きだったので、〈あれじゃん!〉と思ってしまって、別にゲロを吐けって言われてないんですけど、ここは絶対ゲロですと思ってレコーディングしました」

――(笑)パンさんはいかがでしょう。

パン「私はその後のパートで作曲しました。歌詞でいうと〈鳴り止まない頭の声だけ〉っていうラップみたいなとこなんですけど」

――“We Will Rock You”風になる部分を。

パン「はい。もともとはリズムもメロディーもそのまんまだったんですけど、流石にそれはダメだってことで、レコーディングの時にブースに入ってから〈いまから録るけど、そこのメロディー勝手に考えて歌って〉って言われて、なるがままに歌ったら一発採用されました」

――アドリブなんですね。

キカ「めっちゃカッコ良かったよ」

パン「松隈さんに500円もらいましたよ(笑)。作曲料」

――クレジットより500円を取ってしまったんですね……。ミュークラブさんはいかがですか。

ミュー「ミュークラブはですね、みんなで歌う大サビが好きです。〈響かぬ声を届かぬ人に僕ら歌ってるんだよ〉って歌詞もメロディーもめっちゃ好きで、最初にメロを聴いた時から〈ヤバイ、これ歌いたい〉みたいになったんですよ。しかも〈僕ら〉って言ってて全員で歌ってるのが好きです」

――確かに、全員が揃って良いエンディングを迎えるような感じですよね。

ミュー「めっちゃ良いですよね。しかも、ここのペリ師匠の振りも良いんですよ。みんなで一列になって、みたいな感じで」

ムロ「ミューが言った〈届かぬ人に〉ってところが凄く好きで、それぞれ思う人はいるんですけど、私は最初“10人のラプソディ”っていうふうに仮歌がきてて、この歌詞で真っ先にネルを思い浮かべてしまって」

――そうなりますよね、やっぱり。

ムロ「だから、凄く、思いを込めて。そこをみんなで歌うのが好きです」

アヤ「私もいちばん好きな部分かな。みんなの個性がワ~ッて続いた後に、最後にユニゾンになって、泣きそうになっちゃう」

――ここの部分に辿り着くために10分くらいかけた感があるというか。

ペリ「うん、そこがこの曲でいちばん言いたいことって感じ。私はその大サビの後の〈死にた~い〉のパートが好きで、一人一人が人間の本当の部分を歌ってると思って、どう見えてるかとか考えずに自分自身の感情をさらけ出してるのが、凄い良いなって思ってます。〈死にたい〉って言ってるけど、〈食べたい〉〈燃えたい〉とかやりたいこといっぱい言ってるじゃないですか? だから、生きたいんだなって。それでこの先に続くんだろうなって」

――なるほど。そこから曲のシメはハナさんですね。

ハナ「いちばん最後の〈オウオオウオ~〉ってところで、初めてフェイクを入れてます。ふだんはレコーディングの時にヴィブラートを掛けないよう意識してる部分が強いんですけど、この曲は場面によって演歌みたいに歌うところとかもあって、いろいろやれた感じがします。中学生の頃にアニソンにハマってて、カラオケで宮野真守さんを真似てめっちゃヴィブラートを練習してる時期とかあって(笑)。それをBiSで活かすことができてちょっと嬉しかったです」

アヤ「今回はホントに『ボヘミアン・ラプソディ』の映画みたいな感じで、ハモリとか掛け声をみんなでレコーディングして。私は一人で歌い上げるのももちろん好きなんですけど、この曲を通して、みんなで歌うのが好きなんだなってわかりました。全部の部分にコーラスとか掛け声が入ってて、いろんなアレンジとか工夫があるので、そういう細かいところまで聴いてほしいなって思います」