COLUMN

隠れレジェンド、JJケイルはなぜエリック・クラプトンの理想だったのか?

Light Mellow金澤寿和が未発表作品集『Stay Around』から紐解く

Photo by Stephane Sednaoui
 

エリック・クラプトン、ニール・ヤング、ジョン・メイヤー……2013年にこの世を去ったJJケイルをリスペクトする音楽家たちはいまも数多い。ギタリストとしてのみならず、ソングライターとしての評価の高さは、無数に存在するケイルの楽曲のカヴァーを聴けば瞭然だ。90年代以降に活躍したベックやスピリチュアライズドといったアーティストも、彼の音楽への愛をカヴァーという形で表明した。

そんなケイルの貴重な未発表作品集『Stay Around』がリリースされる運びとなった。しかし、彼はなぜこれほどまでに音楽家たちから愛され、敬われるのか? 新作にして遺作の発表を機に、特に親交が深かったクラプトンとの関係性からその理由を〈Light Mellow〉で知られる金澤寿和が紐解く。 *Mikiki編集部

J.J. CALE Stay Around Because/HOSTESS(2019)

 

知る人ぞ知る隠れレジェンド、JJケイル

1970年夏、オクラホマ州タルサ。街中でオンボロ車を走らせていたJJケイルは、自分の曲がカー・ラジオから流れてくるのを耳にした。でも歌っているのは自分ではない。それはエリック・クラプトンがカヴァーした“After Midnight”。そしてこのクラプトンとの縁により、彼は知る人ぞ知る隠れレジェンドとなっていった。

エリック・クラプトンの70年作『Eric Clapton』収録曲“After Midnight”。本文にあるとおりJJケイルのカヴァーだが、88年にも再録するなど、クラプトンの代表曲としても知られている

ケイルが旧知のレオン・ラッセルに誘われ、音楽で稼ごうとLAへ移ったのが60年代半ば。レオンもまたオクラホマ出身で、最近再評価が著しいブレッドのデヴィッド・ゲイツ、ビートルズ周辺に重用されたジェシ・エド・デイヴィスらと、この辺りのローカル・シーンで若き日の音楽熱を共に燻らせた仲である。LAに移ったケイルは、そこでレオンやデラニー・ブラムレット(デラニー&ボニー)と一緒に活動し、マイナー・レーベルからレコード・デビューを果たした。が、紆余曲折あって結局タルサへ逆戻り。成功や名声より、場末のクラブで地道に歌って日々を過ごす道を選んでいる。それでもクラプトンの“After Midnight”は全米トップ20入り。おのずとケイルにも注目が集まり、レオンがスタッフに名を連ねるシェルター・レーベルから71年に本格デビューした。ファースト・アルバム『Naturally』(72年)には、クラプトン以外にもセルジオ・メンデスやチェット・アトキンスが歌った“After Midnight”再演版のほか、レーナード・スキナードで有名になった“Call Me The Breeze”、ホセ・フェリシアーノやポコが歌った“Magnolia”などを収録。ケイル自身の初ヒットになった“Crazy Mama”はジョニー・リヴァースが取り上げ、再編ザ・バンドがライヴ・レパートリーにチョイスしている。

72年作『Naturally』収録曲“Crazy Mama”

 

クラプトンいわく〈影響を受けたアーティストを一人挙げるならJJケイルだ〉

こうして徐々に知名度を上げたケイルの楽曲を、クラプトンが再び取り上げた。いまやライヴ定番となっている“Cocaine”がそれである。その収録作『Slowhand』(77年)からシングル・ヒットした“Lay Down Sally”は、明らかにケイルの作風の引用であった。実はこのアルバム制作前、クラプトンはケイルの英国公演に飛び入りし初共演。それを機にケイルへの憧憬が再び熱を帯びたのだろう。後続作『Backless』(78年)でもケイル楽曲を取り上げたほか、まるで敬意を表すように“Tulsa Time”という楽曲を収めている。

エリック・クラプトンの2015年のライヴ映像。演奏しているのはケイルの楽曲“Cocaine”。同年作『Slowhand At 70: Live At The Royal Albert Hall』に収録

コトが更に大きく動いたのは、2004年のことだ。クラプトン主催のベネフィット・イヴェント〈クロスロード・ギター・フェスティヴァル〉にケイルが出演。そのステージにクラプトンが登場し、久々に共演が実現した。そして2006年には初コラボレート作品『The Road To Escondido』を発表。これはグラミー賞にも輝いている。翌2007年3月、クラプトンはカリフォルニア州サンディエゴ公演にケイルを招き、“After Midnight”や“Cocaine”など5曲を一緒にプレイした。続いてケイルが2009年に出した通算14枚目のソロ作『Roll On』では、クラプトンがタイトル曲に参加。対してクラプトンの2010年作『Clapton』では、3曲で2人のコラボが楽しめる。がコチラは当初、『The Road To Escondido』の続編になるはずだったとか。ところがケイルが制作途中で体調を崩し、一部参加に止まった。結果的にケイルは2013年7月に心臓発作で亡くなり、クラプトンはすぐに追悼作『The Breeze: An Appreciation Of JJ Cale』(2014年)を発表。そこにはトム・ペティやマーク・ノップラー、ジョン・メイヤーなど、ケイルに影響を受けた大物アーティストやゆかりのミュージシャンが多数参加している。また2016年には、前述したクラプトンの2007年サンディエゴ公演がライヴCD及び映像作品でリリース。ケイルとの伝説的ステージが気軽に楽しめるようになった。

エリック・クラプトンとJJケイルの2007年のライヴ映像。演奏しているのはケイルの楽曲“Anyway The Wind Blows”。2016年リリースの『Live In San Diego』に収録

こうした流れは、一見クラプトンが隠遁生活を送るケイルを引っ張り出したかのように見える。でも実際はクラプトンのような大物が彼を引っ張り出しても、自身のメリットはほとんどないワケで……。それはすなわちケイルに憧れ続けたクラプトンの謝意であり、如何にケイルに感化されてきたかをファンにアピールする構図であった。『The Road To Escondido』もクラプトン楽曲の収録はわずか2曲。名義もアートワークもケイルが目立つよう配慮されている。

〈影響を受けたアーティストを一人挙げるならJJケイルだ〉と公言し、リスペクトを示し続けたクラプトン。そのバックアップでケイルももっと脚光を浴びることができたはずだが、彼は檜舞台を好まず、ひたすら地味に活動を続けてきた。しかもクラプトン以外でも、キャプテン・ビーフハートやジョージィ・フェイム、ボビー・ブランド、サンタナ、ブラッド・スウェット&ティアーズ、カンサス、ブライアン・フェリー、ナザレス……と、彼の楽曲をカヴァーする大物は多く、ニール・ヤングやマリア・マルダーみたいに早くから共演するケースも。まさに彼はミュージシャンズ・ミュージシャンと呼ぶに相応しい存在だった。キャリア40余年でのソロ作が14枚とは寡作以外の何物でもないが、『Naturally』からずーっと些かのブレもなく、一貫して自分の作風を守ってきたのは驚異的。スポットライトに背を向け、商業主義に染まらずにいたことが、それを助長したのは疑いない。

 

クラプトン好きのロック・ファンは未発表作品集『Stay Around』に浸るべし

そうした作風は、遺作となるこの10年ぶりの『Stay Around』に於いても何ら変わっていない。収められたのは、ケイルが生前に制作していた16の未発表音源。それを奥様でミュージシャン、しばしば共演も重ねてきたクリスティン・レイクランドと、ケイルの友人でありマネージャーを務めるマイク・カッパスが厳選している。収録曲はいずれもケイル作品。唯一の例外がクリスティン作“My Baby Blues”で、77年に初めて2人主導のバンド形式で録音したものらしい。彼女はそれを機にサイド・ギター、キーボード、バック・シンガーとしてケイルを支え、79年作『5』からの全アルバムに登場してきた。

今作の参加メンバーには、ジム・ケルトナーやスプーナー・オールダム、レジー・ヤングにティム・ドラモンドといった昔からの常連たちに加え、最近のワーキング・バンドの面々が名を連ねる。一方で、ケイルは生前から〈オレは自分一人で制作する方が楽しいし、ユニークなモノが作れる〉と発言しており、実際に弾き語りベースの宅録で録られた楽曲も多いようだ。2000年代に作られた『To Tulsa And Back』や『Roll On』では、ケイルがほとんどすべての楽器をプレイし、楽曲によってクリスティンやバンド・メンバーが加わる布陣だったから、今作も同様なのだろう。音の状態から察するに録音時期も楽曲によってまちまちと思われ、クリスティンやマネージャー氏の苦労が偲ばれる。

『Stay Around』表題曲

聴けば、ブルースやフォーク、カントリー、R&B、ロカビリーといった多くの要素が綯い交ぜになった、渋味たっぷりのスワンプ・サウンドと歌声はリアルで生々しく、遺作という悲壮感はまるでない。以前から時折チラつかせるオールド・タイミーなジャズ・フレイヴァーも、シッカリ盛り込まれているし、ケイル・ファンには忘れがたい名曲“Cajun Moon”を髣髴させるルイジアナ/ニューオーリンズ風味もそこはかとなく……。例えば、オールマン・ブラザーズ・バンドに潜むジャズの香りを感じ取る感性があれば、きっとこの作品も、かなり深いところまで堪能できるはずである。ケイルの乾いたトーンのギターも、音数が少なく素朴でありながら、不思議な説得力に満ち溢れている。もちろん枯れた歌声の味わい深さは言うに及ばず……。〈ギターの神様〉と謳われたクラプトンがケイルにご執心だったのは、そこに彼の理想、目指す姿があったからに違いない。この遺作を機に、ケイル流のスワンプ・サウンドにズブズブと身を浸していくのが、クラプトン好きのロック・ファンのマナーである。

 『Stay Around』収録曲“Chasing You”

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