21枚目のオリジナル・アルバム、そしてデビュー30周年記念作品にして、この圧倒的な瑞々しさ! それはまさに、数多の名作家を輩出した伝説の総合誌の名であるタイトルの如し。面妖なギターが轟く和嶋作の“鏡地獄”や、邪悪かつ重量感たっぷりに迫る鈴木製の“瀆神”、異界へ誘うはないちもんめ的な掛け合いを繰り広げるナカジマ作の“地獄小僧”など、揺るがず在り続ける人間椅子らしい奇々怪々な世界観に平伏するのみ。

 


70年代ブリティッシュ・ロックやヘヴィ・メタルの音をベースに、日本文学の香りをふんだんに漂わせる唯一無比のロック・バンド、人間椅子。2019年に30周年の節目を迎え、通算21作目となるオリジナル・アルバム『新青年』を満を持してリリースする。新たな一歩を踏み出さんとする彼らを形容するのにふさわしいタイトルだ。バンド名の元にもなった小説の著者である江戸川乱歩が活躍した雑誌名の拝借というのが実に彼ららしい。

アルバムは〈新しい時代へ〉〈生まれ変わる〉と宣言するミドル・テンポのハードチューン“新青年まえがき”で幕を開ける。“鏡地獄”“屋根裏の散歩者”とまがまがしいタイトルの乱歩節が続くが、意外にもメロディックでフォーキーな歌が印象的で耳馴染みも良い。和嶋慎治の極めた世界観が垣間見える。対して鈴木研一の作風である“岩窟王”での仏教ドゥーム感、“宇宙のディスクロージャー”でのスペーシー感も健在。ナカジマノブ作曲・歌唱の“地獄小僧”は相変わらずノリが良くついつい口ずさみたくなる。

そして先人へのオマージュも大きな魅力。“いろはにほへと”のジューダス・プリースト風、“讀神”“月のアペニン山”のブラック・サバス風を聴けば、ロック通はニヤリとしたくなるだろう。加えて、過去の人間椅子の名曲を彷彿させるフレーズが聴こえるのは筆者だけだろうか。“天国に結ぶ恋”“盗人賛歌”“幽霊列車”“ダンウィッチの怪”など、聴き覚えのあるフレーズや曲展開が見受けられるのも30周年だからなのか、それとも考えすぎか。ラストの“無常のスキャット”では〈すべての明日に光を〉と歌われているが、このアルバムを聴くことによって、旧来の椅子ファンとロック通は、日本のロックの〈明日〉に光が灯されたと確信するに違いない。